直径十数メートルまで広がった光の球体が、建物をドンとくり抜く。激しい振動に足を踏ん張って、京子たちは目の前で起きた光景に息を呑んだ。
丸く円柱型に切断された壁の内側が剥き出しで、暗い空がその奥に覗いている。
崩れた破片は粉々になって地面に落ち、風に吹かれた残骸が辺りに塵の雨を降らせた。
警戒する京子を庇うように、修司がその背後に立つ。
「行儀の悪い連中ですまないね」
「まだ何もしていませんでしたよ? あの程度なら避ける事だってできたのに」
飄々とする忍から目を逸らし、京子は砂埃を払って暗い穴を見上げた。
建物に沸いた気配は明らかにこちらを狙っていたが、迎撃する余裕は十分にあった。有無を言わさぬ一発を叩き込んだ忍は、「何かあってからじゃ遅いんだよ」と腰に手を当てる。
建物に隠れているだろう幾つもの気配が、シュンと小さくすぼんだのが分かった。
攻撃の寸前で感じた勢いはもうない。幾つかの気配がゼロになった感じも否めない。ここからは良く見えないが、現場は過酷な情況だろう。
「へぇ」と彰人が腕を組んだ。
「だからって仲間や協力者を呆気なく殺すんだ。今の攻撃で三人死んでるよね? それとも自分の命が狙われる心配してるのかな」
「俺を殺したいと思ってる奴は居るだろうね。だからこそ躊躇はしないよ」
そういえば彰人と初めて戦った時も、似た光景を目にした事があった。
彰人もまた容赦なく、顔色一つ変えない。それなのに挑発的なセリフも、ポーカーフェイスのせいで日常会話のように聞こえてしまう。
もし本当に敵の大半が素人の寄せ集めなら、戦いにさえならないかもしれない。ただ、だからこそ予測できない状況もあり得るだろう。
京子がモヤモヤと頭の中を巡らせていると、忍が「よし」と改めて桃也に向き合った。
京子と背丈の変わらない彼からは、桃也の顔はだいぶ上にある。
「俺は別に戦いを長引かせようなんて思ってない。だから勝利条件とルールをある程度こちらで決めさせて貰っても構わないかい?」
「何だよ、言ってみろよ」
「大将がイライラするなよ。気が短い男は嫌われるよ? だから京子と別れたんじゃない?」
「はぁ?」
相手の情報量は計り知れない。
「一本取られたね」と笑う彰人に、桃也は「ふざけんなよ」と鋭い視線を飛ばした。
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