「京子と居たらさ、最初に会った頃が懐かしいなと思ったんだ」
戦いを終わらせようという提案に京子が戸惑うと、忍が今度は話がしたいと言い出した。
一方的な彼に警戒を解く事も出来ないまま耳を傾ける。
彼と初めて会ったのは、ちょうど一年前の秋だ。あの時の事はよく覚えている。
──『ねぇ君、フラれたの?』
桃也がサードに誘われたと言って、キーダーを辞めようか迷っていた時だ。
電車に乗る彼を追い掛けようと意気込んだものの、実行に移すことが出来ないまま見送った東京駅で声を掛けられた。
「俺があの時駅に居たのは偶然だったんだよ。やたらに乱れた気配を感じて、バスクかと思って探してみたらキーダーだった。恋人にフラれそうになってオドオドしてるのが可愛かったし、異性なんて気にした事もなかったのに興味が湧いたんだ」
相手の様子を伺いながら、京子は自分の記憶を重ねていく。最初は彼の事をノーマルだと思っていて、正体を知ったのは少し後だった。
「ホルスには律以外の女子が居なかったし、彼女とはお互いに距離を置いていたから華が欲しかったってのもある。そんなの無理だろうとは分かってるつもりだったのに、二回目に君が駅に居る事を松本に聞いた時は、運命じゃないかって思ったんだ」
そして三度目は京子の隣に彰人が居て、忍は姿を見せなかった。
「私はホルスにはなりませんよ?」
「分かってるから、ハッキリ言わないでよ。胸が痛むだろ?」
「────」
ポンと自分の胸を叩く忍に掛ける言葉が見つからない。
怒りでも同情でもなく、戸惑ったまま京子は「忍さん」と問いかけた。
「これからどうするつもりですか?」
「どうする、って。終わりはもう見えてるだろ? 俺一人じゃどうにもならない。だからとりあえずやることはやらないとと思ってね」
「……やること?」
どういう意味か分からずに首を傾げると、忍はにっこりと笑んだまま話を続ける。
「さっきも言っただろ? この廃墟を使わせて貰う条件が更地にする事だって。終わる前に約束を守らなきゃならないんだよ」
「忍さん──?」
途端に頭が冷静になった。
ここを更地に──その言葉が表す手段が一つしか思い浮かばない。
そんな京子を察して、忍が唐突に「ごめんね」と謝った。
「さっき空間隔離の中に居たのは、休んでた訳じゃないんだ。体力を減らすためだよ」
「駄目ですよ、忍さん!」
白いハレーションがチラチラと光る──暴走だ。
必死の叫びは彼に届かない。
背後の三人が気配を発したのは分かった。
笑顔に寂しげな表情を垣間見せた忍が、強い光に飲み込まれた。
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