「朝食は下に用意してありますので、着替えが終わったら来てくださいね」
と言い残して、エマさんは部屋から出ていった。
そう言えば、私はまだパジャマ姿のままだった。目が覚めてからのゴタゴタで、すっかり忘れていた。
部屋の中もじっくり調べたかったが、今は身支度を整えることを優先すべきだろう。部屋を調べるのは帰ってからにすればいい。
まずは顔を洗って髪を梳かさないと。
私は鏡の前に立つ。するとそこにはやはり『聖女伝説』の主人公がいた。
(本当に転生したんだ……)
私はまじまじと鏡に映る自分の姿を見た。
『聖女伝説』の主人公は、プレイヤーが感情移入しやすいよう、容姿・家柄・成績等々すべてが平均値とされている。いわゆるどこにでもいる普通の女子高生という設定だ。
しかしそこはゲームの世界。平均値なのはあくまでゲームの世界の話であって、私が元いた世界の基準から見たら、主人公は相当かわいい容姿をしている。クラス?いや、学校で一番かわいいレベルだ。実際にこんなかわいい子がいたら、街でスカウトされまくるんじゃないか? 主人公の中身である私がほれぼれしてしまう。
ゆるいカールがかったセミロングの金髪、シミもそばかすもない人形のような白い肌、吸い込まれてしまいそうな菫色の大きな瞳……。かわいいなんてもんじゃない、絶世の美少女である。
次に着替えだ。私がクローゼットを開けると、あの服があった。
あの服とは、ゲーム内で主人公が来ている制服のことだ。主人公は女子高生という設定なので、在籍している高校の制服を着ている。
主人公が通っている高校の制服は、ゲームの世界じゃなければ、コスプレ衣装にしか見えない。デザインが凝っているうえに脱ぎ着が面倒くさい。その上、細くてかわいい子しか似合わない。
(何コレ、細っ!)
実際に手に取ってみると、思ったよりもずっと細身だ。残念なことに、制服の生地はストレッチ素材ではないので、無理して身体を押し込めようものなら生地が破れてしまうだろう。
意を決して、私は恐る恐る制服を身に付ける。
(よかった~、入った)
さすがゲームの世界、ありえない細さの洋服が難なく入った。どんだけ細いんだ、主人公。
入るには入ったが、このウエストの細さだと、オレンジジュースを一杯飲んだだけでもウエストがパンパンになりそうだ。
これから朝食だっていうのに、大丈夫だろうか……?
「グレイス様、大丈夫ですか?」
エマさんがドアの外から声をかけてきた。
鏡の前で自分の顔に見惚れ、制服を身に付けるのに悪戦苦闘していたら、かなりの時間が経過してしまったらしい。
私はドアを開けて廊下に出た。
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