日替わり生徒

不思議な存在と共に、不思議な友達を助けるお話
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第七話 白崎 瑞樹の独白

公開日時: 2020年10月12日(月) 07:00
文字数:7,329

「あの日…引っ越しのため……僕は、美月の、分の、荷物を…まとめて、いまし、た」


催眠状態のために、途切れ途切れの瑞樹の声が、春海の部屋に響く。

春海も翔也も、言葉を喋らない。息をする音も邪魔なように、二人とも瑞樹の独白を聞き逃すまいと、緊張していた。


「美月の、本…の、中に……見つけまし、た……あの、本を」

「あの本…って何?」


言葉を喋らない…はずであったが、話を進めるために春海が思わず聞き返す。


「…日記帳、です」

「…!」

「……続けて」


翔也が少し目を見開き、春海が話の続きを促す。


「…読むつもりは、ありません…でし、た。美月のこと、は…思い出したく、なかった、から……。でも、気づいた、時、には…手にとって、開いていました」


ここで、瑞樹は一瞬静かになった。催眠状態であるために円滑な話ができないだろうと判断した春海は、瑞樹の様子を見て続けるように促す言葉を話そうとした途端、瑞樹の口から溢れるように言葉が流れ出した。


「僕は、あれを、読んで…読んで…美月を、知って、しまいました。そして、美月が、僕なんかよりも、よっぽど、よっぽど…辛かったん、だ、って」


瑞樹の声の調子が、変わった。

催眠状態で、途切れ途切れの夢うつつ言葉のはずなのに、その言葉には紛れもない『感情』が込められていた。


「美月は…ずっと、悩んでいた。美月は、『女の子』だから。それなのに、僕は…僕の、体は、『男の子』だから。日記には…文字、で、も分かるくらい、美月は…叫ん、でいたんだ。ずっと恨んで、苦しんで、何度も、何度も、死のう、とした、って」


だんだん、声がはっきりしてきた。

口調が変わって、もはや声だけを聞けば催眠状態とは思えない。

心の中からの叫びを、瑞樹の本心が、瑞樹の口が、伝えたいと、意思を持っているかのように。


「でも、美月が、死ななかった、のは…」

「僕、のため、だ、って」

「『私が死んだら、瑞樹が死んじゃうから』って…」

「…死のうとして、ごめん…なさい…って。私、なんかがいて、ごめん、なさい、って…書いて、あっ…て」


翔也と春海は、はっと顔を見合わせた。


「僕が…僕が、美月を憎んで、忘れようとして、過ごそうと、していた、のに…美月は、僕に謝って、いたんだ」

「美月なんて、僕と同じ、じゃない…僕以上に、苦しかったはず、なの、に…僕のことを考えて、僕に、謝ってたなんて…! 」


眠っているような表情が少しずつ歪み始め、

閉じられた瑞樹の瞳から、微かに涙が溢れてきた。


「最低だ…苦しみなんて、昨日も明日も毎日もないなんて…そんなの、僕だけじゃない、美月だって、一緒のはずなのに…! 僕が男だから、美月はもっと、苦しんでいたのに…! 僕が美月を、憎んでいた、間…美月は僕に、謝っていたんだ…ずっと、ずっと…! 美月は、何にも、悪くないのに! 僕は…僕は…」






「はいっ! 瑞樹は、落ちる!」

「っ!」


突如、春海が大声で瑞樹の話を遮りつつ、指を瑞樹の耳元でバチンと鳴らしてみせた。

瑞樹の肩が驚いたように跳ねるが、春海は布団を使って瑞樹の体全体を優しく押さえつけ、目を手で覆う。翔也は一体どうしたのかと問い詰めようとするが、春海に片手で制されたため、一旦黙り込んで経過を見守ることにした。


