平凡で普通の生活をして、互いに助け合う小市民として生きることを約束した小鳩常悟郎と、中学生の頃から知り合いの同級生でもある女の子、小佐内ゆき。
過去に知恵働きとして推理活動で失敗した常悟郎は小市民を目指しながらも、互恵の関係を小佐内と秘密裏に結び、高校生への階段を上ることとなった。
──合格発表当日、怖い表情で近付き、小学校での知り合いであった堂島健吾が現れる。
今年も同じ学校だなと無愛想に挨拶を交わすが、常悟郎が意味もなくこの学校を選ぶはずがないと……。
素敵な友達を持ったなと呟いた健吾と別れたその後、合格したご褒美として小佐内から、甘いものを食べに行かないと誘われ、小洒落た喫茶店に向かう。
そこで堂島とのきっかけのことや春季限定のいちごタルトを何とかゲットしたいと常悟郎に話しかけ、幸せそうにケーキを食べる甘党の小佐内。
──そんな束の間の平和を壊すように堂島から一本の通話が入る。
校内で女子が大切にしていたポシェットが無くなったので探すのを手伝ってくれと……。
知って知らずか、この二人の学園生活を邪魔するように事件やトラブルがことごとくやってくるのだ……。
──オープニングテーマはネットを中心に活動するEveによる『スイートメモリー』。
アコーディオンのような響きのキーボード音に、自転車を漕ぐ常悟郎と荷台に小佐内のペアという二人乗りから、引っ張られたようにタイトルが流れ、二人が化けた狼と狐の追いかけっこが空の果てで始まる。
アナログな秒針を刻む中、二匹がじゃれ合って大空での水辺を仲良く飛び交う。
エンディング曲はスリーピースロックバンドのammoによる『意解けない』。
実際の岐阜県の風景、バスや校内などに二次元のキャラが映り込むというクールなコラボ映像となっており、そこへタイトなドラムが混ざり、熱いロックサウンドが流れ込む。
常悟郎が生真面目な制服で小佐内のラフな私服と二人の性格を上手く表現している。
──このアニメの原作はあの『氷菓』に続く、春夏秋冬、全4部作人気推理小説となっており、今回は『春期限定いちごタルト事件』と『夏期限定トロピカルパフェ事件』からの二作品からとなっている。
ポシェットの盗難、自転車の盗難、ホットココアを作ったのに洗い物の形跡がない、テスト中に用具入れで花瓶が割れた、揚げパンのマスタード入りなどと、日常的な事件を常悟郎が首を突っ込んで推理する。
本作には人の命を左右する殺人事件などもなく、平凡な日常を描いた世界観はとても観やすく、実際にありそうな事件をモチーフにしているのも良い。
──キレもので頭が回る常悟郎が知恵働きはもうやめたと語る中、そっちの推理してる小鳩くんの方が楽しそうと語る小佐内さん。
確かに穏やかな小市民で過ごすことを約束したが、下手な嘘をつき、振る舞いまでは縛るつもりはないと……。
──だが、この物語は一番の重要な点を逃している。
下手すると一番の事件になりうる自転車盗難に関しての事件がスルー(後回しに)されているのだ。
そのスルー先がココア事件。
しかも丸まる一話分と、どうでもいいココア事件で話を収め、新しい自転車を買ってきて盗難事件をあやふやにしている。
細かいトリックなどには詳しく推理する常悟郎だったが、このような大きな展開になると内容が大雑把で妄想的な推理でもある。
女子の持ち物を取った時点で犯罪なのではとか、なぜ冷蔵庫にそれを……などという疑問も生まれるはずだ。
──推理中にキャラの心情を表してるのか、コロコロと背景などが変わるのもいただけなく、それにより気が散ってしまい、観ている方の集中力が欠けてしまう。
『氷菓』と同じような展開でパクリかと噂されたが、実は同じ原作者が描いたもので、それでこの程度の推理小説ならば……と一話二話切りされても不思議じゃないと思える内容でもある。
──小佐内のヒロイン像もちょっとズレている。
その小佐内がストレス発散のため、甘いものばかり食べてるのが不摂生だったり、自分の自転車を盗んだ泥棒に鬼のような怨念を抱くなど、ちょっとついていけない部分も。
可愛い女の子なら、何をしても許されるのだろうか……。
──しかし良い部分もある。
推理小説とは少し外れたライトノベルで描かれた物語は重苦しい推理小説が苦手な人でも観やすく、変に頭を捻らず、大まかなイメージも掴みやすい。
初見の放送は今いちだが、四話辺りから本当の面白さに気付くだけに誠に惜しい作品でもある。
物語が始まると自然体にワイドスクリーンでの映像になるので、短編映画を観ている雰囲気にもなるのも特長で、動きのある『化物語』のような感覚にもなる。
──中学の時のような推理を披露する小鳩くんと、何かある度に甘いものにすぐに逃げる小佐内さんの二人。
その二人が後悔しながらも、ごく平凡な小市民になることを諦めずに立ち塞がる敵と戦う。
推理小説なのに二人の心境が常にウルトラハイなアニメでもある……。
──アニメというより、実写ドラマを観てるような作品でもあり、濃密で難しい推理を求めない方、すなわちライトノベル好きなライトユーザーにもお勧めできる。
たまにはこんな風に気軽に観れる推理作品もありだなと思わせてくれるはずだ。
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