33. 吸血王《ヴラド》
オレはエミリーとセリアと共に、王都の西の『ディアーナ』と言う新しいテーマパークに来ていた。アリスから連絡をもらい、このテーマパーク内に悪魔の魔力を感知したことを知る。そして今は人気のアトラクションのホラーハウスにいる。
しかし、途中の人形が襲ってきたり、中々出口にたどり着かないという状況に陥っている。しかもセリアのやつも見当たらない。一体どうなっているんだ?
「エミリー。オレから離れるなよ」
「うん……」
オレの言葉を聞き、素直に従うエミリーの手を握る。それにしても……これは完全に悪魔の魔力だな。間違いない。だが、いったい誰がこんなことをしているのか……。
そんなことを考えていると、突如として大きな扉の部屋の前にたどり着く。さっきはこんなのなかったぞ?! するとその扉はひとりでに開き始める。それと同時に部屋の中から大量の血しぶきが上がる。
「ひっ!」
「見るなエミリー。」
隣にいたエミリーが悲鳴を上げる。まあいきなり目の前の血だらけの光景を見せられたらそうなるだろう。こりゃかなりきついな……。
「大丈夫か?」
「うっ……うん。ありがとう」
エミリーを落ち着かせて部屋の中を見る。そこには全身血まみれになった人型の悪魔がいた。
「グフフフッ。また生け贄が来たか。これは『ドール』に感謝だな?」
『ドール』……その思考を出した瞬間オレの右腕とエミリーの左足は黒い槍で貫かれる。そしてそのまま床に倒れてしまう。
「ぐっ……」
「きゃあああっ!!ううっ痛いよお兄ちゃん……」
「エミリー!?」
オレは絶対領域を展開しその黒い槍の追撃を防ぐ。しかしエミリーはその一撃を受けて足を押さえながら涙を流す。オレはシャツを破り、エミリーを止血をする。くそっ……出血がひどい。早く医者に見せないと命に関わる。
「ほう。お前はなかなか頑丈そうだな。オレの攻撃に耐えられるとは……。ならばこれならどうだ?」
再び黒い槍が出現し、今度は連続で攻撃してくる。それを絶対領域で防ぎ続ける。このままじゃまずい……。
「お兄ちゃん……ごめんね……」
「エミリー。気にするな。お兄ちゃんがあいつを倒してすぐに病院に連れてってやるからな」
「ほう。面白いな貴様。オレを倒すだと?このヴァンパイアの王ヴラド様を。グハハッ!!」
ヴァンパイア……。吸血鬼の上位種か。厄介だな。とにかく今は時間を稼ぐしかない。そう思い、ひたすら攻撃を耐え続ける。
「無駄だぞ?貴様に勝ち目はない。大人しくここで死ぬがよい!」
「うるせえ!絶対に負けるかよ!」
「お兄ちゃん……もういいよ……私を置いて逃げて……」
「エミリー何言ってんだよ!」
「でも……私のせいだよ……。私がホラーハウスに行きたいなんて言ったから……」
「違う!悪いのは全部あの悪魔だろ!」
「クフフッ。兄妹愛というやつか。美しいものだな。だがいつまで持つかな?」
エミリーを見る。出血で呼吸が荒くなっている。顔も血の気が引いてきている。このままではいずれ死んでしまう。なんとかしないと……。
「もう終わりにしよう」
更に数を増やした黒い槍が襲いかかってくる。くそっ!なんとかしないと……。
「さあ死ね!その血を寄越せ!」
ここまでか……オレはエミリーを守れないのか……
「居ました!聖なる祝福弾!」
その時聞き覚えのある声とともに無数の光の弾丸が飛んできて、ヴラドを襲う。そして奴は後ろへと吹き飛ばされる。
「大丈夫ですかアデル先輩!」
「コレット!?エミリーを頼む!」
「逃がすか!まとめて貫いてやる!」
オレ達を助けに来たのであろうコレットの声を聞き、すぐさま指示を出す。するとそれに反応してヴラドが再び攻撃を仕掛けてくるが、オレは一歩前に出て絶対領域でその攻撃を防ぐ。
「早く行け!」
「はい!」
エミリーを連れ去ったコレットを追いかけようとするヴラドの前に立ちふさがる。エミリーだけはオレが守る。そのためにオレは『レイブン』になったんだ。
「チィッ……鬱陶しいやつめ……だがこれで終わりだ。その体貰うぞ?」
そう言うと奴の体は大きくなり始める。そしてその肉体が変化していく。腕は巨大化し、爪も鋭くなる。そして牙も生え、コウモリのような翼も現れる。その姿はもはや人間とは言えない姿になっていた。
「グフフッ。どうだ?これが本来のオレの姿だ。貴様の血を全て吸い尽くしてくれるわ!」
「醜いですね……」
「なっ……」
その瞬間。ヴラドの右腕が切り落とされる。
「きっさまああぁあ!!よくもオレの腕をぉおお!!」
「間に合って……はいませんでしたね。遅くなって申し訳ありませんアデル=バーライト」
「いや。アリス。助かったぜ」
「グフフッ。また新しい獲物が来たか。だが今のオレには勝てんぞ?」
「あなたがヴァンパイアの王?くだらない……」
アリスは冷たい目でヴラドを罵倒する。その言葉にヴラドの顔つきが変わる。
「貴様……我を愚弄するか……許さんぞ……許さんぞおお!!」
そう叫ぶと奴の傷口は塞がり、失ったはずの右腕が再生される。
「無駄なことを。弱いやつほど良く吠えます。さっさと『ドール』の居場所を教えなさい」
「『ドール』だと?何を言っている?」
「嘘はいけませんよ?私は『ドール』を知っているのですから。そしてその『ドール』によってあなたはここにいる」
「グフフッ……。フフフッ……。クハハハハハッ!!残念だったな!教えるわけ……」
「そうですか。なら死んでください」
アリスは右足を踏み込み瞬撃の剣姫を発動しヴラドを真っ二つにする。そして、いつもはオレの絶対領域があるが、今回は展開していない。アリスは距離感を掴めないのか、その勢いのまま壁を突き破る。
「……痛いです。足を痛めてしまいました」
「いやいや……。無茶苦茶だなアリス……オレの絶対領域を待てば良かっただろ?」
「……偉そうに言わないでください。展開するほどの魔力が残っていないのに。」
そう言いながら足を引きずりこちらに来る。アリスにはバレてるか……オレの魔力残量……。正直立ってるのもやっとだ。
「アデル=バーライト。肩を貸してください。歩けません」
「いや……オレもなんだが?」
「あなたは気合いで何とかしてください。ほら早く。切り落とされたいんですか?グズですね……」
「はい……」
結局オレは肩を貸す。アリスがすごく近い……。いい匂いがする……。別の意味でオレは今にも倒れそうだ……。
「なんですか?」
「こっち見るなよ!顔が近いんだよ!」
「もしかして何か期待してますか?残念ですがあなたとは何ともならないですが?というか私をそういう目で見ないでくれますか?気持ち悪い」
酷すぎる……ぐすん。
こうしてアリスたちが来てくれ、何とかヴラドを倒すことができたのだった。
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