10. おもてなし
あれから2週間。悪魔ナイトメア以降、強力な悪魔は現れてはいない。だが、悪魔憑きの事件は増えているような気はする。やはり魔女『ドール』の仕業なのだろうか?そんなことを考えていると部屋の扉が開く。
「お兄ちゃん」
「どうしたエミリー?」
「ちょっとリビングに来てもらえる?」
「え?」
エミリーのやつ、なんか怒ってるのか?オレはエミリーに言われた通りリビングに向かう。
「そこに座って」
「なんだよ。なんかあったのか?」
ドンッとテーブルの上にオレの洗濯物を置くエミリー。それはあの時、アリスに買ってもらった洋服だった。
「普段からダサいお兄ちゃんが、こんなセンスのいい高そうな洋服を買うなんて思えない。説明して?」
「あぁー……これか。これはその……あれだな……」
「あれじゃわかんない!」
うっ……。言い訳を考えてなかった。仕方がない正直に話すしかないよな……。
「実はアリスにプレゼントされたんだ」
「プレゼント!?アリスって誰!?」
エミリーの顔が一瞬で真っ赤になる。そしてオレに詰め寄ってくる。あー……アリスのこと言ってなかったっけ?
「お兄ちゃん!アリスさんとはどういう関係なの!?まさか付き合ってるとかじゃないよね!!」
「ちげぇよ!そういうんじゃねぇよ!仕事の相棒だ相棒!」
「ならどうしてプレゼントされるようなことになってるの!?」
「そ、それは……」
オレはエミリーに事情を説明した。
「ふぅん。お兄ちゃんがダサいから、恥ずかしくてそれでアリスさんとお買い物に行って服を買って貰ったんだね?」
「ダサいって言いすぎな。普通に傷つくぞ……まぁそうだな」
「何かお返ししたの?」
「いや特に……」
「もう!恥ずかしいなお兄ちゃんは!アリスさんを連れてきて!私がおもてなしするから!それにお兄ちゃんの相棒なら一度ご挨拶したいし。」
はい?オレの癒しの妹は何か血迷ったこと言ってない?こうしてなぜか知らないがオレはアリスを家に呼ぶことになった。でもその前に、事情をちゃんと説明しないとアリスは怒るだろうから話しておくことにした。
そして今日は休日、オレはアリスを呼び出し説明することにした。「私の時間はタダじゃありませんからね?」とかその文章からすごく不機嫌な顔が思い浮かぶんだけどさ……。
そんな事を思いだしながら待ち合わせ場所に向かうと、既にアリスが待っていた。
「遅すぎですが」
「いや、待て待て。時間通りだろうが」
「ギリギリは遅刻です。女性を待たせるのは最低だと思いますよ。だからモテないのでは?」
「……うるさいぞ」
相変わらず一言多い奴だな……。
「とりあえずどこかでお茶をしましょうか。エスコートお願いします」
「は?」
おいちょっと待て。いきなりデートみたいになったじゃないか。話を切り出しづらいんだが?
「あのー……」
「はい、なんですか?」
「……なんでもない」
こいつ絶対分かってるだろ!くそっ、なんか負けた気分になるから聞きたくない。という訳で喫茶店に到着。中に入ると甘い香りが漂ってくる。席についてメニューを見ると値段が高い物ばかり並んでいる。
「うわ、高ぇな……あっ。」
「別に庶民のあなたに支払いを期待してませんが?格好つけて奢ってくれるんですか?」
「そんなわけないだろ」
というか、オレは何を頼めばいいんだ?どれも金額が高すぎなんだよ……!ここは無難にコーヒーとかにするべきだろうか。いやしかし、でもオレ金ないしなぁ……。
「アデル=バーライト。お茶は私が誘ったのでお代は気にしなくて結構ですよ。私が払うので、お好きなものを頼んでください」
「……」
あれ?こいつネージュさんのような心の声を読む魔法能力者だっけ?とかくだらないことを考える。
「どうしたんですか?まさか私の言葉を信じていないんですか?だとしたら許せないのですが」
「ああいや、信じてるよ。お前なら奢りそうだなって思っただけだ」
「それはそれで腹が立ちますね……あなただから奢るのですが。これからも共に頑張る相棒として」
「ん?今なんて言った?」
「いえ、何も言ってませんよ。さぁ早く注文してください。私は紅茶でお願いします」
「じゃあオレも同じもので……」
店員を呼び止めてそれぞれ飲み物を頼む。そしてしばらく待っていると、先ほどの店員がティーポットとカップを持ってやって来てくれた。カップの中に注がれていく透き通った赤茶色の液体を見つめていると、ふとアリスと目が合った。
「どうかしましたか?」
「いや、美味そうな色だなと思って」
「あなたに、紅茶の良さが分かるのですか?意外ですが」
うるせぇ。分かるわけねぇだろ。ただ見た目が良いと思っただけだよ。紅茶を一口飲むとアリスは話し始める。
「それで、私に話があるんじゃないのですか?」
「あー……そうだったな。実はオレの妹がアリスに会いたがっててだな?オレの家に来てくれないかな~って思って」
「……妹を出しに使うなんて最低な手口ですよアデル=バーライト?」
「そんなんじゃねぇし!本当にエミリーが挨拶したがってるんだよ!」
オレが必死に弁明(?)していると、アリスは少し無言で考えた後こう言った。
「……まぁ、そういうことなら行ってあげても構いませんが」
「本当か!?助かるよ!」
よし!これで面倒事は解決する!オレはほっとした気持ちで一杯になり、残りの紅茶を飲み干す。だが、アリスはオレを睨みつけるように見てくる。なんだ?まだ何かあるのか?
「なんだよ?」
「1つ質問ですが、どうして妹さんに私の事を話してないのですか?」
「いや言ったつもりだったんだが……」
「そんなはずないでしょう。あなたの事ですから、きっと忘れていたのでしょうね。まぁいいです。それではアデル=バーライトの家に行きましょう」
うぐっ……。否定できない自分が憎い……。とはいえ、とりあえずアリスがオレの家に来ることになったので良しとすることにするのだった。
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