「そう、とーっても苦しかったね、そう。でも大丈夫。ほら、そういった感情は一回息を吐くごとに瑞樹の体の中から自然に出て行くよー。そう、今瑞樹の心は深ーい状態にあるからね、感情もより出て行きやすくなる。ほーら、息を吐いてごらん。はいすーっと、ほら、出ていく出ていく。荒れていた心が静かーになっていくよー…」


口調の変わった春海の暗示。前よりもっと大きめの声かつ落ち着いた雰囲気によって、瑞樹の様子が段々と変わってきた。

息を吐くたびに、歪んだ表情は落ち着いた睡眠状態に戻っていく。


「はいそうー静かになってきたね。そう、どんどん戻っていこう。さっきの荒れた状態から、どんどん時間が巻き戻っていくよー。そうー私たちが質問する直前、あなたが催眠状態に入ったばっかりの頃を思い出して。そうさっきまであの頃を思い出していた瑞樹はいないよー。なぜなら時間が戻ったから。そう、今はこれから質問するところ、あなたは心の奥底からなんでも質問に答える状態になったところ。そう時間が巻き戻ったから、今までまだ質問はされていない。これからあなたは、初めての質問に答えていくよ…」


「…」


ここまでゆったりして、かつはっきりとした声の暗示を入れられて瑞樹は完全に落ち着いていた。

春海の言う通り、最初暗示にかけられた時の状態に、戻ったのだ。


そんな瑞樹の様子を確認した春海は、ゆっくりと後退したかと思うと…どっと座り込んで壁にもたれた。


「春海、大丈夫なのか?」

「はああああ…ちょっと腰が抜けちゃった…。催眠状態であそこまで感情が出るなんて想定外だから、めっちゃ焦った…。でも、なんとか元に落ち着かせられて、よかったわ…」


完全に脱力して、肩を落とす春海。

心配そうな翔也を差し置いて、春海は二、三回頭を振ると、すぐさま体を起こして立ち上がり、瑞樹の側に寄った。そんな様子の春海に、翔也は慌てて声をかけた。


「お、おい。何するんだ?」

「何って、決まってるでしょ。『瑞樹が美月を好きな理由』のまだ本質までは聞いてないじゃない。そこを聞くのが今回の目的の一つなんだから」

「いや、そうだけどよ。でも、またさっきみたいに瑞樹が暴れるっつーか…感情が抑えられなくなっちまうんじゃねーか」

「かもね。でもまあ、そこらへんは上手く暗示を工夫して切り抜けられるかどうかって感じね」

「……『かも』とか『どうか』とか曖昧すぎるぞ。おい、これ以上瑞樹に辛いこと思い出させちまうんじゃ…」

「…あのね」


くるり、と春海が翔也の方へ振り向いた。

その視線は鋭く、有無を言わせない迫力のまま、翔也に向かって言葉をぶつける。


「今更、怖気ついたとか言わせないわよ。私たちがこうして瑞樹の心を暴こうとしていること自体、友達失格レベルの行為だってことを忘れないでちょうだい。中途半端に止めるようなら、瑞樹や私だけじゃなくて、瑞樹のためと思って決断したあんた自身をも裏切る行為だと思いなさい」

「…毒を食らわば皿まで。全てをはっきりさせるわ…いいわね?」

「………ああ」


翔也は、頷く他なかった。

いや、春海の言葉を聞いて、再び覚悟を決めたようであった。


そんな翔也の瞳を一瞥すると、春海は再び瑞樹の側に近づく。


「…瑞樹、私の声が聞こえますか?」

「……はい」


本当に最初に戻ったかのごとく、夢うつつとした声で瑞樹は返事をした。


「…あなたが、好きな人物は……白崎 美月ですか?」

「…………はい」


春海は、もはや答えを引き出しやすくするダミーの質問すらせず、直接本質へ切り込んでいく。

見かけ以上に、春海も内心焦り気味であった。


「あなたは、どうして、白崎 美月が好きなのですか? …簡潔に答えてください」







「……分からない、です……でも…」

「笑って欲しい、と…思うんです…美月には」

「美月が、僕なんかより、ずっと苦しんでる...って、知った、あの日から...美月のことが、頭から、離れない、です」

「美月の、ために、少しでも...助けて、あげたい。会えなくても、いい。見えなくても、いい、から...幸せで、いて、欲しい。ずっと、笑顔で、生きて欲しいと...思うから...」

