7. 瞬撃の剣姫《イモータルブレード》
アリスは刀を抜く。するとナイトメアはその鋭い爪で飛びかかってくる。
「くっ……」
なんとかその攻撃を刀で受け止める。しかし、力が強すぎて押し負けそうになる。ナイトメアはもう片方の手をすかさずアリスに向かって振り下ろす。
「……!」
アリスはとっさに後ろに跳んで回避する。だが、着地した瞬間に今度は右足を振り上げる。
ガキンッ! それをアリスは刀で防ぐが勢いまでは殺しきれず、後方に吹き飛ばされてしまうがオレが援護しなんとか踏ん張って耐えた。
「大丈夫か?まともに当たれば大怪我じゃ済まないな。……ん?」
その時オレはあることに気がついた。
「おいアリス。お前左腕から血が出てるけど大丈夫なのか!?」
「問題ありません。かすっただけです。この程度の傷ならばすぐに治せますので。それよりも今は目の前のことに集中してください。」
「あ、ああ悪い。」
確かに今は戦闘中だ。集中しないとな。こいつは本当に頼もしいが、無理しすぎなんだよな。まぁオレが攻撃出来ないのが悪いんだが……。その赤く滲んだ腕を見ると心が痛くなる。
「ちぃ!ちょこまかと鬱陶しい奴ね!これで終わりにしてやる!」
「来ますよ!アデル=バーライト!」
アリスの声を聞き前を見る。そしてナイトメアが勢いよく振り下ろしてきた爪を避けようとした瞬間、突如として地面に魔方陣が展開され黒い刃が現れた。
「しま──」
避けられないと思ったオレは咄嵯にアリスを突き飛ばして庇う。もちろん絶対領域を発動する。その刃はオレの魔法で弾かれる。しかし発動が遅かったのか完全には防ぎきれず右腕に切り傷を負ってしまう。
「つぅ……」
「アデル=バーライト!なにやってるんですか。私のことなんか気にせず自分の身を守ってください。」
「うるせぇ……。オレにも譲れないものがあるんだよ……。それにお前が傷つくところを見たくないんだよ。」
「そんなこと言われても嬉しくなんかないですし、そもそも私はあなたの所有物じゃありません」
そうアリスは無表情のまま、少し頬を膨らませて言った。そんなアリスを見たオレは笑ってしまう。
「フッ……ハハハ」
「何笑ってるんですか。気持ちの悪い。」
「いやなんでもないよ。ただ……お前が無事でよかったと思ってな」
「……バカですか?」
「かもな」
ほんと可愛いげのない女だな。だけど不思議と嫌いじゃないんだよな。むしろ守ってやりたいと思うくらいには信頼してる。オレがそう思っているとナイトメアはこちらを見て口を開く。
「あんたら余裕ぶってるみたいだけどいつまで持つかしらね!」
「さぁな。少なくとも今はまだ倒れるわけにはいかないんでな。」
「あらそう。なら倒れてもらうわ!私のためにね!!」
そう言ってナイトメアは再び襲いかかってくるがアリスは素早い動きでそのまま懐に入り込み一撃を放つ。
「はぁっ!」
「ぐあっ!?」
アリスの攻撃を受けてよろめくナイトメア。しかし体勢を立て直すとその鋭い爪でアリスを攻撃する。アリスはそれをギリギリで避けるが服の一部が切り裂かれてしまった。
「クフフ。これでも結構スピードには自信があるんだけどねぇ。まさか避けられるとは思わなかったわ。なかなかやるじゃない。」
「あなたこの服一体いくらすると思ってるんですか?許しません。絶対に斬り刻みます。アデル=バーライト。私の魔法を使います。援護を。」
「……それしかねぇか」
オレはアリスの言葉を聞いて、アリスとナイトメアを囲むように絶対領域を発動する。
「感謝します。アデル=バーライト」
「わざわざ逃げ道をふさぐなんてお馬鹿さんなのかしら?」
「いいえ違います。すぐに分かりますよ。」
アリスは刀を構える。すると刀が白く染まり神々しいオーラを放ち始めた。
「これは……?」
ナイトメアはその異様な光景を見て驚く。そしてアリスは右足を踏み込み一瞬で駆け抜ける。その刹那、目では追えないほどの速さでナイトメアに迫りすれ違いざまに刀を振るった。
「……え?」
その攻撃によりナイトメアの体は上下真っ二つになり血を吹き出しながら倒れた。
「瞬擊の剣姫……。私の魔法は光速の粒子を纏い一瞬で斬る悪魔祓いの聖なる斬擊です。視神経を酷使するので長時間の使用ができないのと、距離感が掴めないのが欠点ですが、あなた程度にはこれで十分でしょう。ってもう聞こえてませんか」
アリスの魔法である瞬擊の剣姫は相手に狙いを定めて、一瞬で斬ることができる、その一撃は神速の領域にあるため相手は何が起きたのかも分からずに倒れることになる。ある意味最強の攻撃能力。オレの絶対領域はアリスの魔法の被害を外に出さないためなんだよな。
そしてアリスが刀を納めた瞬間、アリスの体から力が抜けてその場に座り込んでしまう。
「おい!大丈夫か!?」
「心配無用です。少し魔力を消費しすぎただけですので。」
「そうか……。とりあえず帰ろうぜ。ナイトメアは倒せたんだ。今はこのことを報告しよう。」
こうして、この事件は幕を閉じた。そして同時に新たな脅威が迫っていることにも気付かなかった。
翌日、オレたちは再び登校していた。ただ悪魔を討伐しただけでは、まだ『ドール』にはたどり着かない。そんなもどかしい気持ちを抱えながら教室に入るとアリスが声をかけてくる
「おはようございます。アデル=バーライト」
「……ああ。おはようアリスティアさん」
なんで話しかけてくるんだよ。オレには話しかけないんじゃなかったのか?面倒だろうが。わざとか?嫌がらせか?
「少し付き合ってもらえますか?」
はぁ。……オレは当然断るわけにもいかず、そのままアリスについていく。そしてやってきたのは屋上だった。
「なんだよ?」
「その。昨日は申し訳ありません。私のせいであなたの右腕に怪我をさせてしまって」
「気にすんなって。大したことねぇよ。それにお前だって怪我しただろ?」
「私は大丈夫です。問題ありません。」
アリスは無表情のまま、淡々と答えていく。だが、オレは知っている。アリスの瞳の奥に隠された悲しみを。彼女は決して強くはない。だからオレは言ってやることにする。
「はぁ。オレは守り専門なんだろ?ならオレに守らせてくれよ。お前を傷付けるものは全部オレが排除してやるよ。それがオレの役目だろ。相棒として。」
「……」
「ってのがカッコイイと思ったんだけどダメか?」
「……今のはすごくダサいですよ?あと恥ずかしすぎます。」
「うるせーな。仕方ないだろ?慣れてねーんだよこういうセリフを言うのは。」
「まあ別に構いませんけど……。ありがとうございました。おかげで元気が出ました。」
珍しく笑顔を見せるアリス。その顔を見てオレも思わず笑ってしまう。
「そうかい。そりゃよかった。」
「アデル=バーライト。あなたが私の相棒でよかった。これからも頼りにしてますよ。私の壁として」
「はいはい。せいぜい頑張りますよ。盾としてな」
オレとアリスの絆は深まった気がした。これからもオレとアリスは悪魔と戦い続けることになる。オレたち『レイブン』と『ドール』の戦いは始まったばかりなのだから。
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