「君が女子だったら見逃してあげるんだけどね。残念、俺は男には厳しいんだよ」
ニコリと目を細めた忍が、「やろうか」と微笑む。
修司が構えた趙馬刀の出力は、いつもと変わらない程度だ。
過度な緊張に呼吸が乱れて、はち切れそうな息を吐き出す。
忍は人差し指を仰向けにクイと曲げて『来いよ』と修司を挑発した。
キーダーに勝敗など関係ない。絶対に勝てない相手だと分かっても、誰よりも先に前へ出ることが全てだ。
「行くぞ」と唱えて、修司は地面を強く蹴った。
頭、胴体、腕へと順番に狙って趙馬刀を振るが、何度やっても忍に触れることができない。スピードと余裕の身のこなしに対して、修司の方が必死に食らいついている状態だ。
「くそ」と足を狙うと、今度は忍の身体が宙へ飛び上がる。
彼が「無駄」と放った光は、修司の身長を超えるまでに膨れ、正面に飛び込んで来た。「うわぁ」と身をよじらせ、スレスレでかわして地面へ受け身を取る。
光がすぐ後ろに叩き付けられ、衝撃で飛び散った砂がバラバラと硬い雨を降らせた。
「恐ぇ」
修司は転がった趙馬刀に手を伸ばし、素早く体勢を立て直した。忍との間合いを一度広げたかったが、大きく後ろへ踏み込んだ一歩が頭を打った傷跡に響く。
「勘弁してくれよ」と修司は全身を踏ん張らせた。
松本と戦った時の繰り返しにはしたくないが、忍を相手に負ける事くらい考えなくても分かっている。
必死に繰り出した光が彼へ届く手前で虚しく弾けた。
颯太の言いつけを破ってテントを飛び出した罰だろう。後悔はしていないけれど、もし神様が居るのなら誰かに助けて欲しいと祈ってしまう。
「誰か──」
「もう負けた気で居るの? 始まったばっかりじゃん? 俺だって簡単に殺してやろうなんて思ってないよ」
頭が痛かった。
香水の匂いが迫って、修司はもう一度趙馬刀に力を込める。なけなしの力は、さっきよりも刃を大きくした。
「いくぞ」
飛び上がるように大きく踏み込んで、忍へ向けて刃を振り上げた瞬間、
「どけろよ修司」
背後から声がした。
大きな別の気配を纏って現れた人物に、修司は耳を疑う。
助けが来たなどと喜べるものじゃない。彼の放った光は忍との距離を離したが、修司はその相手をすぐに振り返ることが出来なかった。認めたくなかったからだ。
けれど相手はすぐ側にやって来て、修司を「大丈夫か?」と覗き込む。
「黙って寝てろって言っただろ」
「伯父さん……」
元キーダーの保科颯太が、銀環をはめてそこに居たのだ。
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