「...僕は、美月が好きです。...例え...伝えることが、叶わなくても」


そう告白したのを最後に、瑞樹は再び口を閉じて静かになった。


それから、春海と翔也はまるまる1分間...動かなかった。

むき出しになった親友の本音を真っ向から受け止めた二人のうち、最初に口を開いたのは春海だった。


「全く…簡潔にって言ったのに…こんな朗々と惚気られちゃ、たまらないわね」


催眠中の瑞樹に影響しないような小声で漏らした春海の感想は、言葉通りの「たまらない」という感情ではなく、むしろ…感動する映画を見た後に溢れてる感嘆の言葉のように、聞こえる響きであった。


そんな春海は、チラリと横目で翔也を見つめて聞いた。


「さて…あなたの望みであった、瑞樹の本音だけど……どうする? 翔也」

「…………」


翔也は最初、聞こえていてもなお返事をせずに黙って目を閉じた瑞樹の顔を眺めていた。

だが、突如大きく息を吐いて脱力し、部屋の壁にもたれかかったと思いきや、ポツリと呟いた。


「…わかったよ。瑞樹。お前のその感情は……もう、ただの友達が口を挟めるようなものじゃ、ねえんだな」


翔也は、悲しみと安堵の入り混じった複雑な表情をしていた。

親友として、瑞樹が自分を犠牲にするのは納得いかないという気持ちは変わらない。だが、今まで知る由もなかった瑞樹と美月の関係。瑞樹が美月に寄せる思い。それは翔也と瑞樹の間の親友という関係よりも遥かに上の存在だと、翔也は思った。


自分を犠牲にする行為は、瑞樹にとってはそれも『幸せ』なのだろう。犠牲により、美月が幸せになると同時に瑞樹もまた幸せになる。決して会えない二人の間で感情がシンクロするほどに、瑞樹にとっての美月は大切な人で、好きな人なのだ。


好きな人のために犠牲を受け入れる『覚悟』を、翔也はひしひしと感じたのだ。

翔也が納得できないからと言って、瑞樹が固めたその覚悟を崩そうとするような真似をする気は、もう翔也にはなかった。


「…それは、満足したって受け取っていいのかしら?」

「ああ…もう充分だ。瑞樹の気持ちは充分理解した。もう口出しはしねえ。陰ながら、瑞樹を応援することにするぜ」

「……分かっているとは思うけど、念のために釘を刺しとくわ。私たちが催眠で聞き出したことは、他言無用よ? …もちろん、瑞樹本人にもね」

「当然だ。応援するとは言ったって…俺なんかにゃ、見守ることしかできねえだろうしな」

「あら、あんたにしては殊勝なのね」

「…うるせえやい」


軽口をたたき合う二人の間の空気は、少しだけ軽くなった。

とはいえ、この場にいるのは二人だけではない。まだ催眠状態の瑞樹がいる。

時間も迫ってきている。目的を達した以上、早く催眠を解いて解散することにしよう。春海はそう思って、瑞樹の側に寄った。


「………」

「…どうした?」


催眠解除のための文言を述べようとして、口を中途半端に開けた状態のまま、春海は固まった。不思議に思って首を捻る翔也。春海が突如固まった理由。それは、彼女の脳内に蘇った記憶のことが、気になったからだ。


催眠術の本を纏めようとしていたあの日。

瑞樹本人の口から「図書室にはほとんど行ったことない」と聞いていたのに…瑞樹は突如として図書室にやってきたのだ。あれによって危うく春海と翔也の計画が瑞樹にバレるところであったのだ。


