月夜の歌は世界を救う

あめくもり
あめくもり

90.また会いましょう!!

公開日時: 2024年4月8日(月) 18:30
文字数:1,692

 ライブハウスに着くと、オーナーさんが待っていた。春斗と駿太は昨日のうちに楽器の搬入を済ませていたらしく、私達はすぐに練習を開始した。コンテストで演奏した曲と、私達が何度も練習した流行りの曲を合わせて3曲。それから、校歌を演奏することにした。校歌は桃香の演奏で、私達3人とお客さんで歌うことにした。


 ライブ開始少し前になると、小さなライブ会場に同級生が集まりだした。小さなカウンターのある受付の前に立って、オーナーさんと一緒にみんなを出迎えた。春斗が学校で渡していたチケットはごく一部だったらしく、学生以外の駿太や春斗がお世話になった人たちもいると、このときに初めて聞いた。たった数曲のためにたくさんの人が集まってくれた。嬉しくて、溢れ出しそうな気持ちをぐっと飲み込んだ。桃香と手を取り合った。


「こんにちは」


 入ってきたのは、白いシャツと青いジーンズ姿の芹沢だった。


「ようこそ、今日のスポンサー」


 オーナーさんは笑って芹沢を迎えた。


 私は芹沢に思いっきり頭を下げた。


「どうしたの?」


「手紙読みました。私は就職を決めたのに、歌わせてくれてありがとうございます」


「僕は君のファンだからね。立場を利用して歌声を聴きたいだけかもね。じゃ、楽しみにしてるよ」


 芹沢は隣りにいた桃香にも声をかけてから、会場に入っていった。

 私達もオーナーに促されて、ステージ裏に回った。準備をして、みんなで円陣を組んだ。軽い気持ちで始めたバンドが私の人生を変えた。


「もう人も入ったし、時間になったから開演するよ」


 オーナーさんから声がかかった。私達は円陣の真ん中に手を重ねた。心地よい緊張感と期待の中、春斗が話し始める。


「このバンド楽しかったよ。また、じいちゃんばあちゃんになったときに、集まってやろうぜ。解散とかじゃなくてさ、好きなときに集まって演奏しよう」


 みんなが頷いて、大きく声を出して円陣は解かれた。

 私達はそのままステージに出て、ただただ楽しく演奏した。私が歌詞を間違えても、みんなが笑っていた。はしゃいだステージは、キラキラと輝いている。


「最後の曲になりました!みんなで歌いましょう」


 春斗が声を掛けた。が、謎のギターソロが始まったので全員がポカンとしている。桃香がキーボードの音を被せると、春斗がギターを置いた。


「校歌斉唱!!」


 会場から笑いが起きて、全然うまくない大声の校歌が響き渡った。ただただ力いっぱいの声で会場が埋め尽くされた。うまいとか下手とか関係なく、歌いたいエネルギーが人を感動させるんだと知った。ひとりでは生み出せない歌の力。歌にはいろんな可能性がある。嬉しくて、笑って泣いた。校歌を聴いて泣く日が来るなんて思ってなかった。けど、客席の同級生も笑って泣いていた。


「今日はありがとうございました。またいつか、4人でやります!卒業おめでとうございます!!また会いましょう!!」


 春斗が締めくくって、短いライブは終了した。

お客さんはスタッフさんに案内されて外に出ていく。私達もすぐに片付けを終えて、ライブハウスの受付に戻った。

 受付では、オーナーさんと芹沢が数人の大人と談笑をしていた。お礼を言って帰ろうとすると、その輪の中に研究所の人がいることに気づいた。


「那津、すごいよかったわよ」


 柚月さんが声をかけてくれた。隣にはトリコさん、音弥さん、それにカイさんまでいる。芹沢に誘われたと説明してくれた。

 心の底から楽しんだステージを見てもらえたことが誇らしかった。バンドのメンバーと、研究所の人、ライブハウスの関係者や、芹沢の関係者と軽く言葉を交わして、私達はライブ会場を後にした。

 メンバーと別れたあとも、春斗の「また会いましょう」の声が残っていた。これから先も私を支えてくれる言葉になりそうな気がしていた。

 帰り道ひとりになって、たくさんの人がいたから仕方ないけど、カイさんと挨拶くらいしかできなかったことを思い出した。顔は見れたけど、もっとちゃんと会いたかったなぁ。

 しかし、もうカイさんたちは研究所に戻らないといけない時間だろう。忙しい中、来てくれただけでも感謝しなきゃ。少しの寂しさを抱えて、暗くなった空を見上げた。


 


 




 



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