夢魔を浄化し終わったのが深夜2時だった。
窓から出て行ったみんなは玄関から戻ってきたので出迎えると、トリコさんだけが中に入らなかった。
「もう大型の子は出ないわよね。さ、私は寝かせてもらうわよ~。夜ふかしはお肌の敵ですからね〜」
あくびをして、トリコさんはそのまま行ってしまった。
「トリコさんは、俺達とはちょっと違う時間帯で生活してるから。本当は大きな夢魔が出なければ日付変わる前には寝てるんだよ。担当が違うからね」
音弥さんが説明してくれた。確かにトリコさんは夢魔を浄化しないし、家事などをしていると言っていたから、その関係で活動時間が違うのかもしれない。
「お肌の敵って言われても、私達には仕方ないわ。じゃぁ、私は那津に、ここでの生活を説明してくるわ。だから、カイと音弥で事後処理よろしく〜」
「わかった。では那津のことは柚月に任せる」
「了解」
柚月さんは、私に荷物を持つように言うと、そのまま外へと誘導した。
「さっきまで居た建物が研究所で、隣の建物はセカンドハウスって呼んでるけど、簡単に言うと寮みたいなものよ」
案内されたセカンドハウスの玄関も、研究所と同じように広々としていた。玄関を入ってすぐリビングがあった。大きなソファーと机が置かれている。床にはふかふかの白いラグが敷かれていた。
「一階は、右側に発明家のフィルさんと、カイ、音弥の部屋と左側にお風呂とトイレがあるわ。もちろん、お風呂とトイレは男女別よ。二階は、発明家の弟子の凛とトリコさんと私の部屋、それから空き部屋がふたつ。トイレもあるわよ」
柚月さんが説明しながら階段を上がる。
「右から凛、トリコさん、空き部屋が2つ、そして私の部屋よ。もしも那津がここに来るならば、空き部屋を使うことになるけど、今日は何があるかわからないから、私の部屋に泊まってもらうわ」
「みなさん、ここに住んでるんですか?」
「家に帰れない時だけ泊まる人もいるし、ずっとここにいる人もいるわ。部屋には鍵もついているから、自分の生活に合わせて使っているわね」
研究所は家からかなり離れた場所なので、私がここで働くのならば、セカンドハウスに泊まることになりそうだ。
そうなれば、まだ会ったことがない発明家さんが気になるのだが、日曜日までに会うことができるだろうか。
一通りの説明を聞き終えて、柚月さんの部屋にお邪魔した。
広い部屋に、クローゼットとベッド、小さな机がひとつとソファーしかない。
柚月さんがソファーを組み替えて、ベッドを作ってくれた。
お風呂から出て、寝る準備をしていると、柚月さんが話しかけてきた。
「私達は主に夜から仕事を始めて、眠るのが明け方になることが多いわ。慣れればどうってことはないし、休みもとれるけど……今までの生活とは変わってしまうから、本当にここで働くつもりなら、彼氏とかお友達には話しておいた方がいいと思うよ」
「か、彼氏はいません」
なぜか焦ってしまった。彼氏なんていたことがない。
「ごめん。ちょっとそんな気はしてたの」
柚月さんが笑った。
カイさんや音弥さんとの接し方でバレたのだろうか。なんか、見透かされたようで恥ずかしい。
「那津は、あなたの友達がなぜあんなに大きな夢魔になってしまったか、考えてみた?」
突然、柚月さんが話題を変えた。
「考えても、わかりませんでした」
「そうね。でも、夢魔の情報は記録して保管するから、明日、いろいろとわかると思うわ。カイと音弥はいろいろなことに気づいていたみたいだし。今日はもう、深く考えずに眠りましょう」
気になってはいたけれど、眠気の方が勝ってしまったので、柚月さんにこれ以上の質問をする気にはならなかった。返事をして、布団に潜り込む。
「起床時間は昼すぎくらいになるかしら。起こしてあげるから、ゆっくり休んでね」
柚月さんはそう言うと部屋の明かりを消した。
朝日が出る前に眠れてよかった。
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