37. 違いますが
訓練初日。荷物をそのまま置いて、外に出る。アリスは長い金髪をまとめて、ポニーテールにしている。こういうのも似合うな。格好もいつもの高そうなものじゃなく動きやすい格好をしている。
「なんですか?」
オレが見ていることに気づいたのか、そのまま睨まれる。
「いや、なんでもない」
「そうですか……いや違いました」
「なにが?」
「アデル=バーライト。もしかして私が睨んでると思ってますか?」
「え?違うのか?」
アリスはため息をつく。なんか悪いことしたか?
「あの……私は別に睨んでいません。そんなに怖いイメージがありますか?」
アリスは素直にオレに疑問をぶつけてくる。確かにこれもオレの先入観はあるのかもしれない。それなら素直に答えてやったほうがいいか。
「怖いというより、お前は顔に喜怒哀楽の感情が出なさすぎだ。だから分からないって言うのが正しい。イメージで怒ってるようには見えるぞ?」
「そうですか。気をつけましょう」
本当に気をつけるつもりがあるのか疑問だが、まあこれから一緒に行動するわけだし、少しくらい歩み寄ろうと思う。
「それでとりあえずどうする?」
「課題を見つけましょう。自分で気づけないところをお互い出していきますか。まずは私から」
「おっおう!」
なんか妙に緊張するんだが……確かに今までお互いの戦闘について話したことはなかった。相棒なのに。そう考えるとオレはアリスのことを何も知らないんだなぁ……。
「アデル=バーライト。私から見ても魔法の発動スピードが遅いと思います。あとは持続力。ここが課題ではないですか?どう思います?」
「そうかもしれないな。でも魔法の発動スピードは魔力の練り方次第だと思うし、持続力は単純に慣れだよな。ずっと使ってた魔法を急に変えろと言われても難しいと思う。」
「なら考え方を変えましょう。発動する魔法を段階を組んでみたらどうですか?何も毎回全力で発動する必要はないですし。状況によって防御魔法の強度を変えられたら戦いやすくなるはずでは?」
確かにそうだな。それに防御魔法の強度を分ければもっとスムーズになる気がする。これはかなり良い案かも!
「確かに。やってみるか。ありがとなアリス。この1週間でやってみるぞ!」
「あっ」
「どうした?」
「なら私も同じかもしれませんね。そう思いませんか?一撃必殺の魔法剣。これをある程度使いわけられたら……」
確かにそれはあるかもしれない。アリスの瞬撃の剣姫を使えば大抵の敵は倒せる。しかし、もし敵が複数いた場合、それを使えない。それを威力の押さえた魔法に変えることができれば……
「使えるな」
「使えますね」
二人で見つめ合い、ニヤリとする。こんなにも簡単で同じようなことが課題なんて少し拍子抜けのような気もするが、これで課題が見えた。
「オレたち。同じような課題だな」
「違いますが?」
「は?」
「あなたは追加で魔力の持続力が必要です。魔力が圧倒的に足りません。一緒にしないでください」
こいつぅうう!!人がせっかく歩みよってんのによ!くそぉおおお!こうしてお互いの課題が見えてきた。これならいけるかもしれない。オレたちはこの1週間で強くなることができるはずだ。
そしてその日は日が暮れるまで特訓を続けた。まだ実感がないけど手応えは少しあるような気はする。明日からも頑張らないとな。
「疲れたな……。」
「まだ初日ですが?こんなことじゃ先が思いやられますね」
「お前……絶対オレのことバカにしてるだろ?」
「してませんよ。想像を裏切らない魔力量だと感心してるんです」
こいつ……性格悪いんだが。やっぱりこいつは仲良くなれそうもないわ。いやまあ最初から分かってたことだけどさ。もういいよ!と心でしか文句が言えない自分が情けない……。
「さて。夕食を作らないとですね」
「ん?お前料理できるのか?」
「やったことはありませんが……?本を見れば何とかなりませんか?」
「……オレが作る」
さすがに初日に変なもの食わされたらヤバイしな。
「アデル=バーライト」
「なんだよ?簡単なものしか作れないからな?文句言うなよ」
「いえ。私も一緒に作ってもいいですか?」
「え?まぁ構わんが」
「ありがとうございます」
そう言って、キッチンに向かい調理道具を取り出す。なんだろう?ちょっと嬉しく感じてしまう。そんなことを思いながらオレもキッチンに向かうのだった。
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