16. 魅了
アリスは腰に差している刀を抜き構える。オレも同じくいつでも動けるようにしておく。
「ワタシを倒せると思ってるの?この子たちを見ても?」
「なんだと?」
すると、先程倒れたはずのカップルの男たちだけがゆっくりと起き上がり始めた。その様子まるではゾンビのようだ。
「ワタシの魅了は特別製なの。一度かかったら死ぬまで解けない。あなたたちもその男たちのように快楽の中で死になさい」
「アデル=バーライト。エキドナを倒すしか方法はありません。操られた人々はあなたに任せます。私があの化け物を斬ります」
「了解」
アリスはエキドナに向かって走り出した。刀を振り下ろしたその時、エキドナの姿が消えたかと思うとアリスの背後に姿を現した。そのままエキドナは長い尻尾を使い、アリスに巻き付こうとするが、アリスはそれを難なく避ける。
「へぇ?やるじゃない。でも避けたところで意味がないわ。その刀では斬れないもの」
「試してみますか?」
そう言って今度はアリスから仕掛ける。エキドナの身体に切り傷をつけるが、すぐに再生してしまう。
「無駄よ。いくら攻撃してもワタシには勝てない。」
「やはり普通の攻撃では無理ですか……かと言って、この状況では瞬擊の剣姫は使えない。となると……」
「考え事とは余裕ねぇ。隙だらけよ」
エキドナの攻撃を避けるアリスだったが、次第に追い詰められていく。このままだとマズいな……。オレは操られた人々を応戦しつつアリスをフォローしなくては。
「アデル=バーライト。ここは私一人で大丈夫です。あなたは周囲の人々の対処をしてください」
そうアリスはオレに言うが、アリスを見ると身体中に無数の切り傷を負っていた。
「アリス!?お前なんで……」
「私のことは気にしないでください。それより早くしないと、エキドナの魅了が広がってしまいます。」
「くっ……」
オレは操られている人々を次々と倒し、アリスの方を見る。するとそこには、血を流しなりながらエキドナと戦うアリスがいた。こんな状況だから瞬擊の剣姫を使えないのだろう……。
「これで終わりよ。じゃあね」
エキドナがアリスにトドメを刺そうとした時、オレは咄嵯に飛び出していた。
「アデル=バーライト!?何を……」
「あら?あなたまだ生きてたのね。まあいいわ。二人まとめて殺してあげる」
エキドナの尻尾による攻撃を絶対領域でなんとか受け止めるが、あまりの力の強さに膝をつく。
「ぐぅ……。うぉおお!」
なんとか押し返し距離を取る。
「どうして出てきたんですか?私はあなたの足手まといになるつもりはありませんでした。それにあなたが来なくても、私がどうにかしていました」
「うるせーな!オレだってお前がこれ以上傷つくとこなんて見たくねぇんだよ」
「……バカですね。」
「ああ、バカだよ」
そう言いつつ再び戦い始める。エキドナは口から毒液を放ってくる。それをオレが絶対領域で防ぎ、その隙にアリスが攻撃を仕掛ける。しかし、さすがは特殊悪魔だ。なかなかダメージを与えられず苦戦している。
「はぁ……はぁ……。くそ!全然効いてねえぞ!?」
「ふふ。まだまだ元気みたいだけど、ワタシには勝てないわよ」
「アデル=バーライト。私に考えがあります」
「考え?」
アリスはオレに耳打ちをする。顔が近いし……いい匂いするな……。ってそんな場合じゃないか。
「なるほどな。それならイケるかもな」
「ええ、問題はタイミングです」
「まぁ……なんとかなるだろ」
作戦会議を終え、オレは再びエキドナに立ち向かった。
「また来る気かしら?懲りない子たちね」
「悪いけどお前はここで倒す」
エキドナはオレの言葉を聞き鼻で笑った後、笑い声をあげる。
「ワタシを倒す?人間がワタシに勝てるはずがないわ。面白いことを言う子。ワタシの魅了に耐えられたことだけは褒めてあげるわ。でもそれもここまでよ」
エキドナは長い舌を出しペロリと唇を舐める。そして次の瞬間にはオレの目の前にいた。そのままエキドナはオレの首を締め上げる。
「ぐっ……」
「アデル=バーライト!!」
アリスがこちらに向かって走ってきているのが見える。もう少しだけ待ってくれ……。
「もう遅いわ。そのまま死になさい」
エキドナはもう片方の手を使い、尻尾でアリスを攻撃しようとする。今しかない!!オレはエキドナの尻尾を掴み引き寄せた。そして持っていた『聖水』を地面にぶちまける。
「何!?これはまさか……」
「はぁああああああ!!!」
アリスがエキドナの尻尾を切り裂いた。
「グゥウウッッ」
エキドナが苦しんでいるうちに、オレはエキドナの顔を掴みそのまま地面に叩き込む。すると、エキドナの顔から煙が上がり始めた。
「アデル=バーライト!離れてください!」
アリスの声を聞いて、エキドナから離れるとアリスはエキドナに向かって刀を振り下ろした。
「ギャァアアッッ」
エキドナは悲鳴を上げながら身体中から血を吹き出し倒れ込んだ。
「やったのか?」
「いえ、まだです。この程度でやられるような相手ではありません」
エキドナの身体からは黒い霧のようなものが溢れ出している。どうやらあの状態はヤバそうだな……。
「お前……よくもやってくれたじゃない。覚悟はできてるんでしょうね……」
「エキドナ様……守る……」
「アデル=バーライト?」
「あら?形勢逆転かしら?ワタシの魅了が効いたみたいね?でも残念だったわねぇ。ワタシはこの程度の傷すぐに治せるのよ」
エキドナはそう言うと、身体の傷を再生させた。
「……屑だとは思ってましたけど、そこまでとは思いませんでしたアデル=バーライト」
「エキドナ様……あの生意気な無表情公爵令嬢を殺してください」
そして絶対領域がアリスとエキドナを囲むように展開されていく。アリスは覚悟を決めたようにその刀を握りしめるのだった。
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