40. 安心感
お決まりの展開とかはあったが特に何もなく一夜があけた。良かった微塵切りにされなくて。
「なぁアリス」
「なんですか?」
「お前って……いつもあんな感じなのか?」
「寝ぼけることは多いですかね。たまに目を覚ますと床に寝てることはあります。不思議です」
寝ぼけてるんだから何も不思議ではないと思うが……。まぁアリスは完璧だと思ってたけど、可愛らしいところもあるんだな。
「……何笑ってるんですか?気持ち悪い」
「なんでもない……」
「ところで。アデル=バーライト。本当に私に何もしてないんですか?記憶がありません。」
「記憶があるわけない。オレは何もしてないし、するわけないだろ」
こいつどこまでオレのこと疑うんだよ。いい加減しつこいぞ。
「……寝てる私の白い下着とか見ませんでしたか?」
「白?そんなもん見てねぇよ!大体水色じゃなか……」
「……ほう。白じゃなくて水色ですか。よく分かりましたね。見てないはずなのに」
オレは一瞬で汗が吹き出る。しまった!なんて単純な誘導尋問に引っかかってんだよオレは!くそっ。終わった。終わったわこれ。
「あ、いや、違くてだな。そのあれだよ。言葉のあやというか……」
「別に構いません。そのくらいは私も覚悟はしていますから。」
え?今のはどういう意味?まさかとは思うけど、そういう関係になったら責任取ってくれるよねみたいな話じゃないだろうな?
「さて。試し斬りをしたいので準備をしてください」
「それオレでじゃないよね?」
「当たり前です。別にお望みなら微塵切りにしますが」
「遠慮しておく」
「そうですか。では行きましょう」
結局朝飯食えなかったな……。そして準備をして訓練を始める。
そんなことを毎日繰り返していき、ついに山籠り特訓も最終日を迎える。
「うん。いい感じだ!できるようになって来たぜ!」
オレは今までの壁のような絶対領域ではなく、具現化して少ない魔力で魔法を発動することができるようになった。一番使いやすいのは盾型の魔法。これなら素早く発動できるし、なんかいい感じだ。
そしてアリスはいつもの居合い抜きから刀を振り抜き斬撃を飛ばすことができるようになっていた。
「これなら戦略も広がりますね」
「そうだな。この調子でいこう」
「はい」
そしてオレ達は最終日の特訓も終えた。なんだかんだで早かったな。それでも特訓をしたかいがあり、格段に強くなった実感はある。あとは少しアリスのことを知ることができた。相変わらず無表情だが。
「寝る準備が出来ました」
「おう」
「……今日は最終日です。何もしないでくださいよ?」
「やめろよ。フラグを立てるな」
「私はフラグを立てた覚えはないのですが」
「もういい。早く寝よう」
そして深夜。オレの身体は衝撃を受ける。その痛みで起きてしまう。
「ぐぇっ!?」
腹部に凄まじい痛みを感じながら目を開けるとそこにはアリスがいた。こいつ……わざとじゃねぇだろうな?
「おい。アリスお前のベッドは隣……」
そう言いかけたオレはアリスの顔を見て声をかけるのをやめる。
「……ルフレ……ごめんなさい……」
涙を流しながら謝ってくるアリスを見た瞬間に察した。こいつは何かを思い出して……。
そして無意識に優しく抱きしめると次第に泣き止んでいく。こういう時どうすればいいのか分からん。とりあえず背中をさすってみる。すると震えていた身体は次第に落ち着いてきた。
「アリス……」
しばらくするとスヤスヤと寝息を立てて眠ったようだ。起こさないようにゆっくりと離れて布団をかけてあげる。全く世話がかかるやつだ。
「……床で寝るか」
オレは再び眠りにつく。最終日に固い床で寝るとは思っていなかったけどな。アリスのベッドに行かないのは、アリスの匂いとか色々想像してしまうような気がしたからだ。
そして翌朝。
「おはようございます。アデル=バーライト」
「……ああ。おはようアリス」
「……どうして床で寝ているんですか?」
「……気にするな」
「分かりました」
それから朝食を食べ終えて荷物をまとめる。そして迎えの馬車がやってくる。
「では帰りましょうか」
「そうだな」
帰りの馬車。お互い話すことはない。しかしこれではいつも通り……何も変わっていない。このままでいいはずがない。だけど何を話せばいいんだ?分からない……こんなことは初めてだ。
「ありがとうございます」
「え?」
「特訓。私のワガママでお付き合いしていただいて」
「お互い様だろ?オレのほうこそありがとな」
「いえ。こちらこそ」
またお互い無言になる。けど今度は気まずさはなく、心地よい沈黙だった。
「アデル=バーライト」
「なんだ?」
「……今度あなたの家に行ってもいいですか?エミリーさんに料理を教えてもらいたいです」
「ああ。エミリーも喜ぶ。いつでもいいぞ」
「はい」
そしてオレ達を乗せた馬車は王都へと戻っていく。その道中は、またいつもと同じ沈黙が訪れる。しかしこれはいつもと違うような気がする。なんというかこう……安心感があるというか。不思議な感覚だった。
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