6. 悪夢《ナイトメア》
オレとアリスは情報屋と会ったことグレン団長に報告をし、クイーンに教えてもらった場所を中心に夜の巡回をすることにした。しかし『ナイトメア』の存在を確認することができないままだった。
そして、3日後。今日も普通に授業を受けている。これが本来のオレの仕事だからな。悪魔討伐は非日常で非常識だけれど、学生の本分である学業を疎かにするわけにはいかないからな。
いつものように昼休みがくる。オレは屋上でエミリーの作ってくれたお弁当を食べていると、扉が開かれて誰かが入ってきた。
「あ!いた!」
そう言って、トマトジュース片手にこちらに向かってきたのは、あの銀髪のツインテール。
「またお前かよ……」
「冷たいなぁ~この前は先生に呼び出されてあまり話せなかったじゃん!」
「なんでお前みたいに周りに人が集まるやつがわざわざオレみたいなのと話すんだよ?もっと他にいるだろう?」
「んー……アデル君って私のこと別に好きじゃないでしょ?私分かるんだよね。その人が私のことどう見てるかって。なんかそういう目で見られるの嫌だし、アデル君からはそんな感じしないからさ!」
まあ、確かに恋愛対象としては見ていない。ただ、こいつのことをよく知らないし興味がないだけなんだが……。
「はぁ。まぁいいや。お前の昼飯そのトマトジュースだけ?」
「うん!そうだよ!トマトジュースは美味しいよね~リコピン最高!」
「そっか。じゃあこれやるよ」
オレは愛しのエミリーが作ってくれた、サンドイッチを渡した。
「え!?良いの!?」
「ああ。まだいっぱいあるからな。遠慮すんな」
「やったー!ありがとう!!」
彼女は満面の笑みを浮かべながらサンドイッチを受け取った。やっぱり女の子には笑顔が一番似合うよな。
「そうだ!あのさアデル君。聞きたいことがあるんだけどさ」
「聞きたいこと?」
「アデル君って、アリスティアさんのこと好きでしょ?」
ぶふぉっ!!! オレは思わず飲んでいたお茶を吹き出してしまった。
「うわぁ!!汚いな~もう!!」
「げほっごほっ……いや、いきなり変なこと言うからだろ!なんだよ急に!」
「だって~分かりやすいんだもん!言ったじゃん!私そういうの分かるって。アデル君いつもアリスティアさんのこと見てるし」
マジ?無意識なんだが……アリスは仕事の相棒だから気になって見てしまっているのか……。
「見てねぇよ。誰があんな無表情女のことを気にするかよ」
「クールなだけだよアリスティアさんは。それに顔立ち綺麗だしスタイルも良いし。絶対モテてると思うけどね~。公爵令嬢だからみんな近寄りがたいとは思うけど」
確かに容姿端麗ではある。普段は表情を変えない。任務中も冷静沈着だし、たまに見せる笑顔も仮面のような作り物だ。オレ的にはもう少し柔らかい雰囲気を出してほしいのだが、彼女の過去を知っているし、性格上無理だと思う。
「とにかく、お前の勘違いだ。オレはあいつに興味なんて無い」
「ふぅ~ん……」
セリアはニヤニヤしながらこちらを見てきた。なんでこんなにも楽しげにしているのか理解できない。
「お前……なんか楽しんでないか?」
「え?楽しいよ?恋バナとか大好きだし。でも、アデル君のこと結構分かった気がするかな!」
「何を分かってんだよ?」
「それは乙女の秘密!」
こいつと話しても疲れるだけだな……。そんなこんなで昼休みは終わりを迎え、午後の授業を受け、いつも通り家に帰り夜を待つことにする。
「伊達メガネ……あいつダサいって言ったからな……やめとくか」
服装はラフなものにして目立たないようにする。『ナイトメア』が動くのは夜だ。夜まで待って行動を開始すればいいだろう。
今回はアリスの魔法を使うことになるだろう……。オレも出来るだけ援護をしないといけないよな。
そして夜。オレは『ナイトメア』が現れるであろう場所に向かうことにする。アリスにも連絡を入れておく。
「もしもし?今どこだ?」
《目的の場所の近辺です。あと10分ほどで到着します》
「わかった。気をつけて来てくれ」
《アデル=バーライト。先程私に連絡が来ました。巡回していた仲間が『悪魔憑き』に襲われたと。幸い対処は済んだようですが時間はあまりないのかもしれませんね》
「……そうか」
悪魔憑きとは、魔女の魔力で憑依させるか、近くにいる悪魔が強力で生物が負の感情を増幅させることによるものもある。それならこれは魔女の仕業か?いや、まだ判断するのは早い。まずはクイーンから聞いた場所に行かないとだな。数分後、アリスが到着した。
「お待たせしました。相手は危険です。ここは一緒に行動した方が良さそうですね」
「ああ。だが、あまり深追いだけはしないようにしないとな」
オレ達は目的の場所に向かって歩き始めた。しかし、いくら探しても人の気配すら感じられない。おかしい……なぜここまで人の気配がない。
「どうなってるんだ……?」
「分かりません。でも、警戒は怠らないようにしましょう」
「そうだな……」
しばらくすると遠くの方から悲鳴のようなものが聞こえてきた。どうやら動き出したようだ。オレたちは悲鳴があった方向へ走り出す。現場に到着するとそこには血を流し倒れている男性が一人。もう息はない。そしてそれを見下ろす一人の少女。
「誰?あなた達……」
「お前こそ、ここで何してる?」
「私はただ、散歩をしていただけ。なのに、この人急に襲ってきたの」
嘘だな。こいつはおそらく悪魔の力を授かった人間。その証拠にこいつの目には悪魔特有の濁った赤い瞳が宿っている。
「茶番はそこまでですよ『ナイトメア』おとなしく討伐されなさい」
アリスの言葉を聞いた途端、少女の体が震えだす。そして大きな声で笑い出した。
「ハハッ!アハハハ!!あんたらが私を狩る側だと?笑わせてくれるじゃない?私の方が強いのに。勝てるとでも思っているのかしら?」
「勝てるかどうかではありません。勝つのです」
「ふん!強気なのは良いことだけど、所詮負け犬の遠吠えよ。」
「私たちは特殊悪魔討伐対策組織『レイブン』。ここで『ナイトメア』あなたを討伐します」
オレとアリスは悪魔『ナイトメア』を討伐する。そう、これがオレたちの仕事だからだ。
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