36. ありのまま ~アリスティア視点~
『ディアーナ』での吸血鬼ヴラド討伐から2日。私は計画を組んでいた。このままではルフレのような人を出してしまう。もっともっと強くならなければ。
今日の夕食は鴨肉のソテーと野菜スープ、パン。食事はいつも1人でとる。
「いただきます」
私は手を合わせてそう言うとフォークを手に取り、料理を口に運んだ。いつもと変わらず美味しい。
そう言えば私は料理を作ったことがないな。そんなことを考えながら食事を終え、自室へと戻る。そしてベッドの上に寝転がる。すぐに寝転がると身体に悪いらしいけど、今日くらいはと自分を甘やかす。
「山籠り……突発的に言ってしまいましたが、どうしたもんですかね……」
私は天井を見ながら考える。正直なところあまり気乗りはしない。しかし、強くなるためにはそれしか方法がない気がするし……。そして、ふとこの前のことを思い出す。
「無表情お化け……」
私はそんなに無表情なのだろうか。自分ではあまり意識していないのだけど。そう思いながらほっぺたを触ってみる。柔らかい感触と共にむにっという音が聞こえてきそうな感じで頬が伸びていく。鏡を見てみると、確かに少しだけいつもより目が開いているような気がする。
「これはいけませんね。もっと笑わなくては」
笑顔の練習をしてみようかと思ったけど、うまくいかない。口角を上げようとするとお腹の方まで上がってきそうになるし、目元に力を入れて笑ってみると顔全体が痙攣しているように見える。こんなにも自分の笑顔が下手だとは思わなかった。
「アデル=バーライト。彼もそう思っているのですかね」
アデル=バーライト。私の『レイブン』での相棒。最近は自分なりに心を開いているつもりではあるのだけど、それでもまだどこか距離を感じている。彼は私に対して遠慮をしているように思うのだ。だからなのか、彼の方から話しかけてくることは多くない。私が話しかけても最低限の言葉しか返してくれない。
「私が公爵令嬢だからですか……それなら」
私はあることを考える。やはり強くなるにはお互いを知ることも必要だと。山籠りで一緒に生活を共にしてみよう。そうすれば何かが変わるかもしれない。
正直、年頃の異性と1週間とはいえ生活をする。自分なりにかなり大胆なことをしようとしている自覚はある。
「……問題はありません。もしアデル=バーライトが何かしようとしても私のほうが速く動けますし……その時は切り刻むだけです」
私は誰もいない部屋でひとり呟く。それでも、もしそうなりそうだったら……私は立ち上がり大きな声で叫ぶ。
「いえ、大丈夫です!いざとなったら斬れば良いのです!」
私は自分に言い聞かせるようにそう叫ぶ。そうだ。もし彼に襲いかかられたら斬ってしまえば良い。そしたらもう悩む必要はない。私はベッドの上で横になりながら山籠りのことを考える。
「私の知らないアデル=バーライト……少しは興味ありますね」
不思議と心が弾んでいるような気がする。私はそんなことを考えながら眠りについたのでした。
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