21. 動き出す
そして翌日。オレとアリスはいつもの空き教室でレオン先生と共に、昨日のクイーンの情報を共有していた。クイーンの話なら『遺言請け負い人』はこの学院の生徒らしいからな。
「遺言請負い人?ダサすぎですね。自分を正義の味方かなんかと思ってるんですか?」
やっぱり思った通り言ったよこの公爵令嬢……。
「アデル君。この学院の生徒にいると言うことですか。」
「ああ。先生に思い当たる人物とかいるか?」
「すぐには思い付かないね。悪魔憑きと戦うのなら実力者だね。この件は調べておくよ。」
「お願いします。」
「アデル=バーライト。それなら私たちは騎士団の人物を調べた方が良さそうですね。」
確かにそうだな。騎士団の人物が『遺言請け負い人』に依頼をしているだろうし、その辺も探った方がいいかもしれない。その後、しばらく雑談をして解散となった。アリスとは明日からの予定を話し合った後、別れた。
そして家に帰ってからは明日のアリスとの夜の巡回の準備をして、いつものように夕食を食べ、風呂に入り、自室でくつろいでいるとドアをノックする音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん……まだ起きてる?」
声の主は妹のエミリーだった。何か言いたいことでもあるのか? オレがドアを開けるとそこにはパジャマ姿のエミリーがいた。
「えっと……ちょっとお話したいなと思って……ダメかな?」
上目遣いでそんなことを言ってくるエミリーはとても可愛かった。本当にオレの癒しの天使!そのまま部屋に招き入れることにした。ソファーに座ってもらい、オレはベッドの縁に腰掛ける。
「それでどうしたんだ?こんな時間に訪ねてくるなんて珍しいじゃないか。」
「うん。最近あまり話せてないから。お兄ちゃんの仕事や学院の迷惑になるかもだけど……。」
「そんなことないよ。オレたち家族だろ?遠慮するなよエミリー。」
「じゃあ今日一緒に寝てもいい?」
「ああいいぞ。」
「やった!」
喜ぶエミリーを見てるとこっちまで嬉しくなってくる。やっぱり妹って最高だよな。変な意味じゃないぞ。
それからオレたちは色々な話をして盛り上がった。最近の出来事とか、学校のこととか、他愛のない会話をしていたらいつの間にか2時間くらい経っていた。
「そろそろ寝るか。」
「うん。お休みなさいお兄ちゃん。」
「お休みエミリー。」
狭いシングルのベッドに二人で入る。少し窮屈だが問題はない。むしろ温もりを感じて幸せな気分になれる。オレの唯一の家族だからな。大切にしないと。
しかし……成長したなエミリーのやつ。小さな膨らみを背中に感じるんだが……まぁ気にしないことにするか。妹に手を出すとか完全にアウトだしな。
「ねぇお兄ちゃん。」
「ん?なんだ?」
「お兄ちゃんって今好きな人とかいるの?」
突然何を言っているんだろうか?妹よ。オレにはお前という可愛い恋人がいるぞ。まぁ、今はいないけどな。
「急にどうしたんだよ。」
「別にいいじゃん。教えてよ。」
「いないよ。」
「ほんと?アリスティアさんは?」
「あいつはただの相棒だ」
そう。あいつはそれ以上でもそれ以下でもない。というか公爵令嬢のあいつを好きになるとかあり得ん。身分違いすぎるし、釣り合わないにも程がある。それに……って何考えてんだオレは。
そんなこんなで兄妹水入らずの時間を過ごした後は眠りについた。もちろん何もしていない。オレは兄だし、紳士だからな。
そして翌朝、オレは途中アリスに拾ってもらい共に学院へと向かう。最近はアリスから声をかけてくれることも多くなってきた。少しずつだけど、相棒として認められてるのかもな。
「そういえば思ったんだが、王立魔法学院の生徒の中に騎士団に所属している生徒っているよな?」
「はい?その生徒を使って調べるのではないのですか?まさか騎士団に直接聞こうとしてませんよね?」
うっ……鋭いなアリス。確かに直接聞くつもりだったが、流石にそれは無理だろうな。アリスは呆れたようにため息をつく。
「はぁー……アデル=バーライト。全くあなたと言う人は。相手はプロの騎士です。私たちのような学生に話すことなんてあり得ませんよ。」
「ですよね……」
アリスの言う通りだ。普通に考えれば分かることだった。しかし、この手掛かりを無駄にするわけにはいかない。何か他に方法を考えないとな。
「とりあえず不本意ですが、放課後は私と一緒に行動してください。何か手がかりが掴めるかもしれません。言っておきますけど、足手まといにだけはならないでください」
「うるせぇな……」
「なんですか?微塵切りにしますよ?」
「ごめんなさい」
はぁ……朝っぱらから気が重い。今日は早く帰って寝たい……。こうしてオレとアリスは『遺言請け負い人』とその騎士団員を探すため動き出すのだった。
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