8. 休日でも
時間は正午。まだ微睡みの中、最近の激務での疲れのせいか、ベッドから出る気が起きない。
「……うーん」
そうして二度寝しようとした時だった。部屋の扉が勢いよく開く。そこにはこの世の天使。オレの癒しの妹エミリーがいた。
「お兄ちゃん!もうお昼だよ!」
「あぁ、おはようエミ……」
エミリーはオレに抱きつくと、そのまま頬を擦り付けてきた。かわいい。
「どうしたんだ?」
「今日はお休みだから一緒に遊びたいなって思ってね。」
確かに最近は仕事続きであまり構ってやれなかったしな。
「いいぞ、何したい?」
「やったー!えっとね……私買い物に行きたい!」
「よし、じゃあ行こうか。」
支度をして街に出る。休日ということもあり、王都の大通りには人が溢れていた。
「すごい人だな。迷子にならないように手を繋ぐか。」
「うんっ!」
こうして二人で歩くだけでも幸せを感じる。妹がいる生活とは素晴らしいものだ。
「ねぇ、あれ見てお兄ちゃん!」
「ん?」
そこには大きな噴水があり、水飛沫を浴びて虹が出来ている。
「綺麗だな……」
「うん……」
オレ達はその光景に見惚れてしまっていた。それから少しするとエミリーが何かを言いたげにしていることに気づく。
「どうした?」
「あのさ……もし私がもっと大きくなってもお兄ちゃんと一緒にいたいって言ったら迷惑かな?」
「そんなことあるわけ無いだろう?ずっと一緒だ。」
「本当に!?約束してくれる?」
「ああ、約束するよ。」
エミリーは嬉しそうな顔をしながら小指を差し出してきた。オレもその小さな手を優しく握る。
「ゆびきりげんまん嘘ついたらはりせんぼんの~ます♪ゆびきった!!」
そして二人で笑い合う。こんな時間がいつまでも続けば良いと思った。しかし、幸せな時間というものはすぐに過ぎてしまうものなのだ。せっかくの癒しの妹との休日なのにオレの通信魔法具が震える。相手はネージュさんだ。
「もしもし?」
《アデル君。西の大広場の教会で悪魔憑きが現れたという情報が入りました。すぐに向かえますか?》
「わかりました。すぐ向かいます。」
通話を切ると、不安そうにこちらを見つめてくるエミリーの顔があった。
「お兄ちゃんお仕事?」
「……ああ。ごめんなエミリー、ちょっと用事ができたみたいだ。」
「そっか……」
「大丈夫だよ。すぐに終わらせて帰ってくるから待っていてくれ。」
「うん……」
頭を撫でてからそう言って大広場へ向かおうとした時、また通信魔法具が震える。今度は誰だろうか。
「もしもし」
《私です。今どこにいるんですか?》
「アリスか。今から西の大広場へ向かう」
《あのアデル=バーライト?今、妹さんと一緒ですか?》
「そうだが……」
《なら、あなたは来なくて結構ですよ。ただの悪魔憑きくらい私1人で何とかしますから》
「ああ?」
《壁はいらないと言ったんです。それにあなたがいなくても私の剣技があれば一瞬で終わります。あなたはせいぜい妹さんとの休日を満喫していてください》
「あっおい……!」
《それでは失礼します。》
通信が切れる。もしかしてアリスのやつオレに気を遣ってくれたのか?あいつなりの優しさなのか?
「お兄ちゃん。お仕事でしょ?私は大丈夫だから行って。」
「エミリー……」
「私ね、お兄ちゃんがお仕事してるのすごく格好いいと思う。」
「すまない。今度は絶対遊ぶからな!」
「うん!楽しみにしてるね!頑張ってきてねお兄ちゃん!」
そう言ってオレを見送ってくれるエミリーの姿はとても眩しかった。そして同時に思う。この笑顔を守る為ならどんな敵だって倒せる気がした。オレはそのまま大広場へ向かった。
そこには既に大勢の人々が集まっており、騎士達が避難誘導を行なっていた。そんな中、一人の女性が騎士達に詰め寄っているのが見える。
「早くしないと子供が殺されちゃう!私の子供がまだ中にいるの!!お願いします!行かせてください!」
「落ち着いて下さい奥様。我々騎士団が責任を持って救出に向かいますのでどうか……」
どうやら子供の母親が取り乱しているようだ。早く何とかしてやらないと。あの教会の中だよな。オレが教会の入り口に着くと、そこには騎士団に説明をしているグレン団長とオレを見て明らかに不機嫌になるアリスがいた。
「お?アデル?」
「……必要ないと言いましたが?」
「まぁそう言うなよ」
「なら話は早い。アデル、アリス頼んだぞ」
こうしてオレとアリスは教会内に入り、軽く悪魔憑きを討伐した。まぁ結局アリスが討伐して、オレは何もしてないけどな。後処理はグレン団長に任せて帰ることにする。
「軽く倒せたな」
「だから必要ないと言いましたが。あなたは妹さんとの休日を満喫していればいいものを」
「悪かった。なんか気を遣ってもらったみたいでよ?」
「別に……ただ無駄に被害を増やしたくなかっただけです。あなたは守り専門の壁なので」
「そうか。ありがとよ。」
相変わらず素直じゃない奴だ。それから家に帰ると、エミリーが抱きついてきた。
「お帰りなさいお兄ちゃん!」
「ああ、ただいまエミリー。遅くなってすまなかったな」
「本当だよ~!寂しかった~」
「よしよし、もう大丈夫だ。そうだ!夕飯は外で食べよう!」
「うん!私ハンバーグ食べたい!」
こうしてオレ達の休日は過ぎていった。エミリーとずっと一緒にいられるよう、これからも頑張ろう。
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