20. 一流の嗜み
人々が行き交う王都の街並み。今日も平和な日常を送っている。そんな中、誰も好んで通ることことのない裏路地にある喫茶店『ブラック・キャット』。
オレはクイーンに情報を貰うためにここに来ていた。
「ごゆっくりどうぞ」
注文したコーヒーと軽食のサンドウィッチが運ばれてくる。それをクイーンは一口頬張ると話を切り出した。
「今日はお1人なんですね?」
「ああ。アリスは療養中だ。こうでもしないとあいつは無理にでも出てくるからな。」
「さすがはアデルさん!素晴らしい心掛けです!」
「……それで? 何か分かったか?」
「はい。その前にデザートが食べたいですアデルさん!」
こいつただご飯食べたいだけじゃないよな?オレは仕方なく追加でケーキを頼むことにした。
「それで情報ってなんだ?」
「もうせっかちですねアデルさんは。少しくらい私とお話してくれてもいいのに……とりあえず私が調べた結果、この件はは王国騎士団が絡んでいるようなんです」
「王国騎士団が?その『遺言請け負い人』が騎士団の人間ということか?」
「いえ違います。騎士団の誰かが『遺言請け負い人』に悪魔憑きの情報を渡しているんです」
「なぜそんなことを?騎士団の人間ならそもそもこんな回りくどいことしなくてもいいはずだろ?それこそ直接討伐もできるし、ギルドに依頼だってできる。」
オレがそう言うとクイーンは真面目な顔をしてこう話す。
「それは違法だからですよ。アデルさん。その騎士団の人間は『遺言請け負い人』を利用して悪魔憑きの存在を隠蔽しているようです。」
「違法?隠蔽?」
「悪魔憑きの人間を処罰する法はありません。著しく不利益なこと、暴走以外では討伐はできません。しかしその悪魔憑きの人たちは、いつ自我を失うか分からない恐怖に怯えながら生活できない。だから遺言を残している。『殺してくれ』とね」
なるほど。確かにこの国では悪魔憑きに対する法はない。つまり悪魔の力が暴走したら止める手段は討伐以外にないんだ。そしてその不安を抱えたまま生きていくのはとても辛いだろう。
『遺言請け負い人』がやっていることがその悪魔憑きの人間にとって救いなのかは分からないが、少なくともその人物は探し出さないといけないな。
「ありがとうクイーン。お代は置いてくぞ?」
「あっアデルさん。お代はいらないので私の話を聞いてもらえませんか?私こう見えても寂しい女なんですよ?」
こいつはまた訳のわからないことを言う。でもクイーンは見た目は若いけど本当はオレよりも年上で悪魔憑きになったせいで身体の成長が止まったんだよな……。
「わかったよ。話を聞くだけだからな。でもお代は持っていけよ。」
オレはクイーンの話を聞くため再び席に着く。すると彼女はとても嬉しそうな顔をしながらオレを見つめた。周りから見てオレ大丈夫?幼女好きとかじゃないからねオレは。
「えへへっアデルさんは優しいです。特別に秘密の情報を教えてあげます!」
「はいはい」
「アデルさんはアリスティアさんの過去について知っていますか?」
「ある程度は聞いている。でも詳しくは知らない。」
「じゃあ教えてあげます!アリスティアさんは……」
「クイーン。アリスの話ならオレは聞かない。あいつの過去に何があったとしても今のあいつはオレの相棒。だから過去のことは関係ない」
「……ふーん。やっぱりアデルさんには敵わないです。意外に大人ですね!お姉さん誉めてあげますよ!」
クイーンは少し残念そうな表情を浮かべる。だがすぐに笑顔に戻ると話しを続けた。
「じゃあ……私はやっぱり2人のことが気に言ったので本当の秘密の情報を教えてあげます。『遺言請け負い人』はアデルさんとアリスティアさんと同じ王立魔法学院の生徒さんですよ?」
「……なんだって!?」
「王立魔法学院の生徒がなぜ『遺言請負い人』なんて危険なことをしているのかまでは分かりませんでしたが、どうせ何か裏があるんでしょうね。」
「なんでそれを言わないんだよ?お前は誰だか分かってんのか?」
「まぁ目星はついています。不確定の事実は教えませんけどね?情報は小出しにするものです。それで交渉をするのが一流です。それが情報屋の嗜みというものですよ?それにこれは私なりの親切心です。これでアデルさんも『遺言請負い人』のことを放っとけないでしょう?」
「……ああ。そうだな」
全く、この少女は食えない奴だ。やはりクイーンは情報屋としては一流。本心も分かったもんじゃないな。気を付けよう。こうして新たな情報を得たオレは店を後にした。
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