楽勝なはずの乙女ゲームの世界に聖女候補として転生しましたが、攻略に失敗してみんなに嫌われたので、生きていくためにカレー屋で頂点目指します!

林 真帆
林 真帆

どこが平凡な女子高生……?

公開日時: 2021年8月2日(月) 21:05
更新日時: 2021年8月8日(日) 21:23
文字数:1,069

「朝食は下に用意してありますので、着替えが終わったら来てくださいね」

と言い残して、エマさんは部屋から出ていった。

 そう言えば、私はまだパジャマ姿のままだった。目が覚めてからのゴタゴタで、すっかり忘れていた。

 部屋の中もじっくり調べたかったが、今は身支度を整えることを優先すべきだろう。部屋を調べるのは帰ってからにすればいい。

 まずは顔を洗って髪を梳かさないと。

 

 私は鏡の前に立つ。するとそこにはやはり『聖女伝説』の主人公がいた。

(本当に転生したんだ……)

 私はまじまじと鏡に映る自分の姿を見た。

 『聖女伝説』の主人公は、プレイヤーが感情移入しやすいよう、容姿・家柄・成績等々すべてが平均値とされている。いわゆるどこにでもいる普通の女子高生という設定だ。

 しかしそこはゲームの世界。平均値なのはあくまでゲームの世界の話であって、私が元いた世界の基準から見たら、主人公は相当かわいい容姿をしている。クラス?いや、学校で一番かわいいレベルだ。実際にこんなかわいい子がいたら、街でスカウトされまくるんじゃないか? 主人公の中身である私がほれぼれしてしまう。

 ゆるいカールがかったセミロングの金髪、シミもそばかすもない人形のような白い肌、吸い込まれてしまいそうな菫色の大きな瞳……。かわいいなんてもんじゃない、絶世の美少女である。


 次に着替えだ。私がクローゼットを開けると、あの服があった。

 あの服とは、ゲーム内で主人公が来ている制服のことだ。主人公は女子高生という設定なので、在籍している高校の制服を着ている。

 主人公が通っている高校の制服は、ゲームの世界じゃなければ、コスプレ衣装にしか見えない。デザインが凝っているうえに脱ぎ着が面倒くさい。その上、細くてかわいい子しか似合わない。

(何コレ、細っ!)

 実際に手に取ってみると、思ったよりもずっと細身だ。残念なことに、制服の生地はストレッチ素材ではないので、無理して身体を押し込めようものなら生地が破れてしまうだろう。

 意を決して、私は恐る恐る制服を身に付ける。

(よかった~、入った)

 さすがゲームの世界、ありえない細さの洋服が難なく入った。どんだけ細いんだ、主人公。

 入るには入ったが、このウエストの細さだと、オレンジジュースを一杯飲んだだけでもウエストがパンパンになりそうだ。

 これから朝食だっていうのに、大丈夫だろうか……?


「グレイス様、大丈夫ですか?」

 エマさんがドアの外から声をかけてきた。

 鏡の前で自分の顔に見惚れ、制服を身に付けるのに悪戦苦闘していたら、かなりの時間が経過してしまったらしい。

 私はドアを開けて廊下に出た。

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