混濁の闇夜に染まり、パトカーのサイレンが鳴り響く、摩天楼の高速道路を駆ける2台のバイク。
背後から忍び寄る蜘蛛型の怪異に対し、ライダーが運転する後部座席で魔法弾の詠唱をする越谷仁美。
でっけえもんは金になる、でっけえことは良いことだと口ずさむ彼女は誰もが憧れる高給取りの魔法少女という職種に勤めていた。
業務内容は主に自然災害で現れた怪異の駆除。
弱小の中小企業に混じり、安い賃金でどんなトラブルをも解決するため、このような危険な任務も易易と引き受けていたのだった。
──そんな景色とは裏腹に、今日も就職活動に精を出す桜木カナ。
努力家な女子大生の彼女は色々な会社の面接を受けるが、自分の本心が伝わらないとけなされ、15社を受けてもどの企業でも採用されず、次第に自信を無くしていた。
──次の面接会場は大手有名メーカーの金融業。
いつものように事務的に面接を受けていたカナだったが、室内が真冬のように寒い場所だったので、さっさと不採用にして家で寝かせてと、別の意味で前向きになるカナ。
その極寒の原因が怪異の仕業と知り、カナは会場にて氷で出来た怪異の騒動に巻き込まれてしまう。
依頼を頼まれた越谷が駆け付けた頃には、怪異は想像以上に力をつけており、面接室は巨大な冷凍庫と化していた。
面倒だったせいか、怪異調査も受けなかった会社の体制にも呆れたが、長年放置していて力を蓄えていたせいか、あまりもの怪異の強さに最低でも二人以上じゃないと、上手く退治すらも出来ないと苦悩する越谷。
そこで反撃されないように魔法弾を連打する作戦を練るが、一定時間が過ぎると弾切れになり、充電に時間がかかるため、周囲にいる一般人の一人に協力をお願いする。
誰もが嫌がる流れの中、隣にいたカナが越谷のサポートをするために前線に赴いた。
将来安泰な大手金融業を蹴るとは飛んだ大馬鹿者だと言う一般人の発言も無視して……。
──越谷の指示に従い、手渡されたタブレット端末を巧みに操作しながらも、カナは怪異の攻撃パターンを見抜き、魔法弾の充電確認、新規魔法弾の使用と越谷の援護に加わり、見事に怪異を退治してしまう。
その腕前を見込んだ越谷はカナを事務所に連れて帰り、新人社長の重本浩司を呼ぶが、恰好が魔法少女の服装で登場し、免疫のないカナの度肝を抜いてしまうのだ。
ブラック企業どころか、長身の怪しいコスプレおっさんの変質者が近寄り、怯える女の子に手を差し伸べす要塞。
カナは真っ当な職に就けるのだろうか……。
──主題歌は男性シンガーソングライターまふまふによる『オーダーメイド』。
ギターを主軸にした打ち込みのロックサウンドに、CGで出来た市街地を背にほうきで空を舞う越谷とカナ。
素人だけにほうきを操るのに苦戦しながらも街を突き進むカナ。
最先端の魔法アイテムでもあるほうきが使いづらいと呟きながらも丁寧に操るベテラン越谷の腕前。
相反する二人の動きが不思議なくらいに映像に溶け込んでいる。
ボーカルも力強くて凛としており、肺で息をする息遣いが伝わってくるセクシーでパワフルな高音の歌声。
この狂った世界を救えるのは君しかない。
悲しくもないのに涙が止まらないのは温かい職場と出会えたから。
心のドアをノックして手招く方へと歌詞も、魔法少女のカナの心情を丁寧に表現している。
エンディング曲はsyudouの『ワークアウト』だ。
Adoのヒット曲『うっせぇわ』の作詞作曲をしたシンガーソングライターでボカロPでもある。
仕事とは精一杯戦って精一杯輝くこと。
常に忙しいのを意図した作りで見えない誰かと戦いながら走る絵面。
出口に向かって必死に走る従業員たちの顔つきが妙に怖い。
──この物語は従来の魔法少女に株式会社を合わせた、今までにない画期的な内容でもあり、魔法の発動時や移動ホウキの移動にエクセルやプログラミング用語を口に出したり、怪異を圧縮してUSBメモリーに封印したりと魔法少女とIT企業の仕事内容を組み込んだこだわりな内容である。
年季の入った木の枝に跨って、黒いローブに身を纏い、禍々しい呪文を唱えるというファンタジー設定もなし。
時代は魔法少女は夢物語から、定番の職種となっており、近代化した魔法少女の職業作品というべきか。
物語の設定が半端なく仕上がっており、単なるお仕事アニメの領域を超えている。
──社長の重本が魔法少女のコスプレをして出てくるのも衝撃的だ。
だがコスプレしているのにも彼なりの深い理由があるらしく、お惚けのように見えて、外回りではきちんとスーツに袖を通す律儀で礼儀正しい人でもある。
社長曰く『新人を信じなくてはベンチャーは名乗れん』と初出勤のカナに自信を持たせたり、何よりも優しい存在で従業員を大事にし、常に気遣っている。
──他にも個性的な従業員ばかりだ。
マニアックでオタクだがエンジニアの腕は立つ二子山和央、
持ち前の笑顔でお客を虜にする元ホストでもある営業マンの翠川楓たちによる、明るく前向きでハートフルな職場環境も魅力的だ。
そうやって社長に強い決意についてくる従業員たち。
いつ死を分かつか分からない現場でも、そっと背中を押してくれる仲間たちの支えもあり、この弱小企業は今日まで戦い抜いて生き延びてきたのだ。
──国内に無数にあるベンチャー企業+魔法少女という独創的なイメージを持ち、次にくるマンガ大賞のWeb版にも選ばれた本作。
少年漫画にありがちな時と共に成長していくキャラクター像などと、キャラに対しての心情も丁寧に表現している隙のない作り込み。
──この手のジャンルには欠かせない魔法少女に変身するシーンも鮮やかなムービーが流れ、定番の決め台詞を言う。
──魔法少女といえば、萌えで可愛らしいキャラでオタクなイメージを思い浮かべるが、この作品はそれらを払拭した万人向けなアニメであり、気兼ねなく観れるのもポイントだ。
子供にとっては新しい魔法少女が怪異との手汗握るバトルにワクワクドキドキ。
大人が観れば、自身の職場と比べつつ、魔法少女という仕事内容に共感するだろう。
──寂れたビルの一軒に拠点を置く株式会社マジルミエ。
今日も怪異を退治するため、魔法少女がほうきで街中を飛び回る──。
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