春海と翔也との密会と、瑞樹が図書室に現れたことは偶然だったのだろうか。

それにしても、図書室に現れた瑞樹の挙動不審な様子が春海の脳内に焼き付いて離れない。

その上、さらにその日の二日前には、あの白崎美月もまた図書室に訪れていた…。


この疑問は、ずっと前…正確には三日も前から胸に燻っていたものだった。

昨日、美月の机をこっそり漁った時には、解決しなかった疑問。

…ひょっとしたら。


「…瑞樹、私の声が聞こえますか?」

「……はい」


「一昨日の放課後…あなたは、学校の図書室へ…行きましたか?」

「…はい」


春海が問いかける言葉は、とても催眠を解除するためのものとは思えなかった。

翔也はどういうつもりだと口を開きかけるが、春海に手で制されてしまう。

少々不満に思いながらも、翔也は今はまだ様子を見ることにした。


「……なんのために、図書室へ行きましたか?」

「…美月の、借りた本が……気になった、から、です」


「「!」」


春海と翔也は驚きで目を見開き、互いに顔を見合わせた。

心臓の鼓動がいつもより活発になった春海は、落ち着いた声を出そうと努力しつつ、言葉を紡いだ。


「…あなたが、図書室へ行くまでの過程を、詳しく教えてください」

一昨日おととい……僕が、居残り勉強、してた時…教室に、一年生、の…図書委員が、来て」

「一年…? 私や翔也が教室を出た後かしら…?」


疑問をつぶやく春海だが、それに対して催眠状態の瑞樹は反応することはなく、独白を続けていく。



「…本の、返却期限が…過ぎてるから、返すように……伝えてくれ、って…….美月に」

「…えっ? 美月に伝言を…瑞樹に?」

「……その、一年生は…僕と、美月を…兄弟だ、と…思っていた…よう、でした」

「マジかよ。よっぽど友達がいないのかその一年は」


後ろで翔也が呆れたような声をだす。いわれのない中傷のように聞こえるが、実際春海も同じ感想であった。なにせ珍しい二重人格である瑞樹…と美月は非常に有名だ。無論、あまりいい意味とはいえないが。

どちらも帰宅部なのにも関わらず、例えば翔也属するバスケ部においても、先輩後輩に関わらず顔と名前は知れ渡っている。休み時間にこっそり教室内部を伺ってくる別のクラスの野次馬は、瑞樹に視線を集めてひそひそ話をしたり、瑞樹と面識がない人物がわざとらしい声で挨拶をしてくることもあるレベルだ。


それでも瑞樹を知らないとなれば、普段から教室や廊下で飛び交っているであろう二重人格者の噂をも耳に入らない環境…つまりは「ぼっち」であるという可能性が一番高いのだ。


だが、今重要なのはその点ではない。春海と翔也は、より注意を払って瑞樹の独白に耳を傾ける。


「…その、一年生から、教えられた…美月が、借りた本の、表紙が…どうしても、気になって…一昨日……図書室に、本の写真がないか、確認しに…行きました」

「表紙が…気になる?」


なぜ表紙が気になるのか、理解できない様子の翔也をよそに、春海は静かに瑞樹に向かって問いかけた。


「その本の……タイトルは?」









「『よくわかる 世界の黒き死神』」


その言葉を聞いて、春海と翔也は思わず体を強張らせた。




 

