スラッシュ/

キーダー(能力者)田母神京子の選択
栗栖蛍
栗栖蛍

307 納得の答え

公開日時: 2024年11月23日(土) 08:53
文字数:1,261

 テントから少し離れた駅のトイレを出てすぐの所だった。

 京子はセーラー服姿の二人の少女を見つけて「どうしたの?」と声を掛ける。


 この辺りは駅に配置された警備員以外、一般人は残っていない筈だ。警報を聞き逃したのだとしても、戦闘音が鳴り響くこの場所が警戒区域だという事は分かるだろう。


 だが、そんな状況におびえる様子もなく、少女たちは京子の手首を一瞥いちべつし、ハッとお互いに寄り添った。


「貴女は……」

「キーダーの田母神たもがみです。避難指示は聞かなかったの?」


 二人は黙ったまますぐに答えようとはしない。

 京子から目をらし、チラチラと至近距離で目くばせを交わしている。

 ロングヘアで華奢な二人は背格好も似ていて、同じ制服姿は双子のように見えた。

 能力の気配はなく戦闘から逃げてきた訳でもなさそうだが、何か言い辛い事を隠しているのは分かる。


 早く仲間と合流したい気持ちはあるが、二人をここに置いていくわけにはいかなかった。


「言えない事があるなら無理に話せとは言わないけど、ここはちょっと危険だから避難して貰っても良い?」

「それは……」

「今、うちの兵を呼ぶから安全な所まで移動してもらうよ?」


 二人がバスクで気配を隠している可能性も考えて、テントへ連れて行く選択肢は選ばない。とりあえず護兵ごへいに誘導してもらおうとスマホを取り出すと、片方の女子が「待って下さい」と慌てて声を上げた。


「怪我しても構わないんで、ここに居ちゃダメですか?」

「駄目だよ」


 ここを動きたくない理由が興味本位だけではなさそうだが、危険区域に放置するわけにもいかない。


「どうしてもって言うなら理由を教えて」

「…………」

「それなりの事を言ってくれないと、ここを離れる以外の返事はしてあげられないよ?」

「家に連絡しないって……約束してくれるなら……」

「家出でもしてきたの?」


 家出というワードを口にして、京子はふと医務室で見た失踪しっそうのニュースを思い出す。

 向こうで戦っているホルス側の人間は、その殆どが今回の為に寄せ集められた若者たちだ。全員が薬を飲むことで能力を得ていると思っていたが、気配のない二人もそこに絡んでいるのだろうか。


「もしかして、貴女たちも薬あげるからって誘われた?」


 たちまち目を見開いた二人の様子が答えだった。

 「やっぱり」と呟く京子に、二人は強く主張する。


「けど、私たちは飲んでいません」

「そうです。何もしていません!」

「どういう事──?」

 

 状況が読めなかった。少女は再び「家に連絡しませんか?」を繰り返す。


「ハッキリと約束なんてできないよ。けど、私は言わない」

「──言わないで下さい」


 少女は強く念を押して、ゆっくりと口を開く。辺りに響く轟音に声が小さく震えていた。


「あの人に帰れって言われたんです。私たちじゃ役に立たないからって──」

「あの人って……」


 戦力として集めた相手にそんなことを言うだろうか。

 それが本当だとすれば、相手は京子でも名前の分かる数人に絞られるだろう。 

 二人は躊躇ためらうような顔で合図し、尋ねる前に答えをくれた。


しのぶって人です」

「──だよね」


 納得の答えに、京子は短く溜息を零した。






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