38. 公爵令嬢のカレー
オレとアリスは料理を作ることにする。あの時は口走って同棲とか言ってしまったが、これはキャンプと同じだ。オレは今1週間のキャンプに来ているだけだ。変なことは考えないようにする。とりあえず何を作ろうか。アリスに聞いてみることにする。
「何を作りたい?」
「そうですね。カレーライスというものを食べてみたいのですが、本に書いてあったので」
「よし任せとけ」
材料を用意して、まずは食材を切るか。ふと横を見ると包丁を構えたアリスがいる。まさか……。
「私が切りますよ」
「え?お前料理できないんだろ?」
「食材を切るくらいはできますが。私は毎日、刀を使ってますから」
包丁と刀は違うと思うのだが、まあ本人がやる気になっているならやらせてみよう。
トントントン……トントントン……
リズミカルな音が聞こえてくる。おぉ、意外にも上手いじゃないか。この調子なら安心して任せられるかもしれない。しかし、油断はできない。なぜならアリスだからだ。
「ん?おい待て待て!粉々に切りすぎだ!」
「こうですか?」
「違うって!もっと大きく一口サイズに……」
「一口サイズ……これくらいですか?」
「違う。それじゃさっきと変わらんだろ」
「うるさいですね。女性はこのくらいのほうが食べやすいんです。これ以上文句言うならあなたを微塵切りにしますよ?」
「……もういい。貸してくれ」
オレはアリスから包丁を奪い取る。そして食材を切っていく。危ないところだったぜ。こんな感じかな。あとはこれを煮込めば完成だろう。
「そのくらいのサイズなんですね。アデル=バーライト。少し勉強になりました」
パチパチパチと拍手が鳴る。アリスが感心した様子でこちらを見ている。
「なかなかやるじゃないですか。見直しましたよ。では次は私がやりましょう」
なんで上から目線なんだろうか……。アリスは鍋に水を入れ火にかける。しばらくするとグツグツといい音を立て始める。
そろそろいいか。ルーを入れてかき混ぜる。うん美味しそうだ。そろそろ味見をしてみるか。
「アリス味見してくれ」
「……毒見ですか」
「味見な味見」
オレはスプーンに一口分のカレーをすくうと、そのままアリスに差し出す。それをアリスは躊躇なく口に含む。なんだか恥ずかしいな。
「どうだ?」
「……喉が焼けますね?これも劇薬か何かですか?」
「ちげぇよ!普通の食べ物だよ」
少し辛いのかもな。もう少し甘くするか。砂糖を加えていく。甘いほうが好みの人も多いからな。これで甘めになったはずだ。
「ほら食ってみてくれ。今度は甘くしたから大丈夫だぞ?」
「いただきます……!?」
アリスの動きが止まり、いきなりオレの顔を見てくる。オレなんかしたか?
「どうした?」
「これが世に聞くあーんというやつですか。なんて破廉恥なことを……」
「さっきもやったが……」
「はい。だからあなたは破廉恥です」
なんて言いがかりをつけるんだこいつは。こっちだって意識しないようにしてたのに。そんなやり取りをしながらカレーは完成する。所々にいびつな具材が見えるが気にしない。きっとそれはアリスが作った証拠なのだから。
「じゃあ食べるとするか」
「はい」
2人で向かい合い手を合わせる。
『いただきます』
「うむ、美味しいな。これは我ながら上手くできたのではないか?」
「そうですね。中々悪くありません」
相変わらず素直じゃないやつだ。まあでも喜んでくれたようでよかった。2人は黙々と食べ続ける。訓練でお腹が空いていたのかあっという間に食べ終わってしまった。
「ご馳走様でした。食器は洗っておきます」
「ああ頼む」
アリスはテキパキと片付けを始める。いつもより動きがよく見える気がするのは気のせいではないはず。アリスなりに楽しんでくれてるといいんだけどな。
「たまには料理もいいですね。初めてでしたが中々楽しめました。家ではキッチンに立つことなんてありませんから」
「そうか」
「少し気に入りました。料理。」
「そんなに気に入ったならエミリーのほうが色々作れるし、お前が教えてほしいって言ったら喜ぶと思うぞ。なんかお前のことを気に入ってるみたいだし」
オレのその発言を聞いてアリスは驚いたような顔をする。
「……私をですか?」
「ああ。なんかお前には失礼のないように!ってよく言われる」
「あなたはいつも失礼ですけど」
「悪かったな……」
「ふふっ冗談です」
アリスはオレに笑顔を見せる。初めてかもしれない年相応に笑っているアリスを見たのは。それはオレに歩み寄ってくれているのが分かるからすごく嬉しい。オレはもっと色々なアリスの表情を見てみたいと思うのだった。
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