枢軸特急トルマリン=ソジャーナー 異世界逗留者のインクライン

戦乱渦巻く異世界を軍用列車で平定せよ!日独伊三国同盟を枢軸特急が駆け抜ける
水原麻衣
水原麻衣

蛍光色の方程式(ブライトリング・ファイアスターター)(7)  イージス艦VS戦乙女。枢軸特急の最期

公開日時: 2020年10月15日(木) 20:20
更新日時: 2020年11月25日(水) 22:14
文字数:7,977


蛍光色の方程式(ブライトリング・ファイアスターター)(7)  イージス艦VS戦乙女。枢軸特急の最期



 ■ 小田野沢漁港駅(TWX666Ω戦闘指揮車両(承前)


 パトリオットシステムは膨大な電力を食う。当然、その源となる発電機もごつい。ゆうに全長30メートルを超えようかという巨大トラックが八輪のタイヤをゆっくりと転がした。みなぎる重量感は17トン。一個小隊を轢死できそうな勢いがある。六気筒のディーゼルエンジンがうなりをあげ、夜気を焙る。青白い月が星の瞬きを巻き添えにしてユラユラと揺らめく。そこへターボチャージャーが拍車をかける。

「祥子、レーダーをおねがい」

「AN/MPQ-53 感度良好! 敵味方識別装置(アイエフエフ) 正常。ベンチャースターを検出しています」

 祥子が荷台から飛び降りた。ふわりとスカートが舞い上がり、濃紺に包まれたヒップが月明かりに照らされる。

「つぎ、射撃統制装置」

「諒解」

 ハーベルトの指示に従って祥子がキビキビと射撃統制コンピューターをチェックする。本来ならば二人のオペレーターを要するところであるが、枢軸国軍が鹵獲した際に独自の改良を加えており、レーダーからの要撃命令を一人で処理できる。一卓で十六基のミサイルランチャーに接続でき、同時に制御できる。

「情報調整装置!」「UHF回線 全段直結!!」

 ハーベルトが声をかければ、打てば響くように祥子が応じる。阿吽の呼吸で複雑なパトリオットシステムが出来上がっていく。

 フェイズドアレイレーダーがベンチャースターを掌握した。

「猛れ! 戦乙女!!」

 ハーベルトが発射命令を下すと待望の矢が放たれた。MIM-104A  STD弾は航空機対応の地対空ミサイルである。パトリオットシステムは弾道弾を落とすだけが能ではない。滑空中のベンチャースターに容赦ない鉄槌を下した。二十五トンの複合素材が一瞬にして燃え上がる。払暁の空に明星が輝いた。


 ■ 猿ヶ森沖


 愛国者(パトリオット)の懲罰は効果覿面で、ベンチャースターどもは四機を失い、一次的撤退を余儀なくされた。

 だが、連合軍が遣わした呪いの兵器は艦対空ミサイルを鬼のように繰り出している。

「この! はっ!」

 望萌は卓球金メダリストが目にもとまらぬ速さでラケットをふるうがごとく、操縦スティックをさばいていた。機体各所で燃え盛る噴煙は、彼女の四肢の延長線上にあった。高温の節足が機体から生えて、ぴょこぴょこと軌道を跳ね回る。この手のミサイルは直撃による目標破壊を前提として終端誘導されており、急激なコース変更は不可能だ。二十発ちかい敵弾は目下のところ、辛うじて回避できている。

 だが、ドイッチェラント近代航空工学の最高傑作の曲芸飛行はいつまで続くかわからない。

「ちょっとー。ずっとサーカスしてなきゃいけないのー?」

 スピーカーから喘鳴が聞こえ始めた。

「ハーベルト! あの艦をどうにかしないと」

 祥子に言われるまでもなく先輩乗務員は策をフル回転させていた。ただでさえ焦りでアイデアが纏まらない所に、先走った要求をされると、まるで自分が間抜け呼ばわりされている様に思えて、苛立ちが爆発する。

「うっさいわね! ガキの使いじゃあるまいし。どうせなら対案を喚きな」

 ハーベルトは一喝したあと、ふと閃いた。

「――そうだわ! 『わめく』 これよ!! どうして早く思いつかなかったんだか!!」

 彼女は一人で納得すると戦闘指揮車両の通信オペレーター席に座った。

「悪いけど、祥子。席を外してちょうだい。皆さんも」

 機密保持のためにハーベルトは人払いをした。盗聴器スキャナーと防諜装置を手順書通りに作動させ、エルフリーデ・ハードレー大総統府の専用回線を呼び出す。あいにく彼女は遊説中で、代わりにエレーナ・ヘルメス外相が応対した。二人は挨拶もそこそこに、とある軍事物資の調達を協議しあった。


