夜になって、桃香に電話が通じた。
私はベッドの上で寝転んで、桃香に昨日の電話のことを謝った。
本当のことは言えないので、急に外から知らない人の大声がしたので気になってしまったということにした。私の部屋の窓からは道路も見えるので、ギリギリ信じてもらえたに違いない。
急いで話題を変える。
「そういえば、今日、なんで学校休んだの?風邪でもひいた?大丈夫?」
「それがさぁ、春斗が昨日の曲聴かせたら、編曲するとか言い出してさ。朝までスマホ片手に、ずっと話してんの。信じられる?もう眠くて無理だったわ」
それで春斗も休んでいたわけか。納得。
「それで休んでたのね。大変だったね」
「それで私が寝てるのに今日も昼過ぎに連絡きてさぁ。あいつはいつ寝てるんだよと思ったね。だいたい私が当然学校休んでると思って電話してくるのもどうかしてるよ」
ひとしきり愚痴を聞いて笑った。
二人は本当に音楽が好きなんだな。
「ところで、那津さん。学校帰りに会ってた金髪のイケメンって誰?駿太が駅で見かけたって言ってたけど」
驚いて言葉が出ない。
言葉が出たとて、話せることがないし。駿太の見間違えだとごまかしても、すぐにバレる。
「もしもーし、那津さーん。聞いてますかぁ?」
「き、聞いてますよ」
「学校の最寄り駅でデートなんて大胆じゃない?しかも金髪イケメン」
なんか勘違いされている。どうすれば嘘をつかずに真実を隠せるか、本気で頭を回転させる。
よく考えてみろ。私は学校でもバンドの活動中でも私生活でも、桃香と一緒の時間が多いし、何かあれば話題にしてきた。桃香に隠れて男と会うなんて機会はない。つまり、デートじゃないなんてことはわかっているはず。
かといって、駿太に見られていたということは、道を聞かれただけなんていう嘘は絶対にバレる。嘘は逆にやましいことがあると言っているようなものだ。
どうする。どうする。どうする。
「イケメンというか、できれば関わりたくないような派手な人だったけどね」
ここまでは嘘はついていない。なんとか、私はあんまり関係ない・興味ないアピールをしてごまかす。
「で、誰なの?」
興味津々の桃香はこの話題から逃してくれそうもない。一か八か。
「なんか……母の知り合いで、娘の私の高校の話になって、下校時刻近いって聞いたからわざわざ学校まで迎えにきちゃったみたいなんだよね……お母さんも黙ってればいいのに、しゃべっちゃうからさ。あんなとこで待たれてびっくりしたよ」
母の知り合いっていうのは嘘だけど、あれだけ打ち解けていたんだから、説明上は知り合いでもいいはず。それに、あとは全て本当のことだ。
「ふーん?人間って、嘘をつくとき、口数増えるよね?」
納得していない様子。でも、8割真実だから信じてもらうしかない。
「嘘じゃないって」
「まぁいいけどぉ。彼氏だったら紹介してよね」
桃香が楽しそうに笑っている。
ムキになって否定するのも変なので、はいはいと軽く流して会話を終了した。
よりにもよって、駿太に見られていたとは。でも、なんで駿太がそのことを桃香に報告したんだろう。まぁ、二人で会話をしていて、見たから見たって言っただけで意味はないのかも。駿太は嘘をついたり、何かを企んで行動する人じゃないから、悪意はないはずだ。
ごろりと寝返りをうった。今日はもう窓を開けるのはやめておこう。
また誰かが来て寝不足になったら、私まで学校を休みたくなる。
長い夜に「おやすみ」と声をかける。カーテンを閉めて、いつもより少し早めに眠ることにした。
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