「敵の大将、ちょっと慎重すぎない? 冷静ってのとは程遠いけどさ。次期長官だなんて持て囃されて、本来の自分を押さえつけてる感じかな」
桃也との戦闘を避けて、暗闇の中を移動してきた。気配を顰めて辿り着いたのは、巨大なショッピングセンターの裏手だ。
「総攻撃を仕掛けて来るかも、ってちょっと期待したんだけどな。彼も色々考えてるみたいだね」
「それが上に立つ人間の覚悟ってものだろ?」
「ヒデはあっちを擁護する気?」
「常識の話をしてるんだよ」
建物の向こう側では大人数での戦闘が繰り広げられていて、気配や音が鳴り止まない。
さっき忍がくりぬいた穴の真後ろは、砕けたコンクリートやら建物の残骸が方々まで散らばっていた。ズンと足元を軋ませる衝撃に、欠片がバラバラと音を立てて降って来る。
「初動で終わらせても良かったんじゃないのか?」
「そんなの勿体ないよ。折角ここを使わせてもらってるんだから、更地になるまで頑張って貰わないと」
「そんなの、俺かお前が暴走させれば一瞬だろ」
「お楽しみは最後に取っておくものなんだよ」
落ち合う約束をしていた訳じゃないが、松本がここにいる事に気付いた。
松本は建物の隙間から見える戦場を、ぼんやりと静観している。キーダーだった彼が、アルガスに対して何らかの感情を抱いているのは事実だろう。
丸くくりぬかれた壁の向こうで、白い光がパァンと炸裂した。数では圧倒的にホルスが優位だが、即席の能力者ばかりでは時間稼ぎにもならない。
「今、人が吹っ飛ばされたね」
屋上に溜まっていた気配が宙を降下していくのが分かって、忍は「愉快だ」と顔をほころばせた。
「ノーマルに力を与えるなんて、豚に真珠って事なのかもしれないね」
「今更何言ってんだよ。忍、お前は何がしたいんだ?」
「俺は一人で惨めに死にたくないだけだよ」
「道連れかよ」
松本は絶句して「お前らしいな」と眉をしかめる。
「褒めてくれるの?」
「褒めてねぇよ」
松本から若干の気配が滲み出ている。敵に気付かれるのも時間の問題だろう。
「バーサーカーの彼はまだこっち来てないみたいだけど、ヒデも温存しとくつもり?」
「ずっと待ってなんかいらんねぇよ」
「だろうね」
直前で飲んだ5錠の効果は絶大だ。松本をここで大人しくなんて、させてはくれない。
能力者にとって、戦いは本能だ。
「そろそろだな」
爛々と見開いた瞳を血走らせて、松本は「じゃあな」と忍へ手を振った。
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