賑やかで人として時間に追われる街から離れ、田舎の田園風景が広がる緑ヶ森町。
人里から離れたこの場所で人間と妖怪、神様が共に寄り添い暮らしていた。
──20年間猫として生きて、猫又になったぶちお。
尻尾も二本となり、さらに二本足で歩き、人間の言葉を交わし、今まで育ててくれた人間の家族に感謝するぶちお。
彼は様々な妖怪と出会い、行動範囲を広めるため、車の免許を取得。
さらにイギリスで妖怪の社長と番組の下調べの仕事をしたりと、猫の手も借りたい忙しさとはこのことだろう。
──一方である日、突然行方不明になった父親を待ち続け、日々懸命で前向きに生きる少女、物語のヒロインである小学三年生、むつみにも注目したい。
少女とは思えない強さに行動力やひたむきさ。
常に真っ直ぐな彼女にも心が打たれる。
何が彼女をこうまでして駆り立てるのか、
全ては大好きな相手のためだろう。
──さらにこの町を昔から守ってきたカラス天狗のジロー。
一見のどかで穏やかな言動でもある彼は、遠い過去からの辛い現実を叩きつけられていた。
むつみと仲が良く、親友みたいな関係でもあり、己の過去と心で向き合うためにむつみに気を遣うが、秘密主義なジローの行為が逆にトラブルの火種のもとに……。
天狗に人を思いやる心がないのかと、自身を戒めながらも人間との共存を願うのだった……。
──Awesome City ClubソロプロジェクトのPiiによるオープニング曲『お化けひまわり』はのどかなスローテンポのメロディーに、緑豊かな緑ヶ森町の風景を上手く表現。
歌詞と映像の内容が綺麗にマッチしており、女性ボーカルも温かみのある癒し系の楽曲だ。
エンディング曲はSNSでも人気な10代の女性シンガー、久保あおいによる『イロノナカ』。
メトロノームのような秒針の音に合わせて、ピアノの音色が流れ、主題歌以上にテンポが緩やかで癒やされる。
歌おうとしても中々上手く歌えないがフレーズで、ロングトーンなボーカルの音楽で締める。
──この物語は原作コミック同様、ほのぼのとした絵柄にお子様向けのキッズアニメを彷彿させるが、話数を重ねるごとにシリアスな雰囲気が漂う。
──平行世界に行ってきた化け狐のお姉さん、百合による時空間転送により、この世界には妖怪がいない現実世界があったのは衝撃だった。
てっきり緑ヶ森町はファンタジーの世界だと思っていたからだ。
──能天気に見せかけたジローの過去も衝撃である。
古いカメラをきっかけに愛する女性を事故で亡くし、彼女の子供さえも事故で失い、自身の心を殻に閉じ込めていたジロー。
それにより潰されるむつみとの良好な関係も……。
──ぶちおを取り囲む家族の心境もシビアだ。
親に対して素直すぎるぶちおの心の闇に気付き、家族は何とかしようと思う。
その家族の好意に甘えながらも、まださびしさを知らないぶちおは一人で悩み、自分よりも先立つ家族のことで複雑な気持ちとなる……。
──このようにこのアニメには家族との微笑ましいドラマがある中、泣けるシーンがあらゆる所にある。
しかも一度シリアスなシーンになったらとことんシリアスで繋げ、とても子供が平然と観れるような内容ではない。
下手をするとパートが終わるまで続き、そのままエンディングシーンになることもあり、次回まで救いは無しと恐るべきアニメでもある。
──初話から最終話まで穏やかに過ぎていくほのぼのアニメかと思いきや、中盤以降から残酷な描写が続く作風に胸をえぐらえる感触。
絵柄からして似たようなアニメの『メイドインアビス』を思い浮かべてしまう。
メイドインアビスと比べ、この作品には残虐なシーンが少ないのが救いである。
俗に言うトラウマになりそうな鬱アニメの部類に入る、この作品をどう受け止めるか。
それは君も受け止め方次第によって捉え方が変わってくるだろう。
──人間と妖怪との暮らしの関係に潜む、心を揺さぶられる闇……。
これはただのキッズアニメではない。
人として生きるとは、死ぬことの本当の意味とは……。
家族、恋人、友達を通じて、人間と暮らす妖怪との本当の絆とは……。
人よりも長く生を宿す妖怪との共存で得られる温もりとは何なのか……。
作品を観るごとに傷付き、思いもよらないことに納得させられ、ハンカチがかかせない感涙の物語でもある。
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