 ■ 上奈良先端大学 研究棟跡


 突如として本通村を襲った謎の編隊は海岸を火の海にした。祥子の時間軸上では下北半島の付け根に航空自衛隊三沢基地が存在するが、ロジウム塩高効率燃焼経済によるアジアの恒久平和が実現した世界に日米安保条約はない。それどころか、国連警察軍の環太平洋部隊が香港とウラジオストックに駐留しているのみで、極東の紛争など絵に描いたような扱いになっている。金持ち喧嘩せずで東南アジアからシベリアにかけて豊かになった国々が軍事衝突するなど油田に火を放つよりも愚行だといわれている。

 人々の関心は破壊よりも建設に向いている。もっとも闘争心を解消するために爆薬を惜しげなく使ったアクション映画が量産されている。が、人々はおおむねそれで満足している。フラストレーションのベクトルは金融に向いていて相場の騰落で刃傷沙汰が絶えない。戦争は導火線のついた損益取引と目されている。そんなわけでベンチャースターの大あばれはロケだと軽く見られていた。いつの間にか高台に野次馬が集まりちゃっかり露店まで営業している。建屋が爆発炎上するたびに歓声があがっていたが、やがて、緊急車両の列がとめどなく押し寄せ、ようやく異常事態に気づいた。地元消防団が燃え盛る残骸を必死になって消し止め、沖合からも消防艇が放水する。が、そこに魚雷が直撃した。一瞬で木っ端

 みじんになる。

「ハーベルト! いつまでこもってるの。いい加減にしてよ。自衛隊は来るの?」

 業を煮やした祥子が扉を叩きまくる。

「ええ……リューカンの重水工場……テレマルク運河沿いに……無理ならティン湖に臨港線を敷設できませんか? ええっ? ノルスク・ハイドロの専用線が?! はい、お言葉に甘えて!」

 秘話装置は解除されいているようだ。ハーベルトの色めき立った声が漏れ聞こえてくる。

「ハー……ぎゃん!」「祥子! ノルウェーへ飛ぶわ!」

 出会い頭に鉢合わせた。ハーベルトは祥子を踏み越えておかまいなしに機関車へ向かう。

「望萌はどうするのさ。ねぇ、ハーベルト!」

「異世界の時間経過をいちいち気にしていたら逗留者は務まらないわ。南怒涛港市を忘れたの?」


 ■ マルコス物産


 スーツ姿の女が中年オヤジに壁ドンしている。

「待ってくれ。斎藤茂三の土地を売れと勧めたわけじゃない。むしろ俺は諫めたんだ」

「どうして力づくで止めなかったの。賛同したも同然よ!」

 甘ったるいハーブミントと腐臭が鼻腔で混じり合い高美は咽かえった。

「ヒバ森の伝説ったって、源義経が愛でていたとか、耐久性があるから津軽の水軍が元寇より頑丈な船が作れたとか、嵐の中でもビクともしかったが、敵の船は腐って沈んじまったとか、まぁ、どうもいいが、その程度だと思ってたんだよ。まさか、そういう用途があったとはな」

 ヤンソン・マルコスが日本の故事に明るくないことを割り引いても弁解の余地はないと高美は断罪した。

「ヒノキチオールは防虫抗菌効果だけじゃないのよ。安藤水軍の武勇伝は側面に過ぎない。放射線グラフト重合捕集材に加工すればセシウムを捕獲したり海中から希少金属を容易に採取したり用途は無限なの。だから茂三の先祖は売るなと言ったの。それをアンタは末代が食いつぶそうとしてて、見過ごした。売国奴よ!」

「勝手に売り払ったのはあの女だ。他人の遺産をとやかくいう資格は俺にはない。従って責任もない」

 男は言いがかりも甚だしいとかぶりを振った。

「アンタは人類滅亡の片棒を担いだのよ」

 高美はそういうとトートバッグから七十五式拳銃を取り出した。台湾製の模造品だ。

「従って、死んでもらうわ」

「ひぃ! そ、そんなもん、ど、どこから?」

 逃げようともがくヤンソン。書架に阻まれた。非力といわれるパラべラム弾は男の頭蓋を打ち砕くには申し分ない働きをした。堆積した書類に小脳が張り付いた。

「入って!」

 高美は目をカッと見開いた死体なぞお構いなしに男どもを迎え入れた。担架にシートが掛けられ、手早く救急車に乗せられる。搬送先は息のかかった病院だ。一部始終を見届けたあと、高美は指紋を残さぬよう慎重に金庫を暴いた。カチリと錠がはずれ、ヤンソンの自筆が入った書類が出てきた。どれも空欄だ。彼の用意周到さが仇となった。高美は必要事項を記入し、残ったヒバ森の権利をものにした。

