13. 赤い瞳
オレとアリスはクラスメートのセリア=グランメールと共に班を組んで、王立魔法学院の実地授業を受けている。
まぁこれがオレの本来の生活だから、別に文句はないんだけど。ちなみに今回の実習先は、王都の北にある山の中。今はゴブリンを討伐することになっている。
「ゴブリン倒せるかなぁ?私あまり自信ないな。勉強なら得意なんだけどさ?」
「安心してください。セリア=グランメール。私がまとめてゴブリンの首をはね飛ばしますから」
「え?でもアリスティアさん木刀だよ?」
セリアの言う通りアリスの持っているのは木刀だ。そんな発言を聞いたアリスは鋭い眼光で言い放つ。
「物で斬るのではありません。心で斬るのです」
「ダセェ……。」
「存在自体がダサいあなたには言われたくありません。」
「ダサいって言うなよ!オレもいい加減泣くぞ!?」
オレとアリスのやり取りを見たセリアがクスリと笑う。
「あれあれ?……なんか2人とも仲いいんだね?知らなかったよ」
「そう見えますか?私はこの男に嫌悪感しか覚えていませんけど。」
「それはこっちのセリフだ!」
なんだよこいつ。あんなに学院では絡むなオーラ出していたくせに、どういうつもりだ?すると突然アリスの顔つきが変わった。
「……来ましたね。」
「どうしたんだよ急に?」
「静かにしてください。……何か聞こえませんか?」
確かに聞こえる。草むらをかき分けるように近づく足音のような音が。そしてその正体が現れる。
「ギィイイッ!!」
現れたのは緑色の肌をした醜悪な怪物だった。腰巻きをしており、手には錆びた剣を持っている。
「うわっ出た!ゴブリンじゃん!」
「アデル=バーライト。あのくらいの音も聞こえないのですか?分かりますかさっきのがゴブリンの声ですよ。聞こえてますか?」
「あぁもうわかったから!いちいちうるさいんだよお前は!」
なんだろうなこのイラつく感じは。こいつもしかしたらドSなのか?
「アリスティアさんすごいね!こんな声も聞き分けられるなんて!」
「当然です。耳は常に研ぎ澄ませていますから」
……それ絶対今は必要ないことだと思うんですけど。
「とりあえず2人は下がっていてください。」
アリスが木刀を構える。まるで刀のように。そしてそのまま駆け出し、一瞬で距離を詰めると目にも止まらぬ速さで振り抜いた。
「はあっ!!」
その瞬間、ゴブリンの首が胴体から離れる。
「ギ……ガァッ……」
首のないゴブリンはそのまま倒れ込み絶命する。その様子を見たセリアが驚愕の声を上げる。
「す……すごぉーいっ!!一撃で倒しちゃったよ!?しかも速すぎて全然見えなかったし!!」
「このくらい当然ですね」
アリスが自慢げに胸を張る。おい……あまり目立つなよ。それとこれ魔法の実地授業だぞ?それを見ていたオレはため息をつくしかなかった。
その後もしばらくゴブリンを探し討伐を繰り返していると広い場所に出る。
「あっ!」
「どうかしたか?」
「バック忘れてきちゃった!取りに戻るから2人はここにいて?トマトジュースないと私死んじゃう!」
いや……死なんだろ。トマトジュースごときで。
「分かりました。気をつけてくださいね。」
「うんっ!」
元気よく返事をして走って行ったセリアを見送る。しばらくしてオレとアリスはその場に残ったまま話し合う。
「さて……セリアが戻るまで暇だし少し休むか。」
「ええ。ゆっくり休んでください。永遠に」
「死なないからな?オレ。」
オレたちはその場で座って休憩をすることにした。すると突然アリスが立ち上がって言う。
「休めなそうですね?」
「……時間外手当て出るんだろうな?」
「申請しないと分かりませんが」
そこには黒い魔力を纏ったゴブリンがいた。明らかに他の個体とは違う。それにあの魔力は……悪魔特有のものだ。
「おいおい……魔物も悪魔憑きになるのか?」
「魔女の魔力なら理論上は可能かと。それか強力な悪魔が近くにいるかですが。」
「どちらにせよ厄介だな。」
「壁として機能してくださいね。アデル=バーライト」
「せめて盾にしろ!盾に!」
オレが抗議をしている間にアリスは既に戦闘態勢に入っていた。
「グギャアアッ!!」
ゴブリンがこちらに襲いかかってくる。やはり動きが速い。だがアリスなら問題なく対処できるはずだ。そう思っていたのだが……。
「くぅ……っ!」
ゴブリンの攻撃を受けきれずにアリスが吹き飛ばされてしまう。すぐにオレは絶対領域を発動しフォローに入る。
「大丈夫か!?」
「くっ……すみません。まさかこれほどとは……。」
オレはすぐに起き上がろうとするアリスに手を差し伸べる。するとアリスはその手を掴まずに自力で立ち上がる。
「……何をしているのですか?」
「……は?」
「余計なことは必要ありません。私に戦闘中に手を洗えと言うんですか?」
「お前オレを病原菌かなんかだと思ってる?」
こいつ……やっぱり性格悪いな。というよりプライドが高いだけか?
「ギィイイッ!!」
そんなことを考えていると再びゴブリンが襲ってきた。今度はアリスも反応できている。アリスが剣を振ると、先ほどと同様に首を斬り落とした。しかし、その死体から黒い魔力が溢れだし、その形を変貌させていく。
見た目は普通のゴブリンと変わらないが、その身体には禍々しい紋様のようなものが刻まれており、手に持つ剣も黒く染まっていた。
「魔法を使います。アデル=バーライト。お願いします」
「了解」
オレはアリスとその悪魔を囲むように絶対領域を発動する。そしてアリスは木刀に魔力を込め、神々しい光を放ち始める。
そしてアリスは右足を踏み込み一瞬で駆け抜ける。その刹那、その悪魔の身体は持っていた黒い剣ごと真っ二つになり血を吹き出しながら倒れた。
「瞬擊の剣姫……」
やっぱりこの魔法は最強だな。改めてそう思った。そしてアリスはその場に座り込む。
「大丈夫か?」
「……手くらい差しのべたらどうなんですか?」
「は?お前がさっき……」
「さっきは戦闘中です。今は違います。そんなことも分かりませんかアデル=バーライト?」
暴君すぎやしませんかこの公爵令嬢様は?
「はいはい。悪かったよ。」
「それでいいのです。あなたは黙って私の壁になっていればいいのです。」
「だから壁じゃねえよ!」
アリスが立ち上がり服についた埃を払う。そしてそのオレとアリスの光景を遠くから見ている2つの赤い瞳。その右手にはその瞳と同じ真っ赤なトマトジュースが握られている。
「ふーん……あれが2人の魔法……。なるほど少しは楽しめそうだね?」
その透き通る銀髪が風に揺れる。まるでそれは美しい花のように。そしてツインテールの少女はニヤリと笑う。
「ん?分かってるって。君は心配性だね?……んーリコピンはやっぱり最高!」
少女は美味しそうにトマトジュースを飲み干す。
「あぁ……もうちょっと飲みたいなぁ……。まぁもう少し様子を見させてもらうよ。アデル君、アリスティアさん」
そう言って彼女はクラスメートと合流するために歩きだした。
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