32. ホラーハウス
そして時は流れて当日。天気にも恵まれ絶好の行楽日和となった今日、オレたち3人は王都の西にあるテーマパークへとやって来ていた。
「わぁ……すごいですね……」
目の前に広がる光景を見たエミリーが驚きの声をあげる。
中に入るとまず目に入るのは大きな噴水と花壇。中央にある広場では様々なイベントが催されており、老若男女問わず多くの人が賑わっている。さらに園内には様々な乗り物やアトラクションが設置されていて、さながらひとつの街のような様相を呈しているのだ。
「いらっしゃいましー!ご入園ありがとうございます!」
入り口で受付を済ませて園内へ足を踏み入れると、元気な声でキャストさんから歓迎を受ける。その笑顔に一瞬見惚れそうになるも何とか踏み止まり、園内マップを受け取ると早速アトラクションへと向かうことにした。
「ねぇねぇどこから行こうか?エミリーちゃんはどこから行きたい?」
「えっと……私こういうところ初めてなのでよく分からなくて……」
「そなの?大丈夫だよ!私が全部教えてあげるからねっ」
そう言うとセリアはエミリーの手を引いて歩き出す。正直この2人の組み合わせは心配していたのだが、意外にも上手くいってるようで安心した。
それからいくつかのアトラクションに乗り終えると、時刻は既に昼前となっていた。朝ご飯を食べてからまだそんなに時間が経っていないためお腹はそれほど空いてないのだが、これから更に混み合う時間帯に突入することを考えると何か食べておくべきだろう。
「ちょっと早いけど昼飯にするか?」
「じゃあ私買ってくるよ!」
「あっ私も行きますよセリアさん」
「うん!トマトジュースあるかな?」
2人は仲良く売店の方へ向かって行った。なんか姉妹みたいだな……。別に変な意味じゃなくてだからな。その時オレの通信魔法具が光だす。
画面を見ると『アリスティア=セブンシーズ』の文字だ。オレはそのまま通信をつなぐ。
「もしもし?」
《アデル=バーライト。今どちらですか?》
「今?王都の西にあるテーマパークに来てるけど、エミリーとセリアと一緒に」
《……デートしてたんじゃないんですか?》
「いや違うぞ!?ただ遊びに来ただけだ」
《……ふぅん。まあいいです。それで本題なんですが、何か変わったことはありませんか?》
「特にないけど?」
《実はそこのテーマパーク『ディアーナ』から悪魔の魔力を感知したみたいです。それも強力な。私もコレットも向かってますが、万が一の時はお願いします》
「……分かった。」
通話を終えるとセリアたちが戻って来る。
「どうかしたのアデル君?」
「いや別になんでもない」
せっかくの休みだし、エミリーに悲しい思いはさせたくない。それにセリアには『レイブン』の話はできない。そうなれば必然的にオレが出るしかないだろう。
「それより早くメシ食おうぜ。ここ混んでくる時間なんだろ?」
問題が起きる前にアリスたちが来てくれるといいんだが。
「ねぇねぇご飯食べたらあのお城に行かない?」
「あそこってホラーハウスですよね?少し怖いかも……でも行ってみたい!いいお兄ちゃん?」
「ああ」
楽しそうに会話する2人を横目にオレは食事を口に運ぶ。さっきまで美味しかったはずのハンバーガーが何故か味気なく感じた。
「うわぁ~すごい大きいね~」
「ほんとですね……」
昼食を終えてからしばらく経った頃、オレたちはパーク内の名物でもある城へとやって来た。外観ももちろんだが、中に入るとまるで本物の城の中にいるような気分になる。
このディアーナ城は巨大な城を模った建物で中身はホラーハウスになっている。子供だけでなく大人でも楽しめる人気スポットとなっているらしい。
「じゃあ入ろうか」
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だ。手を繋ごうエミリー」
セリアの言葉に2人で返事をして扉を開ける。内装もまた凝っていてとても綺麗だ。そのまま進んでいくと大きな部屋に出る。どうやらここでストーリーが始まるようだ。
すると突然壁が動き出し隠し通路が現れる。セリアは怖がりながらも先頭を進んで行く。その後を追うようにオレたちも進んだ。
そして次の瞬間── ガシャンッ!! 天井が落ちてきて道を塞がれてしまう。
「きゃあああっ!!」
「大丈夫だよエミリーちゃん!ほらこっちに出口があるよ」
その時、照明が落ちる。それと同時に部屋の至る所に設置されていた人形が一斉に襲いかかってきた。
「ひっ!?」
「大丈夫だ。ただの仕掛け……」
そう言いかけた時だった。人形の一体がこちらに向かって飛びかかってきたのだ。咄嵯にエミリーを庇いながら拳で殴りつけると、人形は粉々になって床に落ちていった。
「……大丈夫かエミリー」
「お兄ちゃん……」
その後も次々と襲ってくる人形たちを相手にしながらなんとか出口へと向かう。くそっ何なんだよこれ?やがて最後の1体を倒した直後、再び明かりがつく。
「ん?あれセリアは?」
「いない……先に行っちゃったのかな?」
オレはエミリーの手を握って走り出す。しかし進んでも進んでも出口にはたどり着かない。まるで何かの『魔法』にかかったかのように。
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