「必要な材料は揃えたわ。あの変なミサイルを始末できるんでしょうね?!」

 鷲掴みにした束を白衣の女に突きつける。

「オーケイ。これで十分です。猿ヶ森のエイリアンどもを黙らせてやりますよ」

 川端エリスはうなづくと、書類を内ポケットにしまい込んだ。


 ■ ノルウェー リューカン


『ノルスク・ハイドロ鉄道運行管理部より枢軸特急トワイライトエクリプス TWX666Ω。速度照査完了』

 留萌が応答を返し、引き込み線に入ると運転台が神々しい光で満たされた。

 ノルウェー南部の要塞都市リューカンは首都オスロの南西を走るテレマルク峡谷にある。二千メートル級の山々に囲まれて秋から春にかけて陽の光が閉ざされる。この闇の底にノルスク・ハイドロの化学工場がある。

「この奥に秘密兵器が隠してあるの?」

 祥子はイージス艦を倒す禁忌兵器(エクストリーム)がどんなものだろうかと胸を高鳴らせた。

「あんまり夢中になると暗黒面に堕ちるわよ。『深淵を覗くものは、また深淵に魅入られるのである。フリードリヒ・ニーチェ』」

「わあっ、脅かさないでよ!」

 量子オペラグラスが車窓から床に転がる。拾おうとした祥子のスカートから眩い布地が見え隠れする。

 TWX666Ωはスイッチバックを繰り返して高さ104メートルの急斜面を降りた。ノルスク・ハイドロ社の発祥は前々世紀に遡る。もともとは急流の落差を利用して多連装砲のように長いパイプラインを引き、肥料工場が建てられた。そこを中心にさまざまな化学工業が発展した。

「北欧最大級の重水プラントですよ」

 工場長は急な注文に快く応じてくれた。つい先日、連合側がこの巨大施設を奪取しようと画策したが枢軸の諜報活動が奏功して未遂に終わった。その借りを3万5千ガロンもの重水で返そうというのだ。

「ハーベルト。わざわざ水を汲みに来たの?」

 なみなみと讃えたプールを祥子が不思議そうに眺める。タンクに水を詰めて渓谷を登るなど非効率的だ。

「いいえ。あれを使うわ」

 ハーベルトの視線は山頂に向いていた。戦闘工兵部隊が超巨大な凹面鏡を建設した。太陽光を反射させて街の中心部を照らそうというのだ。

 高さ六メートルの鏡が三枚。合計五十平米の反射面が電子制御で太陽を追随し、六百平米の範囲を照らし出す。

「重水の蒸気を山頂で回収するそうですな」

 もともとは工場長が従業員の福利厚生と能率アップのために公費で建設する構想を描いていた。

「あの鏡はそれだけじゃないわ。イージス艦を封じる重要な役割を果たすの」

 ハーベルトが見守るなか、プールに猛暑が押し寄せ、もうもうたる湯気が雨雲を形づくっていく。やがて、山のてっぺんが土砂降りになった。

 反射鏡はプラントの周辺を巧みに熱して上昇気流を発生させた。渦巻く雲が水槽(バケット)車にピンポイントの雨を降らせる。一杯に水がたまると、線路を下っていき、空のバケットが登ってくる。壮観な光景に祥子の目がかがやきだした。

「あれだけの重水――そうか! やっとわかったよ。ボクたちの出番だ」

「ご名答。ダイマーダンサーの檜舞台よ。望萌の修羅場にじゅうぶん間に合うわ」


 ハーベルトは腕時計を一瞥し列車に乗り込んだ。


 ■ 東通村 保健福祉センター


 臨時の救護所が設けられ、村民総出で怪我人を看護している。シートが張られた検診ホールの一角で斎藤夏希一行がピンピンしていた。さすがは脱出劇で鍛えた秘境田。あの惨事も秘境田に言わせると「大したことはない」

