「お前は、あの男の居場所がわかるのか?」
ようやく口を開いた桃也が、苦虫を噛み潰したような顔で尋ねる。
居なくなった忍を探す手立てを考えようとしたところで、休んでいた綾斗が合流した。
「おおよその当たりは付いてます」
「流石だね」
感心する彰人の笑顔とは対照的に、桃也は「そうか」と淡白な返事を返すだけだ。
綾斗は松本との戦闘後暫くテントに居たが、あちこち破れた制服をピシリと整えてもうすっかり元気そうに見える。
「颯太さんに許可は貰ってます。松本さんのこと聞いたら休んでなんかいられなくて」
戦いが終わりを迎えようとしている。焦る気持ちはみんな同じだ。
少し疲れている感じは否めないが、例え無理矢理にでも颯太が良いと言ったのなら外野がとやかく言える話ではない。
綾斗は桃也に「戦わせて下さい」と主張した。
二人の間に燻ぶる確執は今に始まった事ではないが、一方的に機嫌の悪さを見せる桃也を見兼ねて彰人がピシリと窘めた。
「今はスネてる場合じゃないでしょ?」
「スネてねぇよ。ちゃんと仕事してるだろ?」
「けど……」と囁くように呟いて、桃也はばつの悪い顔で綾斗と目を合わせる。
「さっき京子が居なくなった時、来てくれてありがとうな」
「気にしないで下さい。仕事ですから」
「……そうだな」
淡々とした返事を返されて、桃也は逆に戸惑ってしまう。
綾斗は涼しい顔のまま「良いですか?」と話を戻した。
「あの男は空間隔離の中です。京子さんの時みたいに範囲を圧縮した狭い空間に閉じこもってるんだと思います」
「そう言う事だよね。僕だって空間隔離が使えたら中に入ると思うから。ただ、その位置を探るには僕たちじゃちょっと力不足だって話」
松本が亡くなり、律もアルガスが捕えてる今の状況で、忍に仲間と呼べる人はいるのだろうか。京子はさっき駅で会った二人の少女を思い出して、大きく頭を横に振った。
二人は忍に助けられたと言っていたが、だからといって同情して良い相手じゃない。
戦場に居る忍は死をも厭わないだろう。
ふと強めの風が吹いて、観覧車がキイと音を鳴らす。彼はまたあそこを選ぶのだろうか──そう思って高い位置のゴンドラを見上げると、綾斗が京子のすぐ側で「そこじゃないですよ」と断言する。
「あの男は建物の中です。大人数で行っても警戒されるだろうし、俺と京子さんで行かせて下さい」
綾斗の申し出に桃也は眉間の皴を深く刻む。
時間が止まったように黙り込んで、やがて「気を付けろよ」と承諾した。
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