15. 大蛇美女《エキドナ》
翌日。オレはアリスとの約束の時間の前に裏路地にあるアイテム屋『リリィ・ガーデン』に向かい、エキドナ討伐に役に立つ魔法具がないか聞いてみることにする。
「はぁ?女に惚れない薬?男が好きってこと?何あんたそういう性癖なの?」
「違う!オレは普通に女の子が好きだ。今度の悪魔はエキドナで男を魅了するらしいから、対策になるものが欲しいんだ」
「ああエキドナね……ふーん……まあ確かに必要かもねぇ……」
カタリナはオレの顔も見ずに何かを調合しながら話の受け答えをしている。冷たすぎませんかこの店主?一番のお得意様ですよオレは?
「おい。オレの話を真面目に聞けよ!」
「聞いてるわよ。あんたモテなそうだしエキドナも魅了しないんじゃない?」
どこかの公爵令嬢と同じこと言ってやがるよこいつ。というか客商売としてどうなんだこれ。こんな態度じゃ売れるものも売れなくなるぞ。
「とにかく、そのエキドナって悪魔の魅了を防ぐ効果のあるものはあるのか?」
「あるけど高いわよ?金貨1枚」
「高っ!?」
「だから言ったじゃない。それにそんなもの使わずとも大丈夫だと思うけど?」
「いや、万全を期したいんだよ。頼む!買わせてくれ!」
「う~ん……分かったわよ。はいこれあげる」
そう言ってカタリナは小さな小瓶に入ったピンク色の液体を渡してきた。なんかヤバそうな色なんだが……?
「これは?」
「それは惚れ薬よ。試作段階だけど。」
「いやそうじゃなくてオレはエキドナの魅了を防ぐ魔法具をだな……」
「うるさいなぁ分かってるわよ。これが魅了を防ぐお守り。それでアデルには協力してほしいんだよね。その薬が本当に効くかどうか。確か相棒さんは女の子だよね?」
「はぁ!?なんでだよ!」
「だって私だけならいざ知らず、他の子にも試してもらわないと分からないじゃない?別にあんたが飲んでもいいし」
「お前ほんといい性格してるな……」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
こうしてオレは無理やりカタリナの実験台になることになってしまった……。一体どんな味なのか想像しただけで吐き気がしてくる。
「それじゃあ早速飲むわよ。はいあーん」
「え、ちょっと待て!心の準備が……むぐぅ!」
問答無用で口に突っ込まれた。甘いような苦いような酸っぱいような変な味だった。喉越し最悪の飲み物なんて飲んだことがないから表現が難しい。そしてすぐに体に変化が現れた。
「……あれ?なんだか体が熱いぞ?」
「おお!成功かな?」
「うおっ!な、なんだこの胸のドキドキ感は!?まさか惚れ薬の効果か!?」
「そんじゃデート頑張ってきてね~」
そしてオレは昨日言われた通り、例の場所に来ていた。時刻は夕方の6時前。待ち合わせの時間より少し早めに着いた。またギリギリに行くと文句を言われるだけだからな。すると目の前には見覚えのある姿があった。
「ようアリス。早いな」
「時間通りですが?」
今日は落ち着いた雰囲気のドレスっぽいワンピースを着たアリスがいた。今日も可愛いな。というか普段と違って化粧をしてるせいか大人っぽく見える。正直直視できないほど魅力的に見える。これが惚れ薬の力か……。まぁ腰に差している刀は見なかったことにしよう。
「夜まで時間がありますね。アデル=バーライト。夕飯を食べませんか?奢ってあげますから店はあなたが決めてください。」
「これデートの練習なんだよな?セリアはそんなこと言うか?これじゃお前とデートしてるみたいなんだが……?」
「私はただ練習相手として来ています。勘違いしないでください。それとも私のことを異性としては見られませんか?」
「べ、別にそういうわけじゃないんだが……」
カタリナの惚れ薬のせいなのか、今日のアリスは妙に可愛く見えてくるんだが……。
「ほら早く行きましょう。時間は有限ですよ?」
「ああ……」
こうしてオレたちはレストランに向かったのだが、道中の会話が全く続かない。もちろん食事中も大した会話も出来なかった。いつもなら気まずくて沈黙が続くはずなのに、何故か今はとても心地よい気分になっている。
「さて、そろそろいい時間です。中央広場にある大きな時計台に戻りましょう」
「そうだな。もう暗くなってきたしな。エキドナが動き出す時間だな」
オレたちが中央広場の時計台の近くに戻ると、そこには大勢のカップルがいた。時計台はライトアップされ、幻想的な空間が出来上がっていた。
「綺麗ですね。人気なのが納得です。」
しばらく二人で眺めていたが、周りにいる恋人たちのイチャイチャしている声が大きくなっていくにつれて、オレたちの間に流れる空気はどこか重くなっていく……。気まずい……。しかもなんか……ボーッとしてきたような……
そんなことを考えているといきなり左腕に柔らかい感触を感じた。驚いて横を見ると、アリスが腕を絡めていたのだ。
「はぁ!?おま……」
「静かに。意識を持ってかれますよ?」
「え?」
「周りの人たちの様子を見てください」
そう言われて辺りを見回すと、みんな目が虚ろになっていた。これはもしかして魅了されているのか?
「どうやらこの魅了は魔力で相手を魅了する類のもののようです。私たちには効いていませんが、普通の人なら簡単に術中にハマりそうです」
それからしばらくすると、どこからか声が聞こえてきた。
『ワタシヲミテ』
その瞬間、辺り一面に白い霧のようなものが漂いだした。その霧に触れた人々は、どんどん倒れていく。
「アデル=バーライト!来ますよ!」
そして現れたその姿はまさに美女と呼ぶに相応しい容姿をしていた。肌は白く髪は赤く目は金色に輝いていた。その顔を見た男は皆魅了されてしまうだろう。
しかし、下半身は大蛇で上半身は女性という、人間の女体と大蛇が融合したかのような姿をしていた。
やっぱりカタリナの魔法具をもらっておいて正解だった。
「あら?そこの坊やはワタシの魅了が効かないみたいね?」
「お前がエキドナか?」
「ええ、いかにも。ワタシがエキドナ。あなたみたいな抵抗する子は好きよ?骨の髄まで愛してあげるわ?」
「残念だがお前に用はない。オレたちは特殊悪魔討伐対策組織『レイブン』。ここで『エキドナ』お前を討伐する」
こうしてオレとアリスは戦闘態勢に入るのだった。
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