『弓矢隊前へ――――此度、我らの狙いはオークではない。星辰の姫に従い、リューンを汚す賊を撃つ』
『弓矢隊前へ』
『弓矢隊前へ』
巨大な森林に囲まれたエルフの宮殿から、白銀の縁取りを施された全長200mほどの騎士然とした人型の甲冑兵器が一糸乱れぬ動きで前に出る。
光り輝く弓に一本の樹木をつがえたエルフの騎士たちは、眼前で牙をむくグノーシスの人型機動兵器――――アルコーンに無言のまま狙いを定める。
『祈り、感謝する。我らの光は常に万物と共に』
エルフの騎士たちが一斉に祈りの言葉を宇宙に捧げる。
それと同時、弓につがえられた樹木は閃光を帯びて燃え上がり、一瞬にしてその場から転移。
次の瞬間には遙か離れた無数のアルコーンが光の矢によって次々と串刺しにされ、自己再生も間に合わぬままに爆発四散する。
『騎兵隊、突撃。一巡の後、再び矢を放つ』
まるで打ち寄せる波のような、一定のリズムで繰り返されるエルフの攻撃。
攻撃を終えた弓兵が宮殿前で左右に分かれ、光の道がグノーシスの群がる戦場へと一直線に降りていく。
『騎兵隊、突撃』
『騎兵隊、突撃』
生成された光の道の上を、光り輝く影のような馬に乗った巨大な騎士たちが、同じように光り輝く鳥や蝶々の群れを引き連れて無音で駆け抜け、立ち塞がるアルコーンの手を、足を、首を斬り飛ばしていく。
無数の星々と戦場の閃光がきらめく中で繰り広げられるエルフの戦いは、まるでおとぎ話かファンタジーの世界に迷い込んだかのような幻想的な光景だった。
『お、おおう……! 相変わらずエルフの戦い方には慣れないな。私はどうもあの幽霊のような戦い方を見ると恐怖を感じてしまう』
『彼らエルフは、我々ルミナス人のような情報生命体というわけでもない。おそらく、彼らはすでに半分は幽霊のようなものなのだろう。味方であることを光の灯火に感謝したいくらいだ』
『暢気にしゃべっている暇はないぞ! 宇宙を守る広さで言えば天の川銀河だけを守る彼らより、全宇宙を守る我々の方が圧倒的に広いのだからな!』
そしてそのエルフたちの攻撃を尻目に、光の巨人ルミナスもまた次々とアルコーンへと戦いを挑む。
先の戦いでユーリーがその攻撃を逸らされた、空間湾曲シールドはすでに太陽系統合軍が無力化している。
そうなればもはや戦いは単純な殴り合い。
純粋なエネルギーのぶつけ合いを得意とするルミナス人の華麗な体術と光線が、次々とアルコーンにダメージを与えていく。
『いけ! いけ! 死ねえええええっ!』
『ギャッギャッギャ!』
『ギャッギャッギャ!』
そしてこちらはマージオーク艦隊。
アルコーンの攻撃は次々とオークの戦艦もロボットもまとめて打ち砕いていくが、壊しても壊しても溢れ出すオーク艦隊の群れに取り付かれ、押し寄せる土砂崩れに押し潰されるようにして、アルコーンの手足が悲鳴を上げて引きちぎられていく。
『ギャーーハハハハ! さすが姐さんだぜぇ! 俺たちでもこの糞野郎共の動きを見失わねぇように、ちゃんとしたレーダーを作ってくれたんだからよぉ!』
『お頭ぁ! あそこにちょっとだけ壊れてる奴がいまさぁ!』
『ギャギャギャ! でかしたG2059! 弱ってる奴からガンガン殺せー! 行くぞ野郎共!』
怒濤の勢いでグノーシスへと襲いかかる三文明混合艦隊。
そしてそんな敵味方入り乱れる大乱戦の渦中を、青白い光の尾を引いて飛翔する純白い船影。三文明混合艦隊総旗艦――――LN.04CV_ラースタチカ。
『おやおや――――まさか私の祖国を蹂躙した上で生きて帰れるとでも? 当然――――ここで皆殺しですよッ!』
ラースタチカの右側面、クラリカが駆る三顔のTW――トリグラフが、その背に装備したキノコの傘のようなパーツを大きく展開する。
するとそこから直径1mほどの小型の機器が次々と辺り一面に散布され、クラリカの意思に忠実に従って一瞬で広範囲のグノーシス艦隊を包囲する。
『死ね! クソ野郎!』
それは、クラリカの憤怒を乗せた一撃だった。
まるで目の前にもう一つの太陽が出現したかのような、焦熱と閃光の渦。
クラリカの持つ神域の空間認識能力は、数百キロに及ぶ広大な戦場でグノーシスのみを正確に選別。選別されたグノーシスの機体全てに、数十億度にも達する粛正の炎を灯したのだ。
『思い知りましたかッ! 我が同志たちの受けた痛み――――その命を持って償うがいいッ!』
『う、うわぁ…………!? これ……クラリカさんがとっても怒ってるのが僕にも伝わってきますっ!』
『なんと恐ろしい! 世界の終わりとはきっとこのような光景に違いない!』
『おいクラリカ! ちゃんと俺の分も残しておけよ!?』
『アッチチチチ! 熱いっ! こんなに離れてるのに凄く熱いんだけどそれ!? 乙女の柔肌になにすんのさ!?』
炸裂した極大の火球の照り返しを受けながら、『グッ!』と拳を握りしめてガッツポーズするトリグラフとクラリカ。
ラースタチカの周囲に迫るアルコーンと交戦を続ける他の二機と一人も、そのまばゆい光に驚きの声を上げた。そして――――
「戦況は私たちに有利です! 12秒前の時点で、彼我の損耗比率8:2!」
「いいだろう。予想以上にグノーシスの抵抗が弱い。どうやら、彼らは本当に太陽系内部で超兵器を使うつもりはないようだね――――」
周辺で炸裂する戦火の光に照らされ、ラースタチカのブリッジに座るラエルノアはふむと吐息を漏らし、思案するようにその足を組みかえる。
「ミナト、ユーリー。君たち二人に頼みがある。ティオとクラリカはそのままラースタチカ周辺で警戒を続けてくれ」
『おう! なんだラエル!?』
「君たち二人で、あのグノーシスの巨大戦艦の内部に突入して欲しいんだ。頼めるかな?」
『あー! それゲームとか映画で良く見るやつー! 細くて長ーい一本道をまっすぐ飛んで、最後には敵のエンジンをボーンって壊してエンディングになるんでしょ?』
「悪いけど、今回はそういうのじゃないよ。このままあの船を真空崩壊砲で完全に消し飛ばしてもいいんだけど、その前にぜひ確かめておきたいことがあってね。きっと――――とても危険な任務になるだろう」
ミナトとユーリに直接そう伝えたラエルノアは、淡々と、しかし一切の嘘偽りのない表情でそう伝えた。
『へっ! 俺を誰だと思ってやがる――――! 俺は勇者ミナトだ! 俺に不可能はねぇ!』
『はいはーい! 私も全然いけるよー! もしかしたらあいつらの親玉と戦えるかもしれないし、それにそういうのって凄くおいしーからねー!』
「わかった。引き受けてくれて感謝するよ二人とも。では、今から目標座標を送る――――くれぐれも無理はしないようにね」
命がけとなるであろうラエルノアの頼みに、力強い声で応じるミナトとユーリー。
ラエルノアは静かに目礼し、二人に感謝の意を伝えた――――。
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