アーティスト:レリーオン

偉人に取り憑かれてしまったんだけど。
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6.ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンとの田園

公開日時: 2021年2月17日(水) 05:00
文字数:2,089

「太一、この2人はお前の知り合いか?」

剛はパブロとルートヴィヒを指さして僕に聞いてくる。

「あー、うん、そうだよ、知り合いだよ」

残念ながら知り合ってしまったよ。

「2人とも、自己紹介すれば?信用されるとは思えないけど?」

「わかったよ。僕はパブロ・ピカソだよ。末永くよろしくね」

「末永くって結婚するようなときに言う奴だよ」

「え、本当に?日本語ってわかりにくいね・・・・・・」

そういえばパブロは日本人じゃないんだった。日本語がおかしいことだってあるのか。

「俺はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンだ」

「・・・・・・は?」

剛は信じていないようだ。

まあそりゃそうだろ。

僕も信じてないし。

まあ変な能力があるっていうのはわかったけど。

「あのさ、剛。この人たち、他の人たちには見えていないから、あんまり大声で話さない方がいいよ?」

「え、そんな嘘つくなって」

そう言って剛が周りを見る。

周りの白い目を見る。

「マジか」

「マジだよ」

「そうか、今まで太一が変な独り言言ってるって思ってたのはこんな人たちと話してたのか」

「今こんな人たちって言ったかい?」

「少年、剛、といったな」

「あ、ああ、そうだけど何だよ」

「俺のパートナーになれ」

「あ、俺、そっちの趣味はないからお断りします」

「そっちの趣味、とはどういうことだ?」

「剛、この人たちまだ日本語慣れてるわけじゃないから」

「なぁ、こいつらの自己紹介って本当なのか?」

「本当らしいよ」

「らしい、ってどういうことだよ」

「過去の偉人と同一人物かどうかはわからない」

「偉人だなんて、照れるなぁっ!」

「パブロ、うるさいよ」

「ひどいよ、うるさいだなんて」

「んでさ、一昨日ぐらいにグラウンドめちゃくちゃになったでしょ?」

「ああ、なったな」

「あれ、僕とパブロでやったんだ」

「はぁ?」

「何か、パブロが僕に憑依してから何かしたらああなった。んで、それをするにはパートナーが必要なんだってさ。パブロにとっての僕みたいに」

「それで、ベートーヴェンのパートナーが俺、なのか?」

「そういうことだ」


「授業始まるぞ」

学級委員に言われて、僕らはそこで一旦話を止めて教室を出る。

移動教室だから急がないと。


今日の一時間目は音楽。

音楽室に移動しないといけない。


「今日はベートーヴェン作曲、田園を聞きたいと思います」

音楽担当の原田先生が話し始める。

今日はよりによってベートーヴェンの曲の鑑賞か。

「まずは曲を流します。その後解説をします。最後に感想を書いてもらうので、よく聞いておいて下さい」

「ルートの曲を聴けるだなんて、嬉しいな。僕、ルートの曲聴いたことないんだよね」

友達を名乗っておいてそれはどうかと思う。

「ふっふっふ。俺の曲か。俺の曲が授業で鑑賞されるのか。これは・・・・・・楽しいな。フハハハハハハハハハハッハッ!」

ルートヴィヒがおかしくなった。

「剛っ!少し体を借りるぞ」

「は?」

「この気持ちの高まりをなんと表現するべきか。今ならできるっ!【憑依】」

「うわぁっ!」

「大山君、どうしました?」

「これから田園を聴くのだったな。本当の田園というものを聴かせてやろう」

「パブロ、あのさ、ルートヴィヒ、覚醒したの?」

「多分、田園が覚醒したんだと思う」

こんなにも簡単に覚醒するものなのか。

剛の右手に指揮棒が現れる。

「お、大山君?」

そして指揮を始める。

剛の周りにオーケストラまで出現して演奏を始めた。

「あ、この曲聴いたことある」

「そりゃあ、ルートの曲の中でも有名な方の曲だからね」

そうなんだ。

いつのまにか田園風景が広がっていた。

「交響曲第6番、田園。ルートが感情の表現を重視したと言われている曲だね。今ルートたちが演奏しているのは田舎に到着したときの愉快な感情の目覚めっていう、第1楽章だね。第5楽章まであったはずだよ」

楽章とかいわれてもよくわからない。

昔のヨーロッパでつくられた曲って、だいたい第○楽章とかがあるけど、楽章っていうのがよくわからないんだよな。

「ようやくルートも覚醒することができた」

「パブロのゲルニカとは随分と違うね」

「あぁ、それはね。僕のゲルニカは戦場を描いたものだから。田園の第1楽章はそんな悲しさとかを表すものではないからね。第4楽章の雷雨、嵐になると大変なことになるんじゃないかな。あ、今第2楽章の小川のほとりの情景になったよ」

「え、全部聴かないといけないの?」

川が流れ始めた。雷雨、嵐とか怖いんだけど。題名の通りになったら音楽室が吹き飛ぶんじゃないだろうか。

「いや、そんなに長い時間エンバーディメントは続けられないから、第2楽章で終わるんじゃないかな」

パブロの言った通り、数分後には終わり、嵐になることはなかった。

「剛、すごいなっ!」

「すげぇぞ剛っ!今のなんだよ」

「太一に影響されてヤバい奴になっちまったと思ってたぜ」

おい最後の奴ちょっと面貸せ。


授業が終わった後、剛が先生に呼び出されるかも、と思っていたけど、そんなことはなかった。

あれだけやったのに何もなかった理由は、すぐにわかることとなる。



○新田太一><パブロ・ピカソ

○大山剛><ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

○灰田加奈子>

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