11. 理由と利用
なぜかエミリーの提案でオレの家に来ることになったアリス。正直公爵令嬢が足を踏み入れるような広さじゃないんだが、オレの家は。そんな文句を言っても仕方がない。
「ここが我が城だ。存分にくつろいでくれ」
「なんですかそれ?つまらないですよ」
「……じゃあ何て言えばいいんだよ?」
「何も言わなくていいのでは?ある程度の広さは予想はしてますので。とりあえずお邪魔します」
そう淡々と答えていくアリスを家に招き入れ、リビングに案内する。ソファに座ってもらい、オレはその向かい側に座る。そしてコーヒーの準備をする。
「えっと……この香りはインスタントですね。まぁ私もあまり贅沢できませんし、別に構いませんよ」
「……」
今の発言にはちょっとだけカチンと来たな。確かにインスタントだが、そこまで言うことねぇだろ……。
エミリーは夕飯の買い物に出かけているようだ。どうやら手作りの料理を振る舞うみたいだな。大丈夫か?この公爵令嬢に庶民の料理なんか出して……。
「妹さん……エミリーさんはいないのですね?」
「あぁ。夕飯の買い物に行っているみたいだな。たぶん得意のハンバーグを作ろうとしてると思うが」
「ハンバーグですか」
「その……公爵令嬢のお前の口には庶民の味なんか合わないかも知れないけど、お前をもてなそうと一生懸命なんだ。食べてってやってくれな?」
「また偏見ですか?まぁあなたがエミリーさんのことをどれだけ大切に思っているかは分かりました」
ちょうどその時タイミングよく、エミリーが帰ってくる。
「ただいま。重い~お兄ちゃん持って」
「いっぱい買いすぎじゃないか?」
「だって色々お料理考えてたら楽しくなってきちゃったから……」
「分かったよ。ほら貸せ」
袋を受け取り、冷蔵庫まで持っていく。
「ありがとねお兄ちゃん!ん?あっ!あの!私はエミリー=バーライトです!」
「ご機嫌よう。初めましてエミリーさん。私はアリスティア=セブンシーズと申します。お兄様とはお仕事の相棒として一緒に仕事をしています。よろしく」
「わぁ……すごくお綺麗で美人で可愛くてお人形さんみたい……」
エミリーはアリスと挨拶をかわしてすぐ、キラキラした目で見つめている。さすがにその反応には慣れているのかアリスは無表情のままだ。
「あのアリスさんは何のお料理が好きですか!私頑張って作りたくて!」
「そうですね……やはりハンバーグでしょうか」
「ハンバーグ!?私得意なんです!じゃあ早速作っちゃいますね!」
「お願いします。楽しみにしておきましょう」
エミリーは張り切ってキッチンへと向かっていった。アリスのやつ……本当にいいやつだな。
「元気な子ですね。とても明るくて、優しい雰囲気を感じます。それにしてもまさか本当にあなたの家に来ることになるなんて思ってもみませんでした。しかもこんな形で」
「オレも正直驚いているよ。まぁせっかく来てくれたんだ。ゆっくりしてくれ」
「えぇ。そうさせてもらいます」
その後、テーブルに並べられた数々のエミリーの料理を食べながら会話を交わす。
「このハンバーグはとても美味しいですね。お店でも出せるレベルですよ」
「ありがとうございます!私これしかできないんで嬉しいです!」
「いえいえ。このサラダもドレッシングが絶妙ですね」
「それは私が自分で作ったんですよ!市販のやつは飽きちゃうので」
「すごいですね。毎日料理を作っているのですか?」
「はい!お兄ちゃんはお仕事忙しいし、家事くらいは、お兄ちゃんのために頑張らないとなので!」
おいおい……話が盛り上がってるのはいいが、オレのこと忘れてないよな?二人とも……。これがガールズトークなのか?それからしばらくして、食事を終えた。
「ごちそうさま。どれも美味しかったです。」
「本当ですか?良かったぁ……じゃあ後片付けしてくるね」
そう言ってエミリーは食器を持ってキッチンへ行った。するとアリスが話を切り出す。
「アデル=バーライト。聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「なぜ、あの時私と組んでくれたのですか?普通なら断るはずでしょう?公爵令嬢なんて面倒なだけ。それなのにどうして?」
「……まぁ確かにそうだな。なんというか……オレはこの生活を守るために『レイブン』に入った。魔女や悪魔憑きに特別怨みがあるわけじゃない。」
そう。『レイブン』の仲間たちはかつて魔女や悪魔憑きに大切な人を奪われたり殺されたりした者たちの集まりだ。だから復讐するために戦っている奴もいる。
「だけど……あの時、お前はどこか違う気がしたんだよ。なんとなくだけどな。だから声をかけた。それだけだ」
「……そうなんですか。」
アリスの過去は詳しく知らないが、ある程度は理解しているつもりだ。だから自分と組むことがいまだに理解できないのだろう。だから言ってやることにする。
「あとはお前は悪魔を倒せる。オレは守ることしかできない。オレはお前を利用してるんだ。だから深く考えないでいいぞ?オレの生活のためにお前が適任なだけだ。」
「……あなたって不器用でダサい人ですね?気の使い方が底辺過ぎません?もっとスマートに出来ないものですか?素直じゃない男性はモテませんよ」
「悪かったな……こういう性格なんだ。文句あるか?」
「いえ別に。そういうところも悪くはないと思いますよ?」
「は?」
「なんでもありません」
相変わらず無表情だが、少しだけ微笑んでいるようにも見える。まったく素直じゃないのはどっちだよ……。それでもオレはアリスが相棒で良かったと思うのだった。
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