 物事には表と裏があり、種も仕掛けも必ず存在する。しかし、そのカラクリは彼しか知りえない。もっとも天福にとってやることなす事すべてが魔術という現実であるらしいが。

「いったいどこまでがイリュージョンなんですか?」

 一瞬にしてテレポーテーションした夏希は狸に化かされたような表情をしている。

「いや。現実だよ。俺が宇宙人を呼んだんだ」

「ハラーショウ! 実に素晴らしい。ソビエトでは地球外生命体の存在は周知の事実です」

 ストルガッツキーさんが手を叩いて天福を絶賛している。

「これだけの怪我人を出して、何が素晴らしいですか!」

 どこまでも自己中な外人に夏希が憤慨した。

「すぐ治る。俺が治療する。いいか? さん、んんんーーーー!!」

 あろうことか、数える間に一人残らず完治させてしまった。寝たきり状態や血だるまの人々がむっくりと起き上がり、しっかりとした足取りで部屋を出ていく。さっきまで痛々しい傷が嘘のように消えてしまった。

「うヒャひャヒャヒャハ! ハーラッショウ!! ジツニスバラシイ!!」

 ロシア人が失笑しながら転げまわる。

「「なんなんだよ?」」

 救護隊員や看護婦は二の句を告げなかった。人垣を割って例の川端エリスが前に出た。

「度が過ぎる科学は魔法と区別できない、と言ったのはアイザック・アシモフでしたっけ。初めまして」

 似非宇宙人はいけしゃあしゃあと握手を求めた。


 ■ ふたたび小田野沢漁港


「……で、近接防空システムはパッシブレーダー・ホーミング方式で捕捉追尾するのだけど、RIM−116Bミサイルは発射直後から全行程を赤外線誘導するの」

 沖合のイージス艦はレーダー波を発しない飛行物体に悩まされている。通常ならば内懐に飛び込んでくる敵影は対艦ミサイルしかない。こちらにレーダー波を浴びせながら向かってくる目標は誘蛾灯も同然だ。しかし、天使を迎撃できるようには設計されてない。

 AN/SLQ-32電波探知装置は探知情報をまったく提示できず、やむなく近接防空CIWSシステムはIIR(赤外画像誘導)を採用した。喫水線ぎりぎりに突入してくる高速飛翔体を発見。

「RAM近接防空ミサイル、同一目標への複数弾斉射!」

 繊維強化プラスチック製のキャニスターから反撃の狼煙が立ち上る。ロケットモーターが燃焼開始。80ピクセルの線型アレイが女ふたりをレチクルに収めた。

「ミサイルの挙動が変わったわ。祥子、いくわよ!」

 ハーベルトが共有視覚を赤外領域にシフト。敵影がモノクロのシルエットを呈する。船体の一角が消しゴムのように白く濁っている。「オーケー。ガスタービンエンジンの排気が見えるよ」

 祥子がたなびく排煙を目で追う。沿岸のTWX666Ωが列車砲を炸裂させた。砲弾は大きなアーチを描いてイージス艦を目指す。

 ただちに対空機関砲が発砲。劣化ウラン弾がばら撒かれる。次から次へと海面に打ち込まれる砲弾。機銃はすべてを正確に射抜いていく。弾頭は炸薬ではない。中身は液体だ。

 流出した重水がイージス艦をゆっくりと取り囲む。重水と海水の識別は困難で、そもそも敵艦にそのような検出器は備わっていない。

「いまよ! 重水ランプ、ライトアップ!!」

「炭化水素、誘導開始」

 祥子がダイマー能力を展開。ハーベルトの示した座標へ排気ガスを導く。

「脱水素、重水素置換!」

 ハーベルトのスキルによって水素原子が重水素と入れ替わった。

 炭素に付着する水素を重水素で置換した場合、重水素グリシンとなる。その赤外線吸収能力は尋常ではない。

 ”――ッ?! 敵影、消滅?!!”

 RIM−116Bは目標を喪失。そこへ猿ヶ森風電工房の敷地内から太陽光が降り注ぐ。巨大な反射鏡による強力な熱量が重水素に作用し、致死量の紫外線が敵艦を直撃する。

 被ばくした付近には強力なオゾンが発生。船体を腐食し稼働停止に追い込んだ。

「爆発する!」

 祥子は疲れ切ったハーベルトを抱きかかえ、海面にダイブ。喉元にサメのエラに似た亀裂が走る。翼が鰭状に変化し急速潜航する。青い世界に真珠が満ちた。


 ■ 斎藤興商


 午後の相場は波乱の展開となった。年初以来の高値更新が途絶えるどころか、優良銘柄が軒並みストップ安となり、ついにサーキットブレーカーが発動した。

「えっ、マジ? いきなりそこまで下がる?」

 斎藤興商の電話は鳴りっぱなしだ。怖気づいた夏希はモジュラー線を引っこ抜いた。テレビは株価暴落のニュースで持ち切りだ。市場関係者は得体の知れない恐怖に怯えている。正体不明の不安ほど厄介なものはない。投資家マインドは希望的観測と将来不安の矛盾で出来ている。高美は緊急記者会見でベンチャースターの出資者達に事業見通しの説明を求められている。泳ぐ目線がブラウン管越しに突き刺さる。

