修司が顔を強張らせているのに気付いて、龍之介は不安を過らせる。
朱羽はガイアと戦うために暗闇の奥へ入っていった。公園に張られた規制線が絶対安全を謳う境界線ではないように、この場所に居ればという考えは軽率だというのか。
敵は多くても三人だと思っている。ガイアとシェイラ、それに銀次──けれどそれは、彼らの他に仲間がいないのが大前提での話だ。
銀次が飲んだかもしれない薬の出所も闇に包まれたままだ。陰に何か大きなものが隠れている気がして、突然湧いた恐怖に龍之介は肩を震わせた。
「ここで戦闘が起きないとは限らないですよね?」
「そりゃあな」
「朱羽さんは一人で大丈夫なんですか?」
「俺とお前で戦うよりは、よっぽど強いと思うぜ? 俺はあの人が戦ってる所を見たことが無いけど、京子さんは朱羽さんには敵わないっていうんだ。だから、俺たちが心配することじゃねぇよ」
──『何やっても京子の方がうまくできるから、自信無くして良く泣いてたわ』
前に朱羽がそんなことを話してくれた。だから、朱羽と京子はそれぞれ相手に同じ思いを抱いているらしい。
話に集中するのは良くないと思いつつも、会話しているだけで恐怖を和らげることができた。
「二人はずっとライバルなんですね」
「そうだな、俺も見習わないと……」
逆に修司は辺りを警戒しっぱなしだ。
張り詰めた緊張が伝わってきて、龍之介もノーマルなりにもう一度辺りの気配を探る。けれど、沈黙に響く風の音が頬を撫でていくばかりだ。
「修司さんもガイアの気配を感じてるんですか?」
「まぁな。それより、お前の友達がアイツらに変な薬飲まされたかもしれないんだろ? ノーマルが力を使えるようになるって本当なのか?」
「確証はないです。ただシェイラの口ぶりだと、そう考えざるを得ないっていうか」
そんなものを作り出せるとは思えない。仮にそうだと言われて銀次が薬を飲んだとしたら、身体への悪い影響ばかりを考えてしまう。
「ふぅん。けどいいのか、友達が敵になるかもしれないんだぞ? 戦闘になったら、そのオトモダチは死ぬかもしれない。そこでお前は最後まで俺たちの仲間でいれるのかよ」
「いれます」
龍之介は強く音にして、その言葉を自分にも言い聞かせた。
「朱羽さんにも聞かれました。けど、アイツの夢を繋ぎ止めてやれるのはノーマルの俺だと思うんで」
「夢ね。怪しい薬に手を出してまで、力が欲しいのかね」
「キーダーになりたかったんですよ、アイツは」
銀次はノーマルに生まれた事に劣等感を抱いていた。キーダーになれる薬があったら飲むと言った冗談が現実になるなんて、龍之介は思ってもみなかった。
困惑する龍之介を一瞥して、修司は短く溜息をつく。
「俺はずっとバスクだったけど、キーダーになりたいなんて思ったこと一度もなかったな。家がキーダーを毛嫌いしてた話はしただろ? うちのばぁちゃんと叔父さんが産婦人科医で、出生検査で陽性が出たのを隠されたんだ」
「俺の死んだ祖父もそうでした。けど修司さんはどうしてキーダーになったんですか?」
「そりゃあ――」
言い掛けた答えを飲み込んで、修司は表情を隠すように龍之介へ半分背を向けると、少し間を置いた後、恥ずかしそうに答えをくれた。
「美弦がいたからだよ」
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