数分後、警備隊本部へと辿り着いた。それほど離れてはいなかったからなのか、かなり早く着いた。
「姫。到着いたしました」
「ありがとうございます」
パメラは御者の人に馬車のドアを開けて貰い、お姫さまのように馬車から降り、未来と茅尋もその後に続いて馬車から降りた。
目の前には、見るも立派な建物が建っており、入り口の脇には出入りする人を見張るための、警備兵もいた。
「待て、お前らは何者だ。この建物に何の用だ」
「ここがどこだか知っているのか」
本部の中に入ろうとしたら、入り口をまもる警備兵2人に止められた。
街の入り口にいた警備兵もそうだが、金属製の鎧などではなく、一般的な布の服のようなものを身につけていた。それでいてこの2人は剣を持っていた。
剣を交差するように前に出され、先頭を歩いていた御者はその場から動けなくなってしまった。
「ぶ、無礼な! お前たちこそ、ここにおわすお方をどなたと心得るか!」
「ああ? 知らんな」
「そもそも、私は教会の者だぞ! 教会の人間に対して剣を抜くとはなんということを!」
「てめぇが教会の人間だろうとなんだろうと、不審者はここを通すわけにはいかないんでな。おとなしく家に帰んな!」
至極最もな気がしないでもない。そもそも、日が落ちてから外を出歩くのは、大体が冒険者か酔っ払い、あるいは、犯罪者とこの世界では相場が決まっている。教会の人間がこの街にいるのもおかしな話しでもあるのだ。
「姫。やはり、このような野蛮なところは姫には合いません!」
「そうかもしれないけど、そうしたら結局野宿だよ?」
「ぐっ」
「衛兵さん、衛兵さん。これ」
「ん? なんだ? こ、これはっ!」
未来が街の入り口にいた警備兵に渡された紙を、建物の入り口を守る警備兵に手渡した。
そういえば、そんなものも貰っていたな。
慌てた様子で、入り口前の警備兵のうちの片方が中へと入っていった。それから待たされること数分、再び警備兵が慌てた様子で戻ってきた。
「お待たせした。中に入れ」
言われるがまま、建物の中に入ると、そこにはまた別の警備兵がおり、その警備兵に案内されて、貴賓用の寝所へと連れて行かれた。
貴賓用の寝所は、質素な作りをしているものの、高価そうな調度品や花などが生けられており、とても手が行き届いている様子であった。
「ここで寝泊まりをするがいい。今日は遅い。明日、我が団長に会って貰う」
「は、はぁ」
それだけ言うと、ぶっきらぼうな警備兵は、部屋から出て行ってしまった。ベッドが1つあるだけで、4人が寝るには狭いように感じた。ベッドとはいっても、それなりの広さがあり、3人は寝れるようであった。
「姫。私は床で寝かせていただきます」
そういって御者の人は譲らなかった。そもそも、男一人女三人が同じ部屋で寝泊まりするのも勘違いされそうなところである。更に、パメラは王族であるため、これが知られたら御者は打ち首も免れないだろうと考え、最初は馬車で寝ようとしていた。それを思いとどまらせて部屋で寝ることになったのだが、それでも、床で寝ると言って譲らなかった。
「姫、お二方。私のことは気になさらず、ベッドでお休みください」
かたくなに譲らなかったので、せめて寝心地が悪くないようにしてあげてから、その日はみな眠りにつくことにした。
そして次の日。日は完全に昇っており、その貴賓用の寝所には朝日が差し込んでいた。
「あ、朝・・・・・・」
茅尋がむくりと起き上がると、すでに御者さんは起きており、優雅にモーニングティーを嗜んでいた。
「あ、おはようございます、チヒロさま」
「お、おはようございます」
「いま、ご用意致しますね」
そう言って、御者さんは紅茶の準備を始めた。この部屋は、一通りの生活家具は揃っており、更に簡易なキッチンまで完備されているため、簡単な食事くらいならこの部屋でも用意が出来そうであった。
「普通、貴賓室にキッチンなんてあるものなの・・・・・・?」
「料理を嗜む王族の方々もいらっしゃいますから、こちらの世界の貴賓室には大抵こういう簡易キッチンは設けられているのです」
別に、前の世界にも料理をする王侯貴族がいないわけではないと思うが、それでも、貴賓室にキッチンが設置されているなどという話しは聞いたことがなかった。最も、聞いたことがないだけで、実際はあるのかもしれないが。
「お待たせしました」
そういって従者さんが紅茶を淹れて持ってきてくれたので、それを飲みながら、未来とパメラが起きるのを待っていると、ドアがノックされた。
「おはようございます」
ドアを開けると、ドアの前に一人の大柄な男が立っていた。昨日出会った、門番の警備兵とも入り口にいた警備兵ともまた違った服装をしていた。
「中に入ってもよろしいでしょうか?」
「え。あー・・・・・・ちょっと待ってください」
その男が部屋の中に入ろうとしたので、とりあえず部屋に入るのは待ってもらうことにして、パメラと未来をたたき起こした。
たたき起こされた2人は、若干眠そうにしていたが、そこはさすが王族の姫ということもあり、パメラは人が来ているというと、シャキッとした顔になった。その間10分ほどであったが、結構時間がかかったような気がした。
とりあえず、パメラをイスに座らせて、部屋の前で待たせている男の人を呼びに行った。
「お待たせしました、どうぞ」
「はっ、失礼します」
男は、仰々しく頭を下げると、部屋の中へと入った。部屋の中へ入ると、御者さんに案内されて、パメラの元へと向かった。
「昨日は、私の部下が失礼なことをなさったようで、大変申し訳ありませんでした」
パメラの前につくと、男はその場で土下座をして謝罪の言葉を述べた。
部下、ということは、この人は昨日、建物の前にいた警備兵の上司だろうか。
「顔を上げてください。あの場では、貴方の部下は正しいことをしたと私は思います」
「はっ。勿体なきお言葉」
「よーっ、起きてたか」
今度は、勢いよくドアが開け放たれて、一人の男が部屋の中へと入ってきた。その男は、昨日の夜に門番をしている男であった。
「貴方は・・・・・・。おかげさまで、こうして休むことができました。ありがとうございました」
「いや、いいって事よ」
「団長、服は着替えてきてください。警備兵の服のままですよ」
「ん? ああ、夜勤明けだからな。まぁ、堅苦しいのはなしってことだ」
「だ、団長!?」
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