*

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「…3、2、1、ハイ!」


春海の鋭い声と、パンッという拍手の音。

それから一瞬遅れる形で、瑞樹の瞼が小さく動いた。


「…んぅ」


瑞樹の口から漏れた、空気が漏れるかのような小さな声。

やがて徐々に瞼が上がっていき、瞳が完全に露わになったところで瑞樹の目に光が戻ってきた。


「…あれ、僕……寝てた、のかな」

「そうね。どう、調子は?」


椅子に座っている春海が声をかけると、瑞樹はまだぼんやりした表情のまま、上半身を起こした。

ふるふると頭を振ってより意識を覚醒させた瑞樹が、小さく呟いた。


「…なんか、すごく気持ちが軽くなった…気がするよ」

「そう? よかった。それなら、今回のセラピー療法は成功ね」


安心したように微笑む春海を横目に、いそいそとベッドから降りる瑞樹。

ふと部屋の隅を見ると、床に座って悩ましげな表情をしている翔也の姿が目に入った。


「…あれ、翔也。大丈夫? なんか元気がないみたいだけど」

「……お、瑞樹。いや、なんでもねえよ。ちょっと春海のセラピーとやらのせいで、俺まで眠くなっちまってな…」


ふわあ、とあくびをしてみせる翔也をみて、瑞樹は急に時間が気になった。

改めて部屋を見渡して、ベッドのそばに置いてある目覚まし時計を見つけると、そこに示されている数字を見て飛び上がった。


「やばっ! もうこんなに時間経っちゃってた!?」

「…あ、そうだ、瑞樹の門限!」


素で忘れていたらしい春海が瑞樹と一緒に慌てた声をだす。瑞樹は手早く身についている貴重品の存在を確認すると、ほとんど叫ぶような声を春海に飛ばす。


「ごめん! 僕、急いで帰らなきゃ!」

「う、うん! もう帰って大丈夫だから。私こそこんなに長くつき合わせちゃってごめん!」

「ううん大丈夫! それじゃあまた明後日ね!」


律儀に春海の言葉を受けて一礼したのちに、瑞樹は部屋を飛び出した。

玄関のドアが勢いよく開く音、そしてそれが閉まる音が春海の部屋に微かな音として届いた時、翔也がポツリと呟いた。


「なあ…春海。瑞樹、大丈夫だと思うか?」

「何よ。瑞樹については吹っ切れたんじゃなかったの?」

「吹っ切れた…とは思ってたんだけどよ…頭から離れねーんだよ。瑞樹の言ってたことが…」

「…気持ちは分からなくもないけどね、気にすることじゃないと思うわ」



美月が「よくわかる 世界の黒き死神」というタイトルの『黒い表紙の本』を抱えて図書室にいた。

ちょうど屋上にて『死神が出るという言い伝え』の話題が出た日の、翌日に。




瑞樹に至っては、その日に初めて聞いたものであったことから、ことさら印象に残っていたことだろう。何せ「死神にうっかり会っちゃうと嫌だ」だなんて半ば言い伝えを信じているような言葉まで発していたのだ。

それを自分の意中の相手である美月が、何やらそれっぽい行動をとっていたとあらば、気になって図書室を訪れたという瑞樹の行動も無理はない。


だが、春海にとっては気になる…というよりも「気にしてもムダ」という類であると判断していた。


「単に美月も死神の言い伝えについて気になったってだけじゃないの。むしろ、それを知ったからといってどうしろっていうのよ。『瑞樹が気にしちゃうから、あんたは死神の伝説について調べたりするのはやめなさい』って言いにいく?」

「や…流石にそんなことはしねえよ」

「でしょ? …多分、瑞樹はなんか死神のこと信じてそうだし、美月が死神に会いやしないかと不安なんでしょ。ま、時間が経てばそれも杞憂だったって、瑞樹もすぐ分かるでしょう。だから大丈夫よ」

「…まあ、そうか」


春海に対し、納得したという意思を示す声を漏らした翔也。

…実を言うと、その脳裏には納得とは逆の可能性を示唆するような言葉が浮かんでいた。



——でもよ…もし、もしも……本当に、『死神』が…



だが、その後の言葉は口に出るより以前に、脳内で徐々に萎んで消えていった。

想定することだけなら容易だ。だが、口に出す準備として脳内に言葉を思い浮かべると、あまりにも滑稽に思えてしまうのだ。





口に出すまでもない。出したらまたバカにされるだけだ。自分自身ですら「ありえねえだろ」と思ってしまう可能性を、なぜ自分は考えてしまったのか。翔也は顔を顰めた。アロマの香りは、そろそろ消えそうだった。

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