「クソッ! あのクソ野郎どもが!」
腹が立ってしょうがない。おれはイライラをぶつけるように、ガラスのコップを思いっきり床に投げつけた。
「おい蛭野、落ち着けよ」
「うるせぇ!」
食器棚をひっくり返す。皿が飛び出してきて砕ける。あのクソガキに噛まれた手が疼いた。
「あのクソカマ野郎が! おれに歯向かいやがったんだぞ! ちょうどいい馬鹿かと思ったら、とんだザマだ!」
仲間の一人が、「これから取り戻せるだろ、な」と言う。
「お前、山桐組に一葉の連絡入れたか⁉」
「ああ、お前がしろっていうから」
「クソッたれが! もう後には引けねぇじゃねぇ!」
怒りがぐつぐつと沸き立つ。もし逃げられたと知ったら、一体どうなる。
「なあ、事情を説明すれば、協力してくれるかもしれないだろ」
「そんなわけねぇだろ! 相手はヤクザだぞ! エンコで済むのかもわからねぇ!」
東京にいた時からヤクザの恐ろしさは知っている。今は法律が厳しくなったから滅多なことはできない、と言われているが、とんでもない。約束を違えれば、即、罰が下る。同情は望めない。
「あとちょっとで杯を交わしてもらえるチャンスだったんだぞ……! どれだけの女をソープに沈めて金作ったと思ってんだ……!」
一葉の顔が脳裏によぎる。
「あの時だってそうだ……! あのクソカマが余計なことを山桐の親父に言うから計画がおじゃんになった……! あのままゴマでもすって、黙っておれを引き立てればよかったものを……!」
やがて一葉と同行していたクソガキの顔も思い出してきた。痛みも相まって、怒りではらわたがグツグツと煮え立ってくる。
「おい、今すぐ手下のチンピラどもに連絡入れろ! 全力であのクソ野郎どもを探せってな!」
「でもあいつら、どこに逃げたのはわからないぞ」
「少なくともこの近くからは離れてねぇだろ。死に物狂いで探せば不可能じゃねぇ。さっさと連絡しろ!」
仲間にそう命令し、おれは戸棚の中からダイヤル式の金庫を取り出した。
「おい、それどうするつもりだ」
「うるせぇ!」
番号を合わせ、中から新聞紙に包まれた小包を取り出す。紐を解き、包装紙を外していくと、黒光りする拳銃が姿を現した。
「お前それ、池袋の外国人マフィアから巻き上げたもんじゃねぇか」
「こいつを使えば言うこと聞くだろ」
「チャカ使ったら、サツは黙ってねぇぞ」
「だったら山か海にでも捨てればいいだろうが! サツもそこまでお守しねぇよ!」
「でも……」
おれは躊躇する仲間の顔を思いきり殴りつけ、胸元を掴んで壁に押しつけた。銃口を顎の下に当て、引き金に指をかける。
「いいか? ここで失敗すれば数年の努力が水の泡だ。絶対に、絶対に失敗は許されねぇ。わかったな!」
仲間が震えながら首を縦振る。もう一人の方も、腰が抜けて座り込んでしまっていた。
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