「ざまあ」

 夏希は旧知の窮地を救済する気は毛頭なかった。

「これからは不確実と不安の高まりが経済を牽引するのよ」

 彼女はそう強がると、部下達に社会不安の高まりを前提としたビジネスプランを検討させた。

「世の中が壊れていくわ。将来像も経済発展も人の心も。確実なものが何もない」

「人が人を信じられない」、と秘境田。

「だからこそ、旧弊の打破が求められる。今までにない、まったく新しい価値観、文化……」

 自称宇宙人が窓辺から煙る摩天楼を被造物であるかの如く見下ろす。

「連合国民がよく言うよ!」

 ガラッと祥子がサッシを開いた。

「――! お前はッ!?」

 砕け散ったガラスが降り注ぐ中、ハーベルトがエリスの鉄面皮をはがす。背中合わせに祥子がアサルトライフルを撃ちまくる。

「国会議事堂前駅できみ子達をけしかけたのか、そもそもの過ちよ。枢軸特急の線路内に侵入する技術は連合の専売特許よね」

 ハーベルトが問い詰めるがエリスは押し黙ったままだ。

「そして、イージス艦。ねぇねぇ。ドイッチェラントに沈められてどんな気分?」

 祥子が意地悪そうにおちょくる。

「いい気になるのも、そこまでよ!」

 ブラウン管を見るように夏希が促した。

『それでは行ってみようか。さん、んんーー。にぃいい、いいい〜……』

 あろうことか秘境田天福がTWX666Ωをイリュージョンの出汁にしている。彼自身が機関車の前で逆さ磔にされている。手足は鎖で厳重に固定され南京錠がいくつもかけられている。「ぽっくり69分緊急スペシャル テンプク大脱出! 死の枢軸特急連続爆破地獄」と

 いうテロップが出ている。

 そして、最初の爆発が最後尾で起きた。スタジオのワイプ画面が重なり、ゲスト女優が芝居がかった悲鳴をあげる。

 さらに画面が分割され、車窓がズームアップする。運転手たちが窓ガラスを必死で叩いている。

『大変です! 早く女の子たちを助けないと!! 天福先生〜〜』

 司会者(エムシー)が煽る煽る。

「留萌! ブレーズ!」

 祥子は車内に見知った顔を見つけた。

 エリスが勝ち誇ったように告げる。

「そうよ。わたしを偽宇宙人だと思い込んだのが運の尽き。木乃伊取りが木乃伊になるなって熱川さんが警告してくれたのにね。ばかおんな」

「じゃあ、亡命劇も、漁協の騒ぎも今までのは全部、TWX666Ωを始末するための?!……」

 ハーベルトと祥子を列車から引き離すための陽動作戦だったというのだ。

「エリス、君はやっぱり本物の宇宙人なのかい?」 悔しがるハーベルトを横目に祥子が問いただす。

『ああっ、いま、大きな爆発が。 ああっ、列車が炎に! 大丈夫でしょうか!』

『キャーッ。大丈夫なわけないじゃない!! あなた、バカ?』

 スタジオの喧騒がエリスの回答をかき消した。

『ああーーっと! 第二弾の爆破がー。 ちょっと、聞いてないよ! なんで駅舎もぶっ飛ばすわけ? うわっと』

 ドン、と受像機が震えた。

 ハーベルトは殺意に満ちた目でエリスを睨み返す。アサルトライフルを突きつけ、言い放った。

「ぶっ殺す! 今すぐに人質と列車を解放しないと、お前の家族を、いや故郷を滅ぼしてやる!!」

 負けじとエリスも反撃する。

「ああ? できるものならやってごらん。この世界は今すぐ、滅亡するんだからね!!」

 言い終わらぬ間に向かいのビルが被雷した。パッと世界が白熱する。

「今の超新星断片。大気圏内で爆発したのさ。もっと大きな本体が地球の公転軌道に乗ったよ。あとは時間の問題さね」


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