スラッシュ/

キーダー(能力者)田母神京子の選択
栗栖蛍
栗栖蛍

300 男には厳しいんだよ

公開日時: 2024年11月9日(土) 09:15
文字数:1,005

「君が女子だったら見逃してあげるんだけどね。残念、俺は男には厳しいんだよ」


 ニコリと目を細めたしのぶが、「やろうか」と微笑む。

 修司しゅうじが構えた趙馬刀ちょうばとうの出力は、いつもと変わらない程度だ。

 過度な緊張に呼吸が乱れて、はち切れそうな息を吐き出す。


 忍は人差し指を仰向けにクイと曲げて『来いよ』と修司を挑発した。

 キーダーに勝敗など関係ない。絶対に勝てない相手だと分かっても、誰よりも先に前へ出ることが全てだ。


 「行くぞ」と唱えて、修司は地面を強く蹴った。

 頭、胴体、腕へと順番に狙って趙馬刀を振るが、何度やっても忍に触れることができない。スピードと余裕の身のこなしに対して、修司の方が必死に食らいついている状態だ。

 

 「くそ」と足を狙うと、今度は忍の身体が宙へ飛び上がる。

 彼が「無駄」と放った光は、修司の身長を超えるまでにふくれ、正面に飛び込んで来た。「うわぁ」と身をよじらせ、スレスレでかわして地面へ受け身を取る。

 光がすぐ後ろに叩き付けられ、衝撃で飛び散った砂がバラバラと硬い雨を降らせた。


「恐ぇ」


 修司は転がった趙馬刀に手を伸ばし、素早く体勢を立て直した。忍との間合いを一度広げたかったが、大きく後ろへ踏み込んだ一歩が頭を打った傷跡に響く。

 「勘弁してくれよ」と修司は全身を踏ん張らせた。


 松本と戦った時の繰り返しにはしたくないが、忍を相手に負ける事くらい考えなくても分かっている。


 必死にり出した光が彼へ届く手前でむなしく弾けた。

 颯太そうたの言いつけを破ってテントを飛び出した罰だろう。後悔はしていないけれど、もし神様が居るのなら誰かに助けて欲しいと祈ってしまう。


「誰か──」

「もう負けた気で居るの? 始まったばっかりじゃん? 俺だって簡単に殺してやろうなんて思ってないよ」


 頭が痛かった。

 香水の匂いが迫って、修司はもう一度趙馬刀に力を込める。なけなしの力は、さっきよりも刃を大きくした。


「いくぞ」


 飛び上がるように大きく踏み込んで、忍へ向けて刃を振り上げた瞬間、


「どけろよ修司」


 背後から声がした。

 大きな別の気配をまとって現れた人物に、修司は耳を疑う。

 助けが来たなどと喜べるものじゃない。彼の放った光は忍との距離を離したが、修司はその相手をすぐに振り返ることが出来なかった。認めたくなかったからだ。

 けれど相手はすぐ側にやって来て、修司を「大丈夫か?」とのぞき込む。 


「黙って寝てろって言っただろ」

「伯父さん……」


 元キーダーの保科颯太ほしなそうたが、銀環ぎんかんをはめてそこに居たのだ。








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