アルガスの屋上を目掛けて加速する光を、軌道の先で受け止めるキーダーはいない。
念動力が追い付かず、浩一郎の張った防御壁と建物の装甲に命運を委ねてしまったのは事実だ。屋上の端に彼が立っているとは、地上に居る誰一人と思わなかった。
「駄目だ、宇波さん!!」
アルガス長官・宇波誠の姿をそこに見つけて、松本が悲鳴に近い声を上げながら三人のキーダーの制止を振り切って壁へと飛び上がる。
屋上の真下に触れた光はガガガと音を鳴らしながら外壁を巻き込んで上昇し、アルガスの上空でパアンと弾けた。
施設員の驚愕が響く屋上に宇波を探すが、爆煙が邪魔して下からは良く見えない。
砕けた壁の欠片が無数に雨を降らせる中を、松本が装甲を足場に駆け上がった。
「触れさせんよ」
大舎卿がその後ろを追い掛けて、壁に飛びく。
慣れた跳躍であっという間に松本と並んだのを合図に、護兵たちが松本を目掛けて銃のトリガーを引いた。確実に命中させるスナイパーの弾は、しかし松本の防御に阻まれ弾かれてしまう。
そんな二人を浩一郎と平野が真下から見上げた。
「速いな、勘ちゃん」
「俺たちは行かなくて良いのか?」
「いいよいいよ」
目の上に手を翳して、浩一郎は他人事のように手を振る。戸惑う平野に「大丈夫だよ」と自信あり気に胸を叩くばかりだ。
「上の事は上に居る人間に任せればいいんだよ。ここの人間は、それぞれに役割ってものがある。それに、ヒデちゃんは誠ちゃんに会いに来ただけだから」
「──はぁ?」
また内輪揉めなのかと平野は訝しんで、駆け上がる二人に溜息を零した。
「そんな顔するなよ。アイツを生かそうなんて思っちゃいないから。さっきヒデちゃんに勘ちゃんがホルスなのかって聞いただろ? あれが最後通告だ」
「面倒な奴等だな」
二人が屋上に到達する寸前で、大舎卿が更にスピードを上げた。壁を強く踏み切り、先に頂上へ下りる。
騒然とする屋上で、大舎卿は宇波の無事を確認した。素早く踵を回し、遅れた松本を仁王立ちで阻む。
松本を屋上に上げるつもりはないらしい。光を溜めた掌を首の横に掲げ、もう一度彼に同じ事を聞いた。
「お前はホルスの人間か? それとも──」
「俺はホルスの人間だ」
質問の途中で松本は言い切る。その答えを曲げようとはしなかった。
大舎卿は唇を真横に結んで「分かった」と答える。
「すまんな、ヒデ。アルガス長官に敵を近付ける訳にはいかんのじゃよ」
振り下ろされた手から、松本の胸元を目掛けて光が放たれた。
松本は抵抗しなかった。
足場を失った体が宙へ傾ぐのが見えて、浩一郎と平野が下で構える。
「無様だな」と浩一郎が笑った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!