【最強の剣×盾 魔法士バディ誕生!】絶対領域と瞬撃の剣姫

夕姫
夕姫

19. 遺言請け負い人

公開日時: 2022年7月25日(月) 18:00
文字数:1,787

 19. 遺言請け負い人




 王都の東の平原を走る1人の男。その男は人間ではない。いや人間ではなくなったと言うべきか。彼は悪魔憑き、人間としての自我が失われ、完全に悪魔と化していた。


「ちっ! クソが!!何なんだ一体!」


 彼は怒りを隠さずに呟く。彼の体には無数の傷があり、血が流れ続けている。


「こんなハズじゃなかった……せっかく人間を乗っ取ったのによぉ!」


 彼も元々は普通の人間だった。だが今はもう違う。彼は人間から悪魔へと堕とされた……。もうただの人ではないのだ。


「まだ死ねない……『ドール』様のために……」


 その瞬間。男の左足は光放つ弾丸で撃ち抜かれる。


「ぐぁあああ!?」


 突然の出来事に混乱する男。そして声の主はゆっくりと近付いてくる。


「悪いですけど、あなたを生かしておく訳にはいかないんですよね〜」


 そう言って現れたのは仮面を被った人物。仮面からはみ出ている髪の長さ、その声色からして女性だろう。


「お前は何者だ!?」


「あたし?正義の味方です」


 そういうとその女性は持っていた銃でその男の右足、右手、左手と順番に撃っていく。


「うわあああ!!」


 痛みに耐えきれず悲鳴を上げる男。


「痛いですか?でもですね〜あたしの方がもっと辛いんです。」


 今度は彼女の銃口が火を吹き、男の腹を貫く。


「ガハッ……!」


「さよなら。今楽にしてあげますよ」


 彼女はそう言うと、最後に男の頭に銃弾を撃ち込んだ。


「安心してください。この、そのまま悪魔ごと葬りましたからね。これで被害はでませんから。」


 そして彼女はカバンから手帳を取り出し、そのページをペラペラとめくる。


「えっと次の依頼人は……」


 手帳を確認しそのまま歩き始める彼女。その背中はとても小さく見えた……。








 そんなことが起きていた次の日。オレはいつも通り学院の授業を終え、今日はそのまま『レイブン』本部に向かうことにする。


「ごめんなさいねアデル君。いきなり呼び出して。団長は今、席を外してるから私が説明しますね」


 そう言って資料を準備するネージュさん。ちなみにアリスはこの前のエキドナ戦の傷を療養中で今日はいない。なら今はオレとネージュさんだけか。2人きりは少し気まずい……。


「なんで気まずいのですか?初対面じゃないですよ?」


 いや、大人の女性と話す機会なんて滅多に無いんで緊張しますって……。


「ふーん、そうなんですか。可愛いですねアデル君は」


「あのオレの心の声と会話しないでください」


「ふふっ。つい癖でね。でも今のアデル君なら何を考えているか魔法を使わなくても分かりますよ?」


 これが大人の女性か……。恐るべしネージュさん。


「とにかく説明を始めましょうか。まず今回の任務についてだけど……いつもとは違う任務なんです」


「いつもと違う?」


「ええ。あなたたちには今回悪魔憑きを討伐している人物を探してほしいんです」


「え?悪魔憑きを討伐している人物?レイブンの仲間じゃなくて?」


「そうなんです。単独で悪魔憑きを討伐している。かなり危険ですし、悪魔と戦えるだけの人物なら私たちの仲間にしたいというわけです。」


 つまりスカウト目的でその人物を探し出せと言うわけか。そのままネージュさんは話を続ける。


「そしてその人物は特定の悪魔憑きだけを討伐している。」


「特定の悪魔憑き?」


「はい。……もう何年も取り憑かれている、または強力な魔力にあてられ自我を失った、もう手遅れの悪魔憑き。その人物は『遺言請け負い人』と呼ばれています」


「『遺言請負い人』……」


 ずいぶん大層な名前だな……アリスが聞いたら『遺言請負い人?ダサすぎですね。自分を正義の味方かなんかと思ってるんですか?』とか言いそうだな……。


 まあそれはともかくその人物が悪魔憑きを倒して回っているということは分かった。しかしまだ疑問が残る。それは何の目的でそんな危険なことをしているかだ。そうオレが考え込んでいるとネージュさんはそれを察したのかこう言った。


「そう思ってコンタクトを取っておきましたよ。この前の喫茶店『ブラック・キャット』で待ち合わせです。」


「はい?」


「向こうもアデル君とアリスちゃんを気にいってるみたいですから。早速向かってください」


「あー。『クイーン』ですか……分かりました。すぐに向かいます。」


 こうしてオレは『遺言請け負い人』の情報を聞くため、喫茶店『ブラック・キャット』で待ち合わせしているクイーンの元に向かうのだった。

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