「疲れた……」
陸に戻った冴木は疲れ果てていたようで、砂浜に寝転がってそんな事をつぶやいていた。
「流石に貧弱すぎないか?」
バナナボートは疲れる遊びだが、こいつがバナナボートにしがみつけていた時間は本格的にスピードが出てから1分程度だった気がするが。
その後は救命胴衣でぷかぷかと浮き続けていただけだろ。
「浮き続けるだけでも結構しんどいんだよ?」
「どこがだよ。何もしなくても浮けるだろ」
「え、そうなの!?」
「冴木、待っている間何していたんだ」
「全力で足をバタバタさせていたよ。沈みたくなかったからね」
「本当に何していたんだ……」
冴木は、実は馬鹿なのか?
「ってことでしばらくはパラソルで寝とくよ」
「……分かった」
馬鹿なこと言ってないで遊べと言いたかったが、本当に疲れているようなので休ませることにした。
「バナナボートの後にやるのは変かもしれないけど、ビーチバレーやらない?」
パラソルに向かう冴木を見届けていると、サキからそんなことを提案された。
「ビーチバレーか、良いな。丁度場所も空いているしな」
海に結構人は居るのだが、ビーチバレーのコートは誰も利用している気配が無かった。
「次葉さんも良い?」
「勿論。早くやろうよ」
「じゃあ先に行っててくれ。冴木をたたき起こしてくる」
ビーチバレーに必要な人数は4人だからな。
呼び出された時に冴木は若干嫌な顔をしていたが、次回描いた絵の生データを送ると言ったらニコニコでビーチバレーに参加してくれることになった。
「なあ姉ちゃんたち、一緒に遊ばない?」
「絶対楽しいからさあ、どう?」
そしてコートに向かうと、次葉とサキが典型的なナンパに遭遇していた。話しかけている方が金髪で、もう一人は黒髪で金髪が話しかけているのを隣で黙って見ているようだ。
二人とも魅力的な女性だから誘いたくなる気持ちも分かるから申し訳ないが、帰ってもらわないとな。
「二人は私たちの連れだ。お引き取り願おうか」
笑顔のまま一切の返事をしていない次葉とサキに変わり、私がナンパしてきた男二人に声を掛けた。
「お前らが二人の連れ?貧弱そうな二人だなあ。残念だが今日はこの二人は俺たちが相手をする。ボコボコにされたくなければ尻尾巻いて引き返すんだな」
私たちの姿を見て雑魚だと思ったらしく、馬鹿にした口調で金髪がこちらを煽ってきた。
「私がお前たちに負ける未来は一切見えないんだがな」
海でナンパしてくるだけあって180㎝を超える高身長な上に引き締まった体を持ち、そこら辺の男には負けないであろう戦闘能力を保持しているように見える。
しかし、それはあくまで一般人が相手であり、何か格闘技をかじったであろう相手を倒せるほどではないだろう。
「あ?この身長で何言ってるんだ。体格差ってものを理解していないのか?」
「体格差等関係ない。ただただ私が強いから勝つんだよ」
まあ、私の場合相手が格闘技をやっていようがやっていまいが関係なく勝つのだがな。
「言うじゃねえか。じゃあさっさと勝負して白黒決めようか。このビーチバレーでな!!!」
「……は?」
完全に武力による戦闘が開始されると思っていたのだが、何故かビーチバレーを提案された。
「海での勝負と言ったらビーチバレーに決まっているだろ?男なら勝負を受け入れるよなあ?」
「まあいいが……」
「じゃあやるぞ!!!」
私が勝負を受け入れると金髪はボールを持って走って会場に向かって行った。
あまりにも自然な流れだったため奇妙な提案を受け入れてしまったが、結構不味くないか?
相方はあの冴木だぞ?いくら私がブロック、アタックを頑張ろうと冴木を支えながらとなると勝つのは厳しい気がする。
サーブで点を取るって言っても風の影響を受けるビーチバレーだと限度があるしな……
まあやるしかないか。
「冴木、何をしてでも私が拾ったボールを上にあげてくれ。全部私が決める」
「うん、頑張るよ」
冴木に色々と不安があるものの、やるしかないか。
「それでは、優斗、冴木ペアVS高橋、白石ペアの試合を始めます」
「「よろしくお願いします!!」」
「ああ、よろしく……」「よろしくお願いします」
そしてコートに向かうと何故か審判が居た。ただの個人的な争いに。
まあ、公平なゲームの為にも居るに越したことは無いか……
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