廃墟へ向かう京子たちの背中を見送って、桃也は「情けねぇ」と自嘲する。
こんな時だからこそ仲間の能力を理解して采配を振るのが務めだと思うのに、うまく立ち回ることが出来ない。さっき彰人に『私情を混同させるな』と忠告されたばかりだ。
「桃也は良くやってると思うよ。さっきだって、ちゃんと綾斗くんに「ありがとう」って言えたでしょ? 成長してる」
「お前、俺で楽しんでるだろ」
「それは否定できないね。君の事見てると飽きないし」
「…………」
ムスリと黙る桃也に、彰人がにっこりと目を細めた。
けれど綾斗への本音を吐露して『お父さんみたい』と言われたのは、あながち間違いではなかった気がしてくる。本人と話して、妙に納得してしまった。
京子の指輪の事も、並んで歩く二人の距離が近く感じてしまうのも、些細な事ばかり気になって仕方がない。
久志の言う『時間が解決してくれる』は、まだ遠い先のような気がした。
「けど二人で行かせて良かったの? 確かに大勢で行くのは避けた方が良いけど、綾斗くんだってまだ本調子とはいかないでしょ? あの男に会えば、戦闘は避けられないよね」
「京子が負ける訳ねぇだろ? それでも危険だってのは分かってんだよ。だから俺が──」
「それは分かってるって言えないからね? 代替えが効く仕事をやる必要はない。君にしか出来ない事を選ぶべきだよ」
彰人が桃也の意思をきっぱりと否定した。
アルガスの次期長官だという肩書は想像以上に重い。現長官の宇波が『最前線に立てた方がいい』と言って後継者に桃也を選んだことには納得したが、命を賭けて戦うことが出来ないのなら、力なんて元からない方がと思ってしまう。
「少しは慣れてよ。長官としての振る舞いは、これからずっと君に付き纏う事だからね。誰も君に死んで欲しくないんだから」
「俺は死なねぇし、他の奴らにも死んで欲しくなんてねぇよ」
自分が死ぬつもりはない。そんな命に、今回はアルガスの命運がかかっている。
「慎重にね」と諭す彰人の視線に走り出したい気持ちを抑えて、「あぁ」とぶっきらぼうに返事する。
遠くにバイクの音が響いたのはその時だった。
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