26. 疑念
オレは今、放課後王都の街で偶然出会ったクイーンと共に喫茶店『ブラック・キャット』に来ている。
「う~ん。パンケーキも最高ですね!」
「そりゃ良かったな」
ふわっふわなパンケーキを頬張りながら嬉しそうに笑うクイーンに、オレも笑みを浮かべる。しかし……本当に情報を教えてくれるのかは、まだわからない。とにかく今はクイーンの機嫌を損ねないようにしないとな。
「ん?安心してくださいアデルさん。ちゃんと情報は教えてあげますよ。お姉さんを信じてください。」
どうやら顔に出ていたらしい。
「いや別に疑ってねぇけど……。」
「またまたぁ~!そんなこと言って!本当は私のことが信用できないんですよね?」
「だから違うって!」
まったくこの子は何を言ってるんだか……。まあ確かにちょっと警戒してるのは事実だけどさ。
「まぁいいでしょう。こればっかしは信用してもらうしかなさそうなので」
「そうだな……」
「じゃあそろそろ本題に入りましょうか。私も暇じゃないですから。パンケーキとコーヒー代くらいはお話しますよ」
クイーンはそう言うと真剣な表情になる。
「まずアデルさんの推測通り、この事件の黒幕は騎士団にいます。そしておそらく悪魔の犯行だと私は思っています。」
「根拠はあるのか?」
「えぇもちろん。まず1つ目として、『遺言請け負い人』のコレットさんでしたか?彼女が討伐した悪魔憑きからは悪魔が何の痕跡もなく消えているという事実」
「悪魔が消えている?」
「はい。残された死体には悪魔の魔力すら残っていません。」
それは確かにおかしいな……。悪魔憑きを討伐したなら微かな魔力が残っていてもおかしくはない。
「次に2つ目。すぐに発見されていると言うことです。」
「それは、騎士団に在籍してるんだから当たり前じゃないのか?」
「まだまだ甘いですねアデルさんは。パンケーキのメープルシロップくらい甘いです。」
「いや甘すぎだろそれ!?」
「冗談ですよ。問題はそこではなくて、なぜ早く発見されるのかということですよ。答えは簡単です。その人物が悪魔の魔力を奪っているからです。」
魔力を奪う?悪魔が悪魔の魔力を?それなら辻妻が合うかもしれない。
「特別に教えちゃいましょう。この事件の黒幕はズバリ、騎士団の中でも遺体を処理する人物。そしてそれが悪魔ならばおそらく『魂喰い』と呼ばれる者の仕業です。」
「『魂食い』……。」
『魂喰い』とは、その名の通り魂を喰らう悪魔のことである。人間や悪魔の魂を喰らうことで成長する悪魔。悪魔の中でも上位に位置する存在であり、滅多に姿を見ることはないと言われている。
「もし本当に『魂喰い』ならかなりの強敵ですよ?」
「だとしても、倒さない理由にはならん。ありがとなクイーン」
「いえいえ。楽しかったですよアデルさん。初めてでした。何の構えもなく私に話をしてくれた人は。」
「ん?どういうことだ?」
「普通、素性の知れない情報屋と接触しても単独で行動はおこしませんけどね?疑念とかありませんか?」
あぁそういうことか……。まぁ特に深く考えてなかったな。でもオレは素直にクイーンに言ってやることにする。それはいつもクイーンから言われている言葉だ。
「オレも。クイーンあんたのこと気にいってんだ。またよろしく頼むな」
そう言って喫茶店『ブラック・キャット』をあとにする。
そして1人残されたクイーンはコーヒーのカップをなぞりながら呟く。
「ふぅー。やっぱりアデルさんは面白いですね。まさかあんなことを言われるなんて思いませんでした。でも残念。私はあなたの味方ではないんです。」
クイーンは立ち上がると店の外へ出る。そこには黒いフードを被った人物がいた。そのフードから覗く透き通るような銀髪。そして燃え盛るような赤い瞳。
「あれ?どうしたんですか?あなたの依頼通りアデルさんに情報は教えておきましたよ?」
「ありがと。助かるよ。」
「あなたの目的は何なのかは気になりますけどね?」
「あはは。情報屋なんだから、自分で調べてみたら?トマトジュース飲む?」
「遠慮しておきます。では」
クイーンはそのままスキップしながら王都の街へと消えていく。
「さてと。そろそろ動き出すとするかな?いい加減好き勝手にされるのも癪にさわるからね。んー……あ~やっぱり美味しい!リコピン最高!」
そしてその銀髪の少女はトマトジュースを一気に飲み干し、そのままクイーンと同じく、街へ消えて行くのだった。
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