北陸支部のキーダー・如月やよいが亡くなったという。
それが事実だと聞かされても、京子はすぐに受け入れる事なんてできなかった。
「ちょっと待って……冗談でしょ?」
さっきマサが久志に言っていた言葉を繰り返した。
朝朱羽から連絡を貰い、居なくなったやよいを久志が探していたのは知っている。
悪い予感を覚えなかった訳ではないが、他に理由なんて幾らでも想像できた。
「冗談でも嘘でもねぇ。外に倒れてたやよいを久志が見つけたらしい。アイツがやよいを間違える訳ねぇだろ?」
「外に倒れてたって……病気とかじゃないの?」
「向こうも混乱しててな、詳しい話はできてねぇんだ。けど外傷が多いみてぇだから、殺られた可能性は高いだろうな」
「そんな……」
「とりあえず上と話してくるから、お前たちは待機してろ」
苛立った重い空気を纏って、マサは部屋を後にする。
入口で鉢合わせした修司と美弦を「おい」と呼び止めた。いつになく落ち着きのない様子に、二人は「はい」と戸惑う。
「修司、お前の北陸行きは一旦保留な」
「え? 何かあったんですか?」
「説明は後だ」
それだけ言って、マサは足早に去っていった。
もう修司の北陸行きどころの話ではない。状況の読めない指示に、美弦も困惑して綾斗に説明を求めた。
「どういうことですか……?」
「やよいさんが亡くなったらしい」
「やよいさんが?」
思わず高くなった声に唇をぎゅっと結んで、美弦が「どうして」と声を震わせた。
「俺たちも詳細は分からないんだ。とりあえず修司の出発は延期だろうから、指示出るまで待ってて」
「……はい」
二人は不安顔を見合わせる。事実を受け止めきれず動揺を隠せない美弦に、修司が寄り添った。
京子はずっと握り締めていたマグカップを机に放すと、スマホを出してメール画面を開いた。やよいの事で何かあったら連絡すると朱羽に言っていたからだ。
けれど、文字を打ち込もうとした指がガタガタと震えて、スマホが手から床へと滑り落ちる。
カンと高い音が鳴って、京子は「ごめん」と謝った。
「大丈夫ですか?」
心配する綾斗に「うん」と首を傾げて、京子はスマホを拾い上げる。
「朱羽に何て言おうかなと思って」
「そのままで構わないと思いますよ」
「そうだよね」
誤魔化しても仕方のない事だ。
京子はマサに言われたままの短い言葉を打ち込んだ。
メールはすぐに既読マークがついたが、彼女からの返事はなかった。
代わりに、それから30分と経たぬ間に本人がアルガスに現れたのだ。
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