──『私は修司と一緒に居たいんです』
世界のカレーとスイーツのバイキングを堪能した帰り道、美弦がそんな事をポロリと吐き出した。
バスク上がりのキーダーが北陸で1年間訓練するという予定が、やよいの死で先送りになって数ヶ月──場所を九州へ変えてと言う提案も、今度は佳祐の死で白紙に戻ってしまった。
1年の別れを覚悟した美弦にとって、そんな保留状態がストレスになっているのは傍から見ても良く分かる。
──『もうこのままホルスとの戦いが終わって、桃也さんが長官になれば制度も色々変わるんじゃないかって──そんな甘い事ばっかり考えてます』
『1年だけ』と言ったまま戻って来なかった桃也は、その考えにどんな反応を示すだろうか。
建前上『バスク上がりは1年の訓練』と言われているが、アルガスでは即戦力の確保を優先したいのも事実だ。
だから可能性がゼロだとは言い切れないが、「そうかもしれない」と安易な言葉を口にする事も出来ない。
──『美弦と修司、一緒に居られたらいいね』
『はい』と泣きそうになる美弦を本部に併設された宿舎まで送って、京子は綾斗に電話を掛けた。
このままマンションに帰ろうと思ったが、美弦の話を聞いて彼に会いたくなったからだ。
彰人と一緒だという居酒屋まで走って、久しぶりに酒を飲んだ。
ホルスとの戦いを忘れた、束の間の休息だった。
翌朝、自宅マンションのベッドの上で、淹れたてのコーヒーの匂いに目を覚ます。
リビングから聞こえて来るテレビ音は、今日が曇りだという天気予報を告げていた。
「綾斗?」
昨日の帰りは彼と一緒だった。
微睡んだ意識のまま身体を起こし、部屋の空気の冷たさにタオルケットを巻き付ける。
どうやら服を着る前に意識が飛んでしまったらしく、ゲスト用の毛布がいつもの布団の上に重なっていた。
声に気付いた綾斗が、「おはよう」と顔を見せる。見慣れた部屋着姿でベッドの端に腰掛け、京子をじっと覗き込んだ。
「寒くなかった?」
「うん平気。布団ありがとね」
いつも通りの彼に見えるが、何かを切り出すタイミングを計っているのが何となく分かった。
躊躇うような視線に不安になって、京子は「何かあった?」と彼の腕をそっと掴む。
「話すことがあるなら、話してくれて構わないよ?」
「京子……」
綾斗はハッと眉を上げて、昨日彰人と話した事を少しだけ説明する。彰人の突飛な提案は、京子が全く予想もしていなかった事だ。
「今日、彰人さんと一緒に安藤律の所へ行ってくる」
綾斗の覚悟に、京子は震えそうになる唇をぎゅっと噛みしめた。
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