5. 魔法士バディ
王都の裏路地にある怪しい喫茶店『ブラック・キャット』でオレとアリスは『クイーン』と名乗る情報屋と出会った。見た目は幼女なんだが、団長のグレンさんも失礼のないようにと言ってるくらいだから見た目で判断してはいけないよな。
とりあえずオレとアリスは早速、悪魔『ナイトメア』についての情報を聞くことにした。
「それじゃクイーン。情報を教えてもらえるか?」
「私。喉が渇いて、お腹すきました。ここまで急いできたので」
「は?」
それを聞いたアリスがオレに耳打ちしてくる。
「何か頼めと言うことじゃないですかアデル=バーライト」
オレは再びクイーンを見ると、すごい満面の笑みでこっちを見ている。したたかな女だなこいつ……。
「わかったわかった。注文するから話を進めてくれ……」
「やった!ありがとうございます!」
本当に嬉しそうにするんだもんなぁこの子。
そして数分後。
「ではごゆっくり」
テーブルの上には注文したものが並ぶ。
「んー美味しいです!」
と幸せそうな表情を見せる。確かに見た目に反してすごくいい食いっぷりだし、味にも満足しているようだ。
「それで……さっきの話だが……」
「あ、はい。ナイトメアですね。そうですね……まずは私が調べた現状報告からしますね」
そう言うと、『クイーン』は机の上に地図を広げて説明を始めた。
「この辺り一帯が奴らの支配地域になっているみたいです。今はまだ死者が出るような大きな被害は出ていないけど、それも時間の問題かも。しかもその支配領域は日々広がっています。」
「なるほど……」
オレは地図を見ながら呟いた。悪魔『ナイトメア』はその特性から夜にしか活動しないと言われてる。まぁ悪魔は大体そうだけどな。
「騎士団が動いているみたいですけど、原因が悪魔である以上はどうにもならない。むしろ犠牲者が増えるだけだと思います。それはあなたたち『レイブン』の方がよくわかってると思いますけどね?」
そうクイーンは言った。確かに彼女の言う通りだ。悪魔と戦うにはそれなりの準備がいる。そもそも一般の攻撃魔法も効果は薄い。
「それならこの地域を探るしかないか」
「そうですね。あのクイーン。ありがとうございました。」
そう言ってオレとアリスは席を立とうとした時だった。クイーンがオレたちを呼び止める。
「ちょっと待ってください。少しだけ私の話を聞いてもらえますか?」
「え?ああ、別に構わないけど」
クイーンは目を瞑り、深呼吸をして話し始める。
「私は昔、魔女に悪魔憑きにされました。もう20年以上前の事です。」
「え?悪魔憑き?」
「その当時はまだ、悪魔という存在の認知が乏しくて、気づいたら大分長い時間取り憑かれていた。それ以来ずっと私は悪魔の呪いに苦しめられてきました。」
「……」
「悪魔に取り憑かれた者は皆、悪魔と同じ考えや行動をとるようになるんです。それが自分の意思なのか、悪魔のせいなのかはわからないまま、ただ人を傷つけることしかできなくなってしまいます。」
「……っ!!」
アリスの体が一瞬震えたのを感じた。彼女にとって、悪魔とはトラウマそのものだろう。そんな彼女が動揺してしまうほどの衝撃的な内容だったが、それでも彼女は冷静さを保とうとしているようだった。
「でも私の場合は、『レイブン』当時のあなた方のような人に助けてもらった」
そう話す彼女の瞳はとても澄んでいた。まるで自分の過去を受け入れているかのように。え?20年以上前!?
「そして……私は発見が遅かった弊害で身体の成長が止まってしまいました。今ではこんな姿です。」
「……そ、そうか。」
なんと答えていいか分からず戸惑うオレの代わりにアリスが質問をする。
「あなたは今幸せなのですか?」
「……はい。こうして生きていられるだけで感謝しています。」
「なんでそんな話をオレたちに?」
「あなた方を気に入ったからですかね?そしてこの先、『レイブン』で活動をしていくなら、色々な決断を迫られる日が来ると思うから。その時は後悔しないようにして欲しいという願いですかね?」
クイーンは微笑みながら答えた。そのあとは軽く雑談をして、喫茶店をあとにした。
そして、帰り道。
「なぁアリス……」
「はい?」
「お前大丈夫か?」
「え?な、何のことでしょうか……」
明らかに動揺している。無理もない。あんな話を聞いたらな……。
「辛いなら忘れろなんて言わない。でもな……自分を責めすぎるなよ?」
「……余計なお世話です。」
そのあとは無言のまま、歩き続ける。すると一軒の店の前でアリスが立ち止まる。
「どうかしたか?」
「喉が乾きました。飲み物をおごってくださいアデル=バーライト」
「なんでおごりなんだよ?」
「本当は高級茶葉を使った紅茶がいいのですが、庶民のあなたにお願いしても仕方ありませんし、ここは我慢します。服をプレゼントしたのでそのくらいはバチが当たらないかと?」
「恩着せがましいなお前は。何飲むんだよ?」
アリスは無表情のまま、自分の飲みたいものを選んでいるようだ。
「早く選べよ。買ってくるから」
「もう選び終わってますよ?この当店おすすめのやつで」
オレは入り口の看板に書かれているものを見る。アリスが選んだ飲み物は意外なものだった。
「お前……これ炭酸だぞ?飲めるのか?」
「炭酸飲料が苦手なんですか?」
「そういう訳じゃないが、なんかお前らしくなかったからさ」
「どういう意味ですか?私の好みを知っているような口ぶりですね。もしかして私の事を好きなんですか?」
「違うわアホ。てか、普通に考えれば分かるだろ。お前、お嬢様なんだし」
「それ偏見ですよ。アデル=バーライト」
「はいはいそうかよ」
オレは適当に返事をして、店に入りその当店おすすめを買って、それをアリスに手渡す。アリスは飲み物を受け取り一口飲んだ。すると可愛い大きな目を丸くして、驚いた顔をしていた。
「どうした?不味かったか?」
「不味いと言うより、喉が焼けますね?劇薬かなにかですかこれ。」
「そんなわけないだろ」
本当にこのお嬢様は困るぜ。確かに炭酸飲料なんて飲む機会がないもんな。
「でも、案外美味しいかもしれませんよ?」
「無理すんなよ」
「無理なんてしてませんよ。でも……たまにはこういう刺激的なのも悪くないですね。」
そう言ってまた飲み始めた。その姿を見るとどこか微笑ましく思えた。やっぱりこいつは良い奴だな。普段は無愛想だけど、根は優しい女の子だ。だからこそオレはアリスを守ってやらなくちゃいけない。あの時そう誓ったのだから。
「アデル=バーライト。一つ言っておきます。今度の相手にはおそらく私の魔法を使うことになると思います。その……パートナーとして援護をお願いします。」
「……ああ。任せとけ」
こうしてオレはアリスと仕事仲間の相棒として誓いを交わすのであった。
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