18. 分からない ~アリスティア視点~
天井には豪華なシャンデリア。壁際には彫刻が施された本棚があり、その中にはたくさんの本が並べられている。そして部屋の中央にあるテーブルの上には、綺麗に飾られた花々がある。
そうここは公爵令嬢の私の部屋だ。毎日見ている見慣れた部屋。そこには孤独感など全くない。
それなのにどうしてだろう……とても寂しい気持ちになるのは……。
私はベッドから起き上がると、窓際へと歩み寄った。カーテンを開けて外を見ると、薄暗い空が広がっている。そのせいか少しだけ空気もどんよりとしているようだ。
「……今日も雨ですかね」
私は雨が嫌いだ。どうしてもあの時の事を思い出してしまう。いや……忘れてはいけない。私はあの時誓ったのだから。この罪を背負って生きていくと。
「支度しないといけませんね」
いつも通り王立魔法学院へ行く準備をする。と言っても着替えるだけだ。朝食を食べてから迎えが来るまでは本を読んでいることが多い。
馬車の準備が出来たらそのまま向かう。これがいつもの日常だ。でも最近は違うことが1つある。
今日も窓の外を見ていると、視界に見えてくる。あの冴えない私の相棒が。
「アデル=バーライト。おはようございます」
「あ?おう!ちょうどよかった!雨が降りそうだから乗せてくれないか?」
「……まぁいいでしょう。同じ空気を吸うのは嫌ですけど」
「一言余計なんだよ!」
アデル=バーライト。私のクラスメートで特殊悪魔討伐対策組織『レイブン』での相棒。最近は少しずつ話すことも増えてきた。まぁ私にとってはただの同僚だけど。
いつも通り彼は私の隣に座ってくる。それが当たり前になりつつある事にほんの少しだけ安心感がある。
「だから。なぜ私の隣に座るのですか?」
「言っただろ。オレは乗り物に酔うんだよ。嫌ならお前がそっちに行けよ」
「嫌とは言ってませんが?」
「じゃあいいだろ」
最近思うことがある。アデル=バーライトといるとなぜか調子が崩れると。本来ならば私が主導権を握っているはずなのに、いつの間にか握られているような気がする……何なんでしょうかこれは……。
そんなことを考えているうちに馬車が止まった。どうやらいつもの場所に着いたようだ。
「ありがとな。じゃあ先に行くぞ」
王立魔法学院ではお互いに干渉しない。それは私が言い始めたこと。だから学院の手前の路地でいつも彼は馬車を降りる。
……でもこの先ずっとアデル=バーライトの相棒でいるなら、もっと知りたいことが沢山ある。彼がどんな人なのか、どういう性格をしているのか。もっと知っておきたい。そうすればきっと今よりも彼の事を理解できると思うから。
「アデル=バーライト。待ってください」
「ん?なんだよ?」
今の私は彼に近づきたい、知りたいと思っている。彼と話をするとなぜか胸の奥がざわつく。こんな気持ちになったことはない。一体どうして……。
「あなたは……いえなんでもありません。また後ほど」
「おい!気になるじゃんか!アリス?」
そのまま馬車を走らせていく。どうして聞きたかった言葉が出なかったんだろう。私は彼を信用していないから?それとも他の理由?考えてみてもよく分からない。
「まぁいいです。アデル=バーライトの事なんて……」
私はそのまま窓の外を見る。馬車の中から見えた空は、曇り模様だった。
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