脱出ボタン転生

異世界転生したら脱出ボタンだった件
ここのえ九護
ここのえ九護

破滅の降臨

公開日時: 2021年9月2日(木) 10:02
文字数:2,193


 太陽系連合。

 

 約三百年前。天の川銀河系中心から来訪したエルフ文明、ミアス・リューンからの技術供与を受けた人類は、その活動圏を太陽系の外へと広げた。


 貪欲な技術革新と尽きることのない好奇心を武器に、今では五つの恒星系を植民星系とすることに成功。


 所属する一部の艦隊は天の川銀河からアンドロメダ銀河、さらにはその先の銀河団へと調査を開始するまでに勢力を拡大していた。


 しかし――――。


『反物質加速粒子砲、全艦隊一斉射! 聞く耳もたぬ蛮族共を太陽系に踏み込ませるな!』


『反物質機雷散布開始! 味方識別良好!』


『TW隊、全機突撃! ボール隊は敵艦隊の迎撃に当たれ!』


 漆黒の宇宙に、無数の戦艦と機動兵器が放つ閃光が瞬く。


 ここは太陽系の最も外側。

 太陽から放出された強力な太陽風が届く限界地点、ヘリオポーズ宙域。


 そしてそのヘリオポーズに展開するこの艦隊群こそ、太陽系連合統合軍主力艦隊である。その艦隊総数は数万隻を超え、同じように万を超えるTWタイタンズ・ウェポンが随伴する。


 太陽からも、地球からも遠く離れたこの宙域では今も激しい艦隊戦が行われていた。青と白に塗り分けられた流線形の太陽系艦隊が、その各部から次々とミサイルを撃ち放ち、解放された砲塔から虹色のエネルギーを放出する。


 巨大な人型機動兵器であるTWが、太陽系艦隊からの攻撃を縫うようにして漆黒の装甲を持つ敵艦隊に肉薄し、次々と撃破していく。


 今この時、太陽系はその球状に広がるヘリオポーズの各方面から一斉に攻撃を受けていた。


 少なく見積もっても敵の総力は数十万を超え、太陽系の防衛に当たる統合軍とほぼ同数と見られている。


 宇宙空間での防衛戦は過酷だ。


 あまりにも広大すぎるため、敵がどこからやってくるのかを察知することも。

 察知したとしても、的確にその場所に戦力を集約させることも難しい。


 その兵力のほとんど全てを太陽系全域に拡散させ、敵を見つければ即座に潰す。

 それはまるで、湧き出る大量の虫を潰して回るような過酷な戦いだった。


『よし! この宙域の敵艦隊の壊滅を確認!』


『はははっ! こいつら、確かに数は多いがそこまで強くはないな! これならオーク共の方がまだ歯ごたえがあるくらいだ!』


 しかし太陽系連合にとって幸いなことは、迫り来る敵艦隊がそれほど高度な技術を用いていなかったことだ。


 太陽系連合の兵器が採用する反物質による破壊兵器は軒並み有効であり、敵艦隊が用いる荷電粒子砲は太陽系連合の装甲に深刻なダメージを与えなかった。


 太陽系への攻撃が始まってから数週間。太陽系統合軍の間にも、敵軍恐るるに足らずという認識が徐々に広がり始めていた。だが、しかし――――!


『これは――――!? 亜空間レーダーに反応――――波長強度数万の重力震観測! 正体不明物体が、この場に多数ワープアウトしてきます!』


『なんだと――――!?』


 漆黒の艦隊を撃破し、弛緩した空気が流れた太陽系艦隊に緊張が走る。


 たった今倒した艦隊の残骸が、湾曲した宇宙空間の渦に飲み込まる。


 そしてその渦の向こう側。灰褐色の装甲を持つ全長数万キロにも及ぶ超巨大戦艦と、多数の悪魔じみた輪郭を持つ人型の機動兵器が出現したのだ。


『な……なんだ、あれは……っ!? なんなのだあれはッ!? 今まで我々が相手をしていた勢力とは違うのか!?』


『じ、時空振動、収まりません! こちら側の次元浸透エネルギーまで、あの巨大戦艦に吸いこまれています――――!』


『退避だ――――! 全軍、全火力を前方の敵軍に集中させつつ後方退避! 敵軍の本隊を確認したと連絡を――――!』


 数百隻を超える太陽系統合軍の前に突如として出現した、惑星にも匹敵する巨大さの戦艦


 その戦艦がただそこに存在するだけで周囲の光が歪み、力場が狂う。

 防御機構の脆弱な何機かのTWは、ただその戦艦が現れたことによる余波だけで火花を散らして爆発四散した。そして――――


『――――我らはグノーシス。我らの波長を受ける全ての者に告げる。我らはグノーシス。偉大なる創造主によって生み出された結末の文明』


 辺り一帯全ての宙域にその音は響いた。


 グノーシス。


 この時と僅かに日時を前後して、太陽系連合最強の宇宙戦艦であるラースタチカが、死力を尽くしてようやく一機撃破することに成功した、破滅の存在。


 その破滅の存在が今、母なる故郷を守る太陽系統合軍の前に大挙して現れたのだ。


『グノーシス……だと……!? データにはない、未知の異星文明…………!?』


『滅びよ、旧世代。創造主の残した最後の種は我らグノーシス。貴様らではない

 

『な――――っ!?』


 瞬間、その場に現れたグノーシス艦隊から一斉に赤黒い閃光が奔った。


 その光芒は一瞬にして太陽系統合軍の艦隊も、TWも、全てを飲み込んで漆黒の宇宙を照らすと、軌道上にあった全てを跡形もなく消滅させて静寂をもたらした。


 超巨大戦艦の出現から一分と経たぬうちに、数万もの命が闇の中に消えたのだ。


『――――我らはグノーシス。偉大なる創造主の後継者にして最高傑作。貴様らのような惰弱な者共が、最後の種であるはずがない――――!』


 戦艦から響くのは怒りすら感じさせる音だった。


 全てを消し飛ばして進む超巨大戦艦の周囲を、灰褐色の八条の翼を持った人型機動兵器が何百という編隊を組んで飛翔する。


 ついにその姿を現わしたグノーシスの本隊は、遙か彼方に見える蒼い星にその先端を向けると、ゆっくりと加速を始めるのであった――――。



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