人間の姿からいつでも三本足の烏になれる一族、八咫烏が住む異世界、その場所は山内。
急遽、美男子の若宮の世話役をすることになった雪哉が皇太子の座を巡って色々とトラブルに遭う物語である。
──早速、若宮の世話係担当となった雪哉は部屋の掃除や書物に巻物の整理、庭にある植物の水やりなどを留守中に任せられるが、あまりにも仕事量が多過ぎるか、若宮が帰ってくるまで仕事が終わらない毎日……。
若宮はこの程度の仕事もできないようでは、世話役には向いてないと言われ、雪哉は今までの世話係が続かない理由がこれだったのかと気付く。
負けず嫌いの雪哉はこれでもかと若宮に思い知らせてやると気合いを入れ、計算して作業をし、何とか業務を日中に終わらせる。
ついでに時間が余ったので若宮の仕事でもある書物の作業もしてやろうかと思ったが、それは若宮がわざと置いていた罠でもあり、今までの相手は人の仕事さえもやっていたと若宮本人は苦々しい表情をしていた……。
──一方で桜花宮という四季の名を彩る東西南北、四つの屋敷を巡り、若宮の后になるべく、日々女としての腕を磨く四人の女性たち。
あせび、真赭の薄、白珠、浜木綿。
四人とも絶世の美人だが、一癖も二癖もある女性陣たちはお互いにライバル視しており、若宮を自身のものにしたく、色々と動きを進めていた。
──しかし毎年の恒例行事でもある七夕の日でも若宮は面倒くさい……と現れず、突如弁解しに現れた雪哉を目の前にしても動じずに逆に追い詰められ、雪哉は烏となって逃げ帰ってしまう。
四人の女性たちは何を想い、一人しか選ばれない愛しい殿方の何に想いを馳せるのか……。
──オープニングナンバーはスリーピースバンドSaucy Dogによる『Poi』による、声が独特なゴリ押しのロックチューン。
キャラの目元や口元のアップ、屋敷の外装や内装を離れたカメラワークで回したりと、物語の深みに重心を置き、動きはあまりないシーンだが、本作のあざとい雰囲気を思うがままに表している。
エンディング曲は民謡音楽のように笛や琴、ピアノの音色がシンプルに鳴り、厳しい運命を生き抜く一途な願いの歌詞をなぞる『とこしえ』というタイトルのバラードソング。
ファンタジー作曲家の代名詞でもある、志方あきほ氏が作詞、作曲、ボーカルを担当している。
彼女お得意のコーラスワークの完成度も何とも言えない。
──元は最年少として松本清張賞を取り、一気に人気作家となった小説家による『烏シリーズ』から作品であり、アニメのわりにはストーリーや作画、構成などのクオリティーが半端ない出来栄えで、アニメの枠を越えた大河ファンタジーとしても注目されている本作。
キャラクターの相関図もしっかりしており、序盤から様々な相手が登場し、キャラ一人一人が強い個性と意志を持ち、生き生きと動くさま。
ここまで人間関係に重点を置いたアニメも珍しい。
あの名作、ジョジョの奇妙な冒険の相関図を思い出すくらいだ。
──アニメは子供が観るもののイメージを見事に覆した内容でもあり、ギラつく刀を振るえば、血しぶきも派手に舞う大人向けのアニメでもある。
また原作を知らないと初見だけでは内容が意味不明で色々と難しい単語もちらほらあり、近習に入内や金烏などがその一例である。
──皇太子の后を巡っての女性たちのドロドロとした争いも痛々しいほどに生々しく、リアルな表現が怖いほど伝わってくる。
恋は変になる心と綴り、恋をするとその人への想いで一方的になり、部外者が止めようとも周りが見えず……。
人を愛する恋とはこんなにも人を変えるのかと狂気を覚えるほどだ。
──NHKからの放送であり、CMが入らず、AからBパートに分けた演出もなく、アニメのようで、まるで短編の昼ドラを見ているような感覚にもなる。
アニメさながらの20分の尺の内容もあっという間である。
──この作品は男性視点と女性視点に丁寧にパートが分かれ、美男美女が登場する色物の内容と思いきや、韓流ドラマのようなストーリーや設定で圧倒的に女性陣のファンが多い。
原作を女性作家が担当してるからだろうか。
そんなBLのような雰囲気でちょっと取っつきにくい物語ではあるが、色々と細かく伏線が張り巡らされ、ミステリーさえも含めた内容は観るものを中毒にさせるだろう。
烏と人との不思議な関係と繋がりを描いた、近年稀に見ない、一風変わった大河ファンタジーでもある。
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