31. 引っ掛かる
学院の屋上。オレとセリアの間に静寂が訪れていた。セリアが学院をやめる?何を言っているんだ、こいつは……。なんで急にそんなこと……
「……って冗談だけどさ」
「は?」
「あれ?もしかしてすごく心配してくれた?アデル君は優しいなぁ!」
そう言ってケタケタ笑うセリアを見てようやくからかわれたことに気づいた。
「……お前なあ!マジで焦っただろうが!」
「ごめんごめん!でも、トマトサンドを残して待ってくれるくらい、このお昼の時間を大切にしてくれてるのはすごく嬉しいよ」
「……」
いつものように笑みを浮かべながら話すセリアだが、その表情からはどこか陰りを感じる。
「それでさっきの話に戻るけど、私は学院をやめないからね。それに私にはやりたいことがあるし、それを叶えるためにはここが一番いいと思うんだよね」
「やりたいこと?」
「うん。それはまだ言えないんだけどさ。まあとにかく私はやめたりしないから安心してよ」
「別に。お前がやめようがオレには関係ないことだしな。ただお前がいなくなると教室が広くなるなって思っただけだ」
「ふーん。そういうことにしておくよ」
それから少しの間、お互い無言のまま時間が流れる。そして唐突にセリアが口を開いた。
「そうだ!あの話はどうしたの?」
「あの話?」
「デート。アリスティアさんとはするのに私とはしてくれないのかなぁ?」
いたずらっぽい顔をしながらこちらを見つめてくるセリアを見ていると、さっきまでの空気感が嘘だったかのように感じた。
「……どこか行きたいところでもあるのかよ?」
「うん!王都の西に新しいテーマパークができたじゃない?そこに行ってみたいと思ってたんだよね〜」
「ああ。そういえばそんな話をエミリーから聞いた気がするな。確か『ディアーナ』とかいう名前だっけか?」
「そうそう。それでさ良かったらエミリーちゃんも一緒にどうかな?トマトサンドのお礼もしたいし!実はチケットがあるんだよね3人分!」
セリアがポケットの中から取り出したのは確かに3枚のチケット。最初から行くつもりだったんじゃねぇか。というかこいつ本当に自由奔放だよな……。
呆れながらもセリアからチケットを受け取る。するとセリアは目を輝かせながら言った。
「やった〜!!じゃあ今週の日曜日だから忘れないようにね!!」
「ああ分かったよ。」
こうしてオレたちは次の日曜日に出かけることになった。
早速、家に帰りテーマパークのことをエミリーに伝える。エミリーも行きたがってたし。大丈夫だろ。
「どうだ?エミリーも行くだろ?」
「それって私も行っていいのかな?お兄ちゃんとデートなんじゃないの?2人で楽しんできたら?」
「いや、あいつはチケットを3枚持ってるんだよ。だから問題はないはずだぞ。お前にトマトサンドのお礼したいって言ってたし」
「そっか。でもさトマトサンドあげてるのはお兄ちゃんだよ?私は別にセリアさんのために作ってるわけじゃないし」
「それはそうなんだけどな……」
確かに最初はあいつが勝手にオレのトマトサンドを食べていたんだが、なんかいつの間にかあいつの分だとしていたな……。なんでこんなことになったんだろう。
「でもお兄ちゃんがそこまで言うなら行かないこともないかもね」
「本当か!?」
「うん。その日は空いてるから大丈夫だよ。私も行きたかったから楽しみだし」
「ありがとうな、エミリー。よし!そうと決まれば明日の放課後にセリアに報告しないとな」
するとエミリーが何かを思い出したように尋ねてきた。
「ねえ、お兄ちゃん。アリスティアさんは来ないの?」
「え?アリス?」
「うん。来ないのかなぁって」
「いやあいつはただの相棒だから。別にプライベートまで一緒にいる理由はないだろ」
「うーん。まあお兄ちゃんがそう思うんならそれでも良いけどさ」
「何言ってんだお前?」
「まぁいいけど」
不思議そうにしているオレを見ながらエミリーは呟いた。アリスはただの『レイブン』での仕事の相棒だ。それ以上でもそれ以下でもない。しかしエミリーの言葉がなぜかずっと引っ掛かるのだった。
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