目覚めた場所がどこなのかすぐに理解することが出来なかった。
意識を失っていた時間は数秒に感じるのに、視界には全く別の風景が広がっている。
椅子の背もたれにぐったりと身体を埋めたまま辺りを見渡して、京子はハッと飛び起きた。
「観覧車の中……? どうしてこんな所……」
そこに忍の姿はなく、ガラス越しには暗い空が見える。停止した観覧車の、それも頂上に近い位置だ。
さっきまで居た筈の廃墟は足元の大分先にあり、建物に飛び移れる距離ではなかった。
京子は「どうしよう」と頬を抑えて、記憶の最後を捻り出す。
戦いの最中、忍を追って建物に入り込んだ。2階で彼と話をしたところまでは覚えている。空間隔離の予兆が起きて、その後が思い出せない。
腕時計は九時前を示している。気を失っていたのは15分程だろうか。
ここまで移動させた理由は何だと考えて、記憶が途絶える寸前に聞いた彼の言葉が蘇った。
──『悪のボスにヒロインが捕まったら騎士たちは焦るんじゃないの?』
「どういうつもり?」
キーダーの動きを搔き乱そうとでもいうのか。
ホルスとアルガスの戦いは始まったものの、忍が最前線で戦っている様子はない。
傍観しているだけに見えてしまうその行動は、首長であるが故なのだろうか。
とりあえず怪我がない事と、綾斗の趙馬刀が手の中にある事にホッとして、京子は狭いゴンドラの中を見渡した。
特に気になる事はなく、窓からは東京の街を見渡すことが出来る。スカイツリーや東京タワー、『大晦日の白雪』の慰霊塔が映える夜景が綺麗だった。
ここから飛び降りるのは難易度が高いが、外側からロックされたドアを蹴破って外にさえ出ることが出来れば、ホイールを伝って地上に戻れるだろう。
京子は「よし」と立ち上がり、張り切ってドアノブに踵落としをキメる。
しかし、何故かビクともしなかった。ジンと跳ね返った痛みに眉をしかめた所で、ようやく違和感に気付く。
「あれ──?」
まるでドアノブが壁に据え付けられているように、ビクリともしなかった。
「えっ」と戸惑ってノブを両手で掴むが、僅かな動きさえ受け入れてはくれない。
戦闘の起きている筈の眼下が、やたらに暗い。
「まさかもう終わった……訳じゃないよね。これってまさか……」
耳の詰まるような静けさは、身に覚えがある。
もうとっくに外に居るとばかり思っていたが──
「まだ空間隔離の中なの?」
困惑の声が窓を白く曇らせた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!