テントから少し離れた駅のトイレを出てすぐの所だった。
京子はセーラー服姿の二人の少女を見つけて「どうしたの?」と声を掛ける。
この辺りは駅に配置された警備員以外、一般人は残っていない筈だ。警報を聞き逃したのだとしても、戦闘音が鳴り響くこの場所が警戒区域だという事は分かるだろう。
だが、そんな状況に怯える様子もなく、少女たちは京子の手首を一瞥し、ハッとお互いに寄り添った。
「貴女は……」
「キーダーの田母神です。避難指示は聞かなかったの?」
二人は黙ったまますぐに答えようとはしない。
京子から目を逸らし、チラチラと至近距離で目くばせを交わしている。
ロングヘアで華奢な二人は背格好も似ていて、同じ制服姿は双子のように見えた。
能力の気配はなく戦闘から逃げてきた訳でもなさそうだが、何か言い辛い事を隠しているのは分かる。
早く仲間と合流したい気持ちはあるが、二人をここに置いていくわけにはいかなかった。
「言えない事があるなら無理に話せとは言わないけど、ここはちょっと危険だから避難して貰っても良い?」
「それは……」
「今、うちの兵を呼ぶから安全な所まで移動してもらうよ?」
二人がバスクで気配を隠している可能性も考えて、テントへ連れて行く選択肢は選ばない。とりあえず護兵に誘導してもらおうとスマホを取り出すと、片方の女子が「待って下さい」と慌てて声を上げた。
「怪我しても構わないんで、ここに居ちゃダメですか?」
「駄目だよ」
ここを動きたくない理由が興味本位だけではなさそうだが、危険区域に放置するわけにもいかない。
「どうしてもって言うなら理由を教えて」
「…………」
「それなりの事を言ってくれないと、ここを離れる以外の返事はしてあげられないよ?」
「家に連絡しないって……約束してくれるなら……」
「家出でもしてきたの?」
家出というワードを口にして、京子はふと医務室で見た失踪のニュースを思い出す。
向こうで戦っているホルス側の人間は、その殆どが今回の為に寄せ集められた若者たちだ。全員が薬を飲むことで能力を得ていると思っていたが、気配のない二人もそこに絡んでいるのだろうか。
「もしかして、貴女たちも薬あげるからって誘われた?」
たちまち目を見開いた二人の様子が答えだった。
「やっぱり」と呟く京子に、二人は強く主張する。
「けど、私たちは飲んでいません」
「そうです。何もしていません!」
「どういう事──?」
状況が読めなかった。少女は再び「家に連絡しませんか?」を繰り返す。
「ハッキリと約束なんてできないよ。けど、私は言わない」
「──言わないで下さい」
少女は強く念を押して、ゆっくりと口を開く。辺りに響く轟音に声が小さく震えていた。
「あの人に帰れって言われたんです。私たちじゃ役に立たないからって──」
「あの人って……」
戦力として集めた相手にそんなことを言うだろうか。
それが本当だとすれば、相手は京子でも名前の分かる数人に絞られるだろう。
二人は躊躇うような顔で合図し、尋ねる前に答えをくれた。
「忍って人です」
「──だよね」
納得の答えに、京子は短く溜息を零した。
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