『遅れるんじゃねぇぞユーリー!』
『そっちこそ! 前に行きすぎて勝手に死なないようにねー!』
グノーシス超巨大戦艦。
その全長は土星直径の半分を超える。
ラースタチカの地点から見ても視界の半分を覆い尽くすほどの巨大さだったが、戦場を切り裂いて接近を試みたミナトとユーリーにとっては、もはや眼前に迫る果てのない壁そのものである。
『邪魔だッ! 死にたくないなら道をあけやがれッ!』
その純白のマントを翻し、疾走するクルースニクの機影が閃光の粒子となってぼやける。そしてそれと同時、巨大戦艦の至近を護衛していた無数の自律型ドローンの群れが一瞬にして切り刻まれ、跡形もなく消滅する。
『はいはーい! もう君たちのバリアとかは見切ってるから! 早くもっと強いの出さないと終わっちゃうよー?』
さらに別方向から二人めがけて熱線を放つドローン。
しかしそれらのドローンもまた、今度はユーリーの放った小型の手裏剣型の光弾によって次々と打ち抜かれ、爆発四散した。
この巨大戦艦付近には太陽系連合が施した空間湾曲シールドを阻害する装置が散布されていない。ドローンも、戦艦そのものも、共にグノーシスの誇るシールドは健在だ。
しかしすでにラエルノアによって改修を受けたクルースニクはもとより、あの手痛い敗北から新たなる修練を積んだユーリーもまた、グノーシスのシールドを容易く破砕可能となっていた。
『あ、ミナト! ラエルから言われた場所ってそろそろじゃないかなー?』
『おう! こっちでも確認した! いちいち入り口なんざ探してられねぇ……ぶち抜くぞ!』
『あははー! こーゆー時は気が合うねー!』
ほぼ光速に達するほどの速度で飛翔するクルースニクとユーリーは、その速度を維持したまま、無数の構造物が折り重なるある一点めがけて一気に飛翔する。
そこでラエルノアから指定された地点が近いことを確認した二人は、その地点からほど近い壁面めがけ、両者の持つ最大火力を解き放つ。
『すぅぅ――――……! はぁぁ――――ッ! 必殺! イドラディウム光線!』
そのしなやかな腕を一度上下へと大きく広げ、緑と赤に輝く謎のエネルギーを胸部へと集約させるユーリー。そして次の瞬間、ユーリーは自身の腕の前にその両腕をX字に交差させ、緑赤の破壊エネルギーを壁面へと叩き付ける。
『反物質フェザー全方位展開――――! ぶち抜けっ! クルースニク!』
そしてユーリーの放ったエネルギーの波に寄り添うようにして、機体の周囲に羽状の輝くビットを無数に浮遊させたクルースニクが、二刀を構えて壁面へと突き進んだ。
凄まじい閃光と爆発の炎が一面に巻き起こる。
強固な空間湾曲シールドが悲鳴を上げ、ラースタチカから受けた真空崩壊砲によって傷ついていた船体にさらなる大穴を開ける。
かつて、地球上に存在した最も威力の高い核融合爆弾すら遙かに上回る破砕がその一点に集約され、地球そのものを飲み込みかねないほどの大きさの火球がグノーシスの巨大戦艦を照らした。
そしてその閃光の向こう。
二条の光の尾を引いた一機と一人は自らの発生させた破壊痕には目もくれず、一直線に光の渦へと突入する。
『へっ! いつもより気合い入ってるじゃねぇかユーリー!』
『まーねー! いつもなら敵と殴り合ってた方が楽しいんだけど、火星は私の故郷だからさ。私もたまにはルミナス人っぽく、何かを守るために戦うって感じかな?』
『故郷? よくわかんねぇが、お前ってルミナス人だけど火星生まれなのか?』
二人の攻撃によって直径数百キロにも及ぶ大穴を開けられたグノーシスの巨大戦艦。その穴の中に続くトンネル状の通路を、ラエルノアの指示通りに飛翔する二人。
『あはは、違うよー! ユーリー・ファンは正真正銘、火星生まれの太陽系人。私と一つになってるルミナス人のカレンが、私にルミナスの力を貸してくれてるの。私が変身するとき封印解放!って言ってるでしょ? あれがカレンを起こす合い言葉ってわけ!』
『ま、マジかよ!? お……俺も変身してぇ! 俺もルミナス人と合体したら変身できるのか!?』
『えー? ロボットだけで我慢しときなよー! しかもミナトは異世界だと勇者もやってるんでしょ? それでさらに変身もしたいなんて、君ってほんっとーに欲張りだねー?』
『うるせぇ! 俺はロボットにも乗りたいし変身もしたいんだよ! どっちも格好いいじゃねえかッ!』
『はいはい――――そろそろ目的地につくよっ!』
戦艦の外側ではあれだけの猛攻を受けたにも関わらず、内部へと突入してからの抵抗は一切なかった。
それどころか、これほどの巨大さを誇る構造物だというのに動く者も、光を発する物体すら存在しない。
本来、これほどの巨大質量体が存在すれば、それはたとえ人工物であろうと自身の持つ重力によって中心に行けば行くほど重く、熱くなってしまう。
しかし今。ミナトとユーリーはそうなるはずの船体中央へと向かっているにも関わらず、一切の圧力も高温も感じることはなかった。そして――――
『――――――――何か、ご用ですか?』
『っ!? なんだ――――こりゃ!?』
地球をざっと数周はぐるりと回れる距離を飛んだ先。
突如として開けた視界の先には、途轍もない広大さのホール――――大きさで言えば、日本列島がすっぽりと収まるほどの巨大な球状のホールが広がっていた。
見れば、ホールの内側壁面には360度。
無数の高層ビル群がびっしりと張り付いている。
その町並みに人影を確認することはできなかったが、僅かに点滅する光や、ビルの合間を縫う小さな車や列車の姿から、なんらかの活動がこのどこまでも広がるホールの内側で営まれていることは見て取れた。
『ここは外界とは無縁の完成された本当の世界――――この地を汚すというのなら、あなた方の住む世界に神の怒りが下ることになるでしょう』
『ここが――――お前らの住んでる場所、なのか!? 街ごと太陽系に攻めてきてたってのか!?』
『そんなことしたら、今みたいなピンチになった時にここにいる人もみんな死んじゃうんじゃないー? 流石の私もあんまりそういうのは好きじゃないなー!』
『この地を訪れたのは、我らが神の願いを叶えるため。そのためならば、我々グノーシスはどこにでも赴く――――』
上下から前後左右、全ての境界が曖昧となった巨大戦艦の中心点。
太陽のような輝きを灯した深奥点から、先ほど太陽系連合と交渉に望んでいたキアという少女の声が響いていた。しかし――――
『もういいよ――――キア。せっかくここまで来てくれたんだ。ここからはボクがこの人たちと話すよ』
その広大な空間全てに、キアとは違う幼さを感じる少年のような